プレスリリース アレルギー性気管支肺真菌症の新しい診断基準の提唱とその検証

令和2年9月15日プレスリリース

東海大学
日本医療研究開発機構

研究のポイント

  • 日本のアレルギー性気管支肺真菌症(Allergic bronchopulmonary mycosis、以下、ABPM)(注1)の症例では、従来の診断基準による診断が難しいことが多く、また、アスペルギルス(注2)を原因真菌とするABPMの診断を想定している従来の診断基準では、その他の真菌(注3)によるABPMの診断が困難であるなどの問題点がありました。
  • 新たに提唱した診断基準では、特異度90%を維持しつつ感度94~96%と、極めて高い精度でABPMを診断することが可能になりました。
  • 新たに提唱した診断基準では、アスペルギルス以外の真菌によるABPM症例での診断感度も90.5%と、これまで頻用されてきたRosenbergらの診断基準(14.3%)、2013年に国際医真菌学会から提唱された診断基準(47.6%)と比べ顕著に高くなりました。
  • 新たに提唱した診断基準の普及により、ABPMの診断の遅れが減少し、気管支・肺の破壊が進行する前の適切な治療の提供が期待されます。

発表概要

東海大学医学部医学科内科学系呼吸器内科学の浅野浩一郎教授らの研究グループは、ABPMの新しい診断基準を提唱し、より敏感かつ正確にABPMを診断できることを検証しました。また、従来の診断基準では難しかった特殊なABPM(キノコ胞子吸入によるABPMなど)についても高感度な診断が可能であることを明らかにしました。この新しい診断基準により、ABPMの早期診断、早期治療が可能になると期待されます。

本研究成果は、米国東部時間2020年9月10日、Journal of Allergy and Clinical Immunology誌にオンラインで公開されました。

なお、本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の免疫アレルギー疾患実用化研究事業「アレルギー性気管支肺真菌症の新・診断基準の検証と新規治療開発(研究開発代表者:浅野浩一郎)」ならびに「真菌関連アレルギー性気道疾患の発症・増悪予防を目指した体内・体外環境の評価と制御(研究開発代表者:浅野浩一郎)」の支援により行われました。

発表内容

研究の背景

大気中の真菌胞子数は30~2,000cfu/m3とされ、成人の換気量から換算すると、毎日、数百~数万個の真菌胞子を吸入しています。健康な人では吸い込んだ真菌粒子は速やかに気道上皮細胞の粘液・繊毛システムや免疫細胞によって排除されるため、呼吸器疾患を生じることは稀ですが、喘息などの気管支・肺疾患や免疫能低下があると、アレルギーから感染症までさまざまな病状が生じる可能性があります。また、水害や家屋の漏水などが起こると、屋内で吸入する真菌粒子の数はさらに100倍以上に増え、それに伴って真菌による呼吸器疾患の発生頻度も増加します。

ABPMは1952年にHinsonらによって報告されたアレルギー性気道疾患です。日本では1万5,000人、全世界で500万人の患者がいると推定されています。この疾病は、喘息や嚢胞性線維症患者において、吸入した真菌が気道内の粘液上で繁殖することによりアレルギー応答が起こり、再発を繰り返しながら気管支の破壊が進行するもので、放置すれば肺の線維化から呼吸不全に至ることもあります(図1)。ABPMは、早期に診断されれば有効な治療法がありますが、重症喘息や繰り返す肺炎と診断され、発症から診断まで数年以上かかる例が多く、診断された時点で気管支の破壊が進行しているケースも多く見られます。

図1 アレルギー性気管支肺真菌症の20歳代患者の胸部エックス線写真(左:治療前、右:治療後)
Okada N, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. doi:10.1016/j.jaip.2020.08.023より引用

また、本研究グループが行った全国調査により、日本人には従来の診断方法では診断できないABPMの患者さんが多いことも明らかになっていました。

研究内容

本研究グループでは、2013年からABPMの疫学、診断・治療の実態に関する全国調査を実施しました。その調査から明らかとなったのは、日本のABPMは、衛生状態や環境真菌相が大きく異なる南アジアや、日本では稀な嚢胞線維症を背景疾患とする欧米諸国の症例とは大きく臨床的な特徴が異なることでした。また、原因となる真菌も従来から報告されていたアスペルギルスだけでなく、キノコの一種であるスエヒロタケ(図2)などもかなりの頻度で見られました。

図2 患者の気道から検出されたスエヒロタケを培養すると、稀に子実体(キノコの傘)を形成することがある(「アレルギー性気管支肺真菌症」研究班編集、アレルギー性気管支肺真菌症の診療の手引き、医学書院、東京、2019より引用)

