AMEDシンポジウム2017開催レポート AMEDシンポジウム2017開催レポート:ワークショップ③ 今考える、激動の世界動向とこれからの医療研究開発(3)
ワークショップ➂ 今考える、激動の世界動向とこれからの医療研究開発
―AMED海外事務所から見えてきたもの―
- モデレータ
- 岩本 愛吉(AMED戦略推進部 部長)
- パネリスト
- 杉山 大介氏(九州大学大学院医学研究院次世代医療研究開発講座 教授)
- 前田 優香氏(国立がん研究センター研究所 腫瘍免疫研究分野 研究員)
- 佐野 多紀子(AMEDワシントンDC事務所 所長)
- 秋月 玲子(AMEDロンドン事務所 所長)
- 中村 浩(AMEDシンガポール事務所 所長)
パネルディスカッション

──医療研究開発、国際連携における新たな動き
岩本 ここからのパネルディスカッションでは、いくつかの項目に関して議論を深めていきたいと思います。まずは医療研究開発、国際連携における新たな動きということで、臨床の分野で橋渡し研究に関する最近の動きについて、杉山先生もう少しご意見をお願いします。
杉山 橋渡し研究や臨床研究においては、人材育成やキャリアパスの形成、人材評価システムの構築が日本を始め世界のどこでも問題になっています。NIH/NCATSは職員の約8割が製薬企業出身者で構成されています。欧州では、EU内の国と国が連携した取り組みを推進しようとしています。
岩本 欧州の連携の事例はいかがでしょうか。
秋月 国際的な枠組であるGACD(The Global Alliance for Chronic Diseases)は、途上国の慢性疾患課題に対する研究を支援する世界規模の組織で、2016年にAMEDも参加しました。欧州には2014年からの7年間で10兆円もの助成金が出る、Horizon2020という研究開発促進を目的としたフレームワークプログラムがあります。
──イノベーションを生み出すための創意工夫
岩本 Interstellar Initiativeでは異分野融合が重要だとしていましたが、異分野融合の難しさと面白さを教えてください。
前田 Interstellar Initiativeは、専門分野も国籍も異なる初対面の若手研究者同士がチームを組んで行うワークショップで、チーム同士が競い合い、最終的に研究費獲得を目指します。当初は語学力に引け目を感じることもありましたが、研究活動を理解してもらい、研究者としてのリスペクトがあって初めて打ち解けることができ、共にプログラムを作っていくことが可能になりました。
佐野 私もInterstellar Initiativeに参加していましたが、活発な議論の一方で、日本人研究者が主体になってプレゼンしているチームが少なかったように感じました。国際舞台では貢献したことを自ら表出することが必要ですから、日本人としてその点は課題だと感じました。
中村 メンターとして参加した須田年生先生(シンガポール国立大学がん科学研究所)からのコメントとして3つ紹介します。1つ目は、「今回時間の関係で事務局でチーム分けした。再生医療分野のあるチームでは、イモリを研究材料に用いているのは再生能力が高いからという話をきっかけにユニークなアイデアが生まれたが、そうでないチームもあったため、異分野のチーム分けにはさらなる工夫が必要」という点、2つめは、「ワークショップの後も議論の熱を冷まさない努力・工夫が必要」という点、3つ目は、「シンガポール人の参加者はコミュニケーションスキルが高く、議論の盛り上げ役になっていたのは注目すべき」という点、といったコメントをいただきました。
杉山 臨床現場でのイノベーション創出に向けたネットワーク作りでは、参加した機関や研究者に対して、クレジット、インセンティブをどれだけ付与できるかが全てではないかと考えています。
秋月 ロンドン事務所は先月(2017年4月)、エイジングに関する国際シンポジウムを開催しましたが、研究者や臨床家だけで話し合うのではなく、自治体や健保組合など研究成果を使う立場の人たちの意見を取り入れて議論しました。文化や考え方の違う人たちの議論は難しい面もありますが、それをコーディネートするのもAMEDの役割だと実感しました。
──今求められるグローバル研究リーダー
岩本 今回のシンポジウムにはお二人のノーベル賞受賞者が来てくださいましたが、一方で、学術雑誌における日本の論文数が減少していることなどが案じられています。そのような中で日本人がグローバルなリーダーとして活躍するには、どのような資質が必要とされるでしょうか。
杉山 英語力は当然で、コミュニケーション能力や幅広い知識もないと対応できません。コミュニケーション能力としては、明るい人がいいように思います。
前田 杉山先生のおっしゃるとおりで、私自身、若手研究者として頑張らないといけません。
中村 須田先生は「日本では、Principal Investigator(主任研究員)といえども、ややもすると研究室の教授の意向に左右されかねないが、今回のInterstellar Initiativeでは若手研究者が主体的にディスカッションできたことが大きい」と話していました。
岩本 まさにInterstellar(惑星間の)という言葉の通り、宇宙人になったつもりで、自分の専門を英語で相手に伝えられて、仲良くなれる研究者に育つようにという願いを込めてつけられたネーミングなのだと思います。そのようなグローバルリーダーが、今後日本人の中からどんどん出てくることを期待しています。
──これからの医療研究開発のために
岩本 最後に、これからの医療研究開発のために必要だと思われることをお伺いします。
杉山 臨床研究、基礎研究、知財など、分野によって専門用語が違いますから、その用語を理解することがトランスレーターとして求められる資質です。さらに異分野融合を進めていくには、専門性を高める教育を行う一方で、全体を俯瞰できるジェネラリストとしての人材育成が重要になります。
前田 若手研究者はボスから与えられたテーマをこなすだけでなく、国際交流等によって得られた新しい情報や成果を周囲にアウトプットしていくことが重要ですし、医療研究開発においてはフレッシュなアイデアを発信していきたいと思います。
秋月 異分野融合を推進するためにはさまざまな立場の人たちの議論の場をコーディネートできる存在が必要ですし、欧州で活発に行われているコンソーシアムの構築事例も参考になります。海外事務所としては、収集した情報を研究者や国民,社会に対してどう還元していくかを考えていきます。
岩本 様々な専門の研究者たちとのディスカッションで、自分の研究をきちんと説明することが出来、新しい共同研究を立ち上げられるような研究者が育ってくれると非常にありがたいと思っています。若手の場合、異分野の人たちと積極的につながって、新しい研究分野を開拓していけるような人材を支援していきたいですね。AMEDの研究費はほとんど国内向けで、グローバルな支援は難しい面もありますが、支援する研究者がいかに外国との共同研究に発展させる力を持っているかどうかという点については注目していきたいと思っています。
客席から時折笑い声が聞こえる楽しいワークショップで、登壇者の意見に大きく頷く様子が見えるなど、会場が一体となって議論しているようでした。最後の質疑応答では、末松誠AMED理事長が飛び入りで質問に答えて、多くの若手研究者たちが世界でリーダーシップを発揮できるようエールを送りました。
最終更新日 平成29年10月18日