成果情報 新型コロナウイルス感染拡大における小児の役割―家庭外の環境で感染伝播を起こす頻度は低い―

成果情報

東北大学大学院医学系研究科
日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  • 小児(0-19歳)が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に感染する環境、COVID-19の二次感染(注)を起こす環境ともに家庭内が最も多いことを解明
  • 二次感染を起こす感染者の割合は、乳幼児・小学生よりも中学生・高校生で高いことを解明
  • 小児を対象とした既存の感染対策(休校措置など)の実施にあたってはその有効性を慎重に評価する必要がある

概要

このほど、東北大学大学院医学系研究科の微生物学分野 押谷仁教授らのグループは、全国都道府県が公表した20歳未満のCOVID-19患者の情報を用いた過去にさかのぼった解析(後方視的解析)を行い、小児患者が家庭外で二次感染を起こす頻度は低く、また二次感染を起こす小児患者の割合は中学生・高校生など比較的年齢が高い集団で高いことを解明しました。

これまで知られていなかった国内の小児による感染伝播の実態が明らかになったことで、小児を対象とした感染予防対策の評価や立案に貢献できることが期待されます。

本研究成果は、「Frontiers in Pediatrics」誌(電子版)に、2021年8月10日に掲載されました。

研究背景・内容

小児のCOVID-19の罹患者は軽症者や無症候感染者が多く、重症化する頻度は成人よりも低いとされています。一方で、市中感染の拡大において、小児のCOVID-19罹患者がどのような影響を持つかについては十分に明らかとなっていません。インフルエンザと同様に地域内流行の原因となっているとする意見と、小児が感染拡大に果たす役割は限定的であるとする意見の両方があり、結論に至っていない状況です。そのため、インフルエンザ流行初期には有効性が高いとされる休校措置など、地域の流行を制御するという目的での小児を対象とした対策はこれまで困難でした。

今回、東北大学大学院医学系研究科の微生物学分野 押谷仁(おしたに ひとし)教授らのグループは、全国都道府県が公表した20歳未満のCOVID-19患者の情報を用い過去にさかのぼって解析を行いました(後方視的解析)。全国都道府県から2020年10月末までに報告された小児患者7,000人以上に対して、過去にCOVID-19患者と接触した環境、および自身が二次感染を起こした環境について調査を行いました(図1)。小児患者のうち過去に家庭内でCOVID-19患者と接触した小児患者が32%を占めて最多であり、保育園・幼稚園・小学校・中学校・高校で感染者と接触した小児患者は5%未満でした。全小児患者のうち、10%が二次感染を起こしていました。背景別に見ると中学生以上に年齢が進むにつれて二次感染を起こす患者の割合が上昇し、中学生・高校生における割合はそれぞれ小学生の2.7倍・2.1倍となっていました(図2)。二次感染症例が発生した環境では、家庭内が26%を占め最多であり、保育園・幼稚園・学校等で発生した二次感染症例は全二次感染症例の6%にとどまりました。

図1.小児のCOVID-19感染および小児患者からの二次感染
小児患者(白色シルエット)はCOVID-19患者(灰色シルエット)からの感染伝播によってCOVID-19に罹患し、その後一部の小児患者は二次感染を起こし二次感染症例(黒色シルエット)を発生させる。本研究では、小児への感染伝播(点線矢印)と小児患者からの二次感染(実線矢印)がそれぞれどのような環境で発生していたのかについて調べた。
図2.二次感染を起こした小児患者の割合
小児患者のうち二次感染を起こす患者の割合を全小児と背景別に示す。中学生・高校生の患者が二次感染を起こす割合は、それぞれ小学生の2.7倍、2.1倍であり、ともに統計学的に有意に高い値だった(*)。

今後の展開

本研究によって、国内でどのように小児がCOVID-19に罹患しているのか、感染伝播の実態が明らかになりました。小児は主に家庭内で感染しており、さらに二次感染もその多くが家庭内で起きており、保育園・幼稚園・学校など家庭外での感染拡大への関与は限定的でした。また二次感染を起こす割合は小学生よりも中学生や高校生で高く、比較的年齢の低い学童の寄与が大きいインフルエンザとは異なり、小児の地域内流行に果たす役割は限定的である可能性も示唆されました。今後、これらのことを踏まえた感染予防対策の評価や対策の立案に貢献できることが期待されます。

研究費

本研究は、厚生労働行政推進調査事業費補助金(課題番号JPMH20HA2007)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(課題番号JP19fk0108104、「病理学的アプローチによる先天性感染症・原因不明感染症診断法の開発」(研究開発代表者:北海道大学(現国立感染症研究所感染病理部・部長)・鈴木忠樹))の支援を受けて行われました。

論文情報

掲載雑誌
Frontiers in Pediatrics, volume 9, article 705882.
タイトル
Roles of children and adolescents in COVID-19 transmission in the community: A retrospective analysis of nationwide data in Japan.
著者名
Tadatsugu Imamura1, 2, Mayuko Saito3, Yura K. Ko3, 4, Takeaki Imamura3, Kanako Otani4, Hiroki Akaba3, Kota Ninomiya4, Yuki Furuse5, Reiko Miyahara4, 6, Eiichiro Sando7, Ikkoh Yasuda7, Naho Tsuchiya8, Motoi Suzuki4 and Hitoshi Oshitani3.
所属
  1. Japan International Cooperation Agency, Japan
  2. National Center for Child Health and Development (NCCHD), Japan
  3. Tohoku University, Japan
  4. National Institute of Infectious Diseases (NIID), Japan
  5. Kyoto University, Japan
  6. National Center for Global Health and Medicine, Japan
  7. Fukushima Medical University, Japan
  8. Tohoku Medical Megabank Organization, Tohoku University, Japan
doi
10.3389/fped.2021.705882

用語説明

(注)二次感染
感染症に罹患した患者が、自分以外の人間にその感染症をうつしてしまうこと。

本研究に関する問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科 微生物学分野 
教授 押谷 仁(おしたに ひとし)
E-mail:info“AT”virology.med.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
TEL:022-717-8032 FAX:022-717-8187
E-mail:press“AT”pr.med.tohoku.ac.jp

AMED事業に関する問い合わせ先

日本医療研究開発機構(AMED)
創薬事業部 創薬企画・評価課
新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
TEL:03-6870-2226
E-mail:shinkou-saikou“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和3年8月30日

最終更新日 令和3年8月30日