成果情報 リンパ球の一種B細胞による抗体産生に重要な因子を発見―PC4タンパク質を介したクロマチン制御によるB細胞分化制御機構の解明―

成果情報

東北大学大学院医学系研究科
日本医療研究開発機構

研究のポイント

  • B細胞注1が抗体注2を産生する細胞に分化するにあたり、クロマチン注3制御タンパク質PC4が重要であることを明らかにした。
  • B細胞においてPC4が働くためには、転写因子注4IKAROSとIRF4との協調的な働きが不可欠であることを発見した
  • PC4は、B細胞が関与する免疫不全において抗体の産生を促進するための標的になり得る。

研究概要

白血球の一つであるB細胞は抗体を産生する細胞に分化して病原体などを排除する役割を持っています。東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の落合恭子(おちあいきょうこ)助教、五十嵐和彦(いがらしかずひこ)教授らのグループは、B細胞における抗体産生において、クロマチン構造を制御するタンパク質であるPC4が重要であることを明らかにしました。

本研究により、PC4がB細胞で転写因子IKAROSとともに、抗体獲得に必要なクロマチン状態を制御していることを明らかにしました。さらに、PC4とIKAROSは、転写因子IRF4とともに抗体産生細胞の分化と抗体獲得を促すことが分かりました。本研究は、抗体産生細胞分化に重要なB細胞のクロマチン制御を初めて明らかにした重要な報告で、本研究によって、B細胞が関与する免疫不全において抗体獲得改善法の発展に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2020年12月22日午前11時(現地時間、日本時間2020年12月23日午前1時)にCell Reports誌(電子版)に掲載されました。

研究内容

白血球の一つであるB細胞は、病原菌やウイルスなどの病原体に対する抗体産生を司る獲得免疫において重要な役割を担う細胞です。病原体が体内に侵入すると、B細胞は抗体を産生する細胞に分化し、この抗体の働きにより病原体が排除されます。近年、抗体獲得には個体差があることが問題になっていますが、詳細な要因には不明点が多く存在します。

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野の落合恭子(おちあいきょうこ)助教、五十嵐和彦(いがらしかずひこ)教授、情報遺伝学分野の有馬隆博(ありまたかひろ)教授、創生応用医学研究センターの中山啓子(なかやまけいこ)教授らのグループは、クロマチン構造を制御するタンパク質であるPC4がB細胞の抗体産生細胞への分化に重要であることを発見しました。

PC4をB細胞特異的に欠損させたマウスではB細胞の数が減少しており、これらのB細胞の抗体産生細胞への分化効率は極めて低く、マウス個体レベルでも抗体産生量が低下することがわかりました。詳細な分子機構を解析したところ、PC4は転写因子IKAROSやIRF4とともにクロマチン構造を制御することで、B細胞の機能を維持し、抗体産生細胞分化に貢献することが明らかになりました。

図1.B細胞の抗体産生細胞への分化
B細胞のクロマチンはPC4とIKAROSによって制御されており(左)、これらがIRF4とともに抗体産生細胞の分化と抗体獲得を促進する(右)。
図2.PC4のB細胞における重要性
対照マウスとB細胞特異的PC4欠損マウスの比較。(A)PC4欠損マウスでは対照マウスと比較して脾臓における成熟B細胞数が減少する(B220:B細胞マーカー)。(B)分化誘導したPC4欠損B細胞は抗体産生細胞への分化頻度が著しく低かった。(C)マウス個体を免疫して血液中の抗体産生量を調べると、PC4欠損マウス(赤)ではIgM抗体とIgG抗体の産生量が低かった(Ig:Immunoglobulin、イムノグロブリンの略)。

結論:本研究によってB細胞でのクロマチン制御が抗体産生に重要であることが明らかになりました。今後、免疫応答における個体差の理解や、抗体産生能が低下した個体で抗体の産生を促進する方法の開発が進むことが期待されます。

支援:本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金(研究代表者:落合恭子、五十嵐和彦)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED-CREST、研究代表者:五十嵐和彦)、東北大学男女共同参画などの支援を受けて行われました。

用語説明

注1 B細胞
ウイルスなどの病原体を認識し、抗体を産生する細胞へ分化する。
注2 抗体
病原体を認識し、抗体産生細胞に分化したB細胞が産生するタンパク質。病原体に結合して中和するなどして無毒化したり、他の白血球による病原体の消化(食細胞による貪食)を助けるなどのはたらきがある。
注3 クロマチン
遺伝子情報はDNA上にコードされていて、DNAの総長は2メートル程にもなる。クロマチンは、DNAを細胞核内に収納するための構造で、ヒストンと呼ばれるタンパク質とヒストンに巻き付いたDNAから成る。
注4 転写因子
遺伝子発現を制御するスイッチとなるタンパク質。B細胞が抗体産生細胞へ分化するためには、転写因子IKAROSやIRF4の機能が重要。

論文題目

Title
Chromatin Protein PC4 Orchestrates B Cell Differentiation by Collaborating with IKAROS and IRF4
Authors
Kyoko Ochiai, Mari Yamaoka, Amrutha Swaminathan, Hiroki Shima, Hitoshi Hiura, Mitsuyo Matsumoto, Daisuke Kurotaki, Jun Nakabayashi, Ryo Funayama, Keiko Nakayama, Takahiro Arima, Tomokatsu Ikawa, Tomohiko Tamura, Roger Sciammas, Philippe Bouvet, Tapas K. Kundu and Kazuhiko Igarashi
タイトル
クロマチン制御因子PC4は転写因子IKAROSおよびIRF4と協調的にB細胞分化を制御する
著者名
落合恭子、山岡茉莉、Amrutha Swaminathan、島弘季、樋浦仁、松本光代、黒滝大翼、中林潤、舟山亮、中山啓子、有馬隆博、伊川友活、田村智彦、Roger Sciammas、Philippe Bouvet、Tapas K. Kundu、五十嵐和彦
掲載誌名
Cell Reports
DOI
10.1016/j.celrep.2020.108517

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
助教 落合恭子
E-mail:kochiai“AT”med.tohoku.ac.jp
教授 五十嵐和彦
E-mail:igarashi“AT”med.tohoku.ac.jp

取材に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
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E-mail:pr-office“AT”med.tohoku.ac.jp

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掲載日 令和3年1月22日

最終更新日 令和3年1月22日