成果情報 亜麻仁油摂取による母乳を介した仔マウスにおけるアレルギー性皮膚炎の改善

成果情報

国立研究開発法人医薬・基盤・健康・栄養研究所
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  • 妊娠・授乳期のマウスが、オメガ3脂肪酸1)の一つであるαリノレン酸を豊富に含む亜麻仁(あまに)油を摂取することで、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されます。
  • 亜麻仁油を摂取した際に母乳中に増加する抗アレルギー性物質として、αリノレン酸からEPAを経由して産生されるオメガ3ドコサペンタエンサン(DPA)の14-ヒドロキシ化代謝物2)を同定しました。
  • オメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物は、免疫の司令塔として機能する形質細胞様樹状細胞3)において免疫を抑制する働きのあるTRAIL4)の発現を上昇させることで、T細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制した結果、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されることを見出しました。
  • 本研究によりマウスでの効果が証明されましたが、今後、ヒトでも同様の効果があるか確認することが必要です。将来的にオメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物を用いたアレルギー・炎症性疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

概要

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所ワクチン・アジュバント研究センターの國澤純センター長と平田宗一郎研究員、長竹貴広主任研究員らは、京都大学、理化学研究所、NTT東日本関東病院、東京大学との共同研究により、オメガ3脂肪酸が豊富な亜麻仁油を母マウスが摂取した際に、仔マウスのアレルギー性皮膚炎が抑制されるメカニズムを解明しました。

近年、アレルギー・炎症性疾患の患者数が増加傾向にあり、その要因として食事などの生活習慣とそれに伴う腸内環境の変化が注目されています。特に乳幼児期に発症するアレルギーに関し、妊娠・授乳期の食生活や母乳に含まれる成分の関与についてさまざまな指摘や推測がされてきましたが、実際の因果関係やメカニズムはほとんど分かっていませんでした。

本研究では、オメガ3脂肪酸の一つであるαリノレン酸を多く含む亜麻仁油を妊娠・授乳期のマウスに摂取することで、仔マウスのアレルギー性皮膚炎の発症を抑制できることを見出しました。母乳を作る場となる乳腺には他の臓器と異なるユニークな脂質代謝ネットワークが存在し、亜麻仁油を摂取することで、母乳中にオメガ3ドコサペンタエンサン(オメガ3 DPA)の14-ヒドロキシ化代謝物という抗アレルギー性物質が多く作られることが分かりました。この抗アレルギー性物質は母乳を介して仔マウスに移行し、免疫の司令塔として機能する形質細胞様樹状細胞に働きかけ、免疫反応を抑制する作用があるTRAILという分子の発現を誘導することで、T細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制し、その結果、アレルギー性皮膚炎を抑制することが分かりました。今後、本物質を用いたアレルギー・炎症疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

本研究成果は2月6日に『Allergy』にオンライン掲載されました。

背景

これまでに母親の食事や母乳の中のオメガ3脂肪酸が多いと、乳幼児期のアレルギーの発症率が低いことがコホート研究により報告されていました。しかし、母乳中のオメガ3脂肪酸が乳幼児アレルギーの発症を抑えるメカニズムはよく分かっていませんでした。

今回の研究成果

本研究では、オメガ3脂肪酸の一つであるαリノレン酸を多く含む亜麻仁油を妊娠・授乳期に摂取することで、生まれてくる仔マウスのアレルギーの発症を抑制できることを見出しました。母乳を作る場となる乳腺には他の臓器と異なるユニークな脂質代謝ネットワークが存在し、亜麻仁油を摂取することで母乳中にオメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物が増加し、抗アレルギー効果を示すことが分かりました。母乳を介して仔マウスに移行したオメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物は、免疫反応の司令塔とも言われる樹状細胞に働きかけ、免疫反応を抑制する作用があるTRAILという分子の発現を誘導することで、T細胞からの炎症性サイトカインの産生を抑制し、その結果、アレルギー性皮膚炎を抑制することが分かりました。本研究によりマウスでの効果が証明されましたが、今後、ヒトでも同様の効果があるか確認することが必要です。将来的には本物質を用いたアレルギー・炎症性疾患に対する新たな予防・改善・治療法の開発が期待されます。

図. 母体のオメガ3 DPA代謝と仔マウスアレルギー性皮膚炎の抑制
妊娠・授乳中に亜麻仁油を摂取することによって、母乳を介してオメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物が仔マウスに移行し、形質細胞様樹状細胞における免疫抑制分子TRAILの発現を誘導することで、アレルギー性皮膚炎が抑制されます。

特記事項

本研究は日本医療研究開発機構免疫アレルギー疾患実用化研究事業「高機能性脂質代謝物を用いたアレルギー性皮膚炎制御法の開発」(研究開発代表者:國澤純)の支援に加え、日本学術振興会、東京大学医科学研究所共同研究拠点、キャノン財団、公益財団法人小野医学研究財団、公益財団法人アステラス病態代謝研究会、公益財団法人ニッポンハム食の未来財団からの助成を受けて行われました。

用語解説

1)オメガ3脂肪酸:
ヒトを始めとする哺乳動物の体内では合成できない必須脂肪酸の一群で、亜麻仁油やエゴマ油に多く含まれるαリノレン酸や青魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やDHAなどが含まれる。
2)オメガ3 DPAの14-ヒドロキシ化代謝物:
オメガ3脂肪酸の一つであるDPAが体内で代謝され、特定の部位にヒドロキシ化という変化をうけて生じる物質。
3)形質細胞様樹状細胞:
免疫の司令塔として知られる樹状細胞の一種。免疫応答を抑制するTRAILというタンパク質を発現することで過剰な免疫の活性化を抑制することが知られている。一方で、状況によっては炎症を促進する働きも持つ。
4)TRAIL:
「TNF関連アポトーシス誘導リガンド」の略称で、炎症時においてT細胞を始めとする病原性細胞の活性化の抑制や細胞死を誘導することが知られている。

論文タイトル

Maternal w3 docosapentaenoic acid inhibits infant allergic dermatitis through TRAIL-expressing plasmacytoid dendritic cells in mice

著者

So-ichiro Hirata, Takahiro Nagatake, Kento Sawane, Koji Hosomi, Tetsuya Honda, Sachiko Ono, Noriko Shibuya, Emiko Saito, Jun Adachi, Yuichi Abe, Junko Isoyama, Hidehiko Suzuki, Ayu Matsunaga, Takeshi Tomonaga, Hiroshi Kiyono, Kenji Kabashima, Makoto Arita, and Jun Kunisawa

掲載雑誌

Allergy

本件に関する問い合わせ先

研究内容に関すること

國澤 純(くにさわ じゅん)
E-mail:kunisawa”AT”nibiohn.go.jp
国立研究開発法人医薬・基盤・健康・栄養研究所
ワクチン・アジュバント研究センター ワクチンマテリアルプロジェクト
腸内環境システムプロジェクト
〒567-0085
大阪府茨木市彩都あさぎ7-6-8
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FAX: 072-641-9872

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掲載日 令和2年2月19日

最終更新日 令和2年2月19日