ABPMの診断には、1977年にRosenbergらが提唱した診断基準(注4)が今でも頻用されていますが、現状に合わない点が多くなってきたことから2013年に国際医真菌学会から別の診断基準(注5)が提唱されています。しかし日本のABPM症例ではいずれの診断基準でも診断が難しいことがしばしばあり、またアスペルギルスによるABPMの診断を想定している従来の診断基準ではその他の真菌によるABPMの診断が困難であるなどの問題点がありました。そこで本研究グループでは新たな診断基準を提唱し、その診断精度を検証する試みを行いました。

今回提唱した新しい診断基準は、喘息の既往、血液検査所見、喀痰や気管支分泌物の所見、胸部CT所見など10項目からなり、そのうち6項目以上を満たせばABPMの診断確定、5項目であればABPM疑いとするものです(表1)。検証には病理学的にABPMと診断された79例、日本の呼吸器・アレルギー専門施設の医師が臨床的にABPMと診断した179例を用い、対照群としてはABPMと間違えられやすい喘息や好酸球性肺炎、慢性肺アスペルギルス症(アスペルギルスによる感染症)151例を用いました。

表1 アレルギー性気管支肺真菌症(ABPM)の臨床診断基準
1) 喘息の既往あるいは喘息様症状あり
2) 末梢血好酸球数(ピーク時)≥500/mm3
3) 血清総IgE値(ピーク時)≥417IU/mL
4) 糸状菌に対する即時型皮膚反応あるいは特異的IgE陽性
5) 糸状菌に対する沈降抗体あるいは特異的IgG陽性
6) 喀痰・気管支洗浄液で糸状菌培養陽性
7) 粘液栓内の糸状菌染色陽性
8) CTで中枢性気管支拡張
9) 粘液栓喀出の既往あるいはCT・気管支鏡で中枢気管支内粘液栓あり
10) CTで粘液栓の濃度上昇(HAM)

古典的なRosenbergらの診断基準は、特異度はほぼ100%であるものの感度が50%以下と低く、国際医真菌学会の診断基準では感度は80%前後まで向上するものの特異度は90%以下でした。これに対して、今回提唱した新しい診断基準では特異度90%を維持しつつ感度94~96%と、極めて高い精度でABPMを診断できることが可能でした(表2)。また、スエヒロタケ等のアスペルギルス以外の真菌によるABPM症例での診断感度も90.5%と、Rosenbergらの診断基準(14.3%)、国際医真菌学会の診断基準(47.6%)と比べて顕著に高くなりました。

表2 各ABPM診断基準の感度、特異度
  Rosenbergらの
診断基準
国際医真菌学会の診断基準 新しい診断基準
感度(病理学的ABPM) 25.3% 77.2% 96.2%
感度(臨床的ABPM) 49.2% 82.7% 94.4%
特異度 98.4% 86.8% 90.0%

感度:ABPM患者が診断基準にあてはまる(ABPMと診断される)比率
特異度:対照疾患(非ABPM)患者が診断基準にあてはまらない(ABPMでないと診断される)比率

今後の展開

新しい診断基準に必要な検査は日本国内の医療機関であればどこでも実施が可能であることから、この診断基準の普及によってABPMの診断の遅れが減少し、気管支・肺の破壊が進行する前に、適切な治療が提供されるようになることが期待されます。

用語

(注1)アレルギー性気管支肺真菌症(Allergic bronchopulmonary mycosis〔ABPM〕)
主に成人喘息患者において、気管支内の粘液に生着し発芽した真菌に対するアレルギー反応によって発症する慢性炎症性気道疾患です。日本で推定1.5万人、全世界で推定500万人の患者がいると考えられています。
(注2)アスペルギルス
主に室内に多く存在する真菌の一種で、特にアスペルギルス・フミガーツスは胞子が小さく、人体内でも繁殖できるため肺感染症やアレルギーをおこしやすい真菌です。その他に、清酒、味噌、醤油の製造にかかせないコウジカビもアスペルギルスの仲間です。
(注3)真菌
真菌は動物や植物と同じようにDNAが「細胞核」の中に収納されており、細菌よりも高等な生物です。そのうちの一部がヒトの感染症やアレルギーの原因となります。
(注4)1977年にRosenbergらが提唱した診断基準
アスペルギルスによるABPMを診断するための基準として、国際的に初めて提唱されたもので、今までも広く使用されています。7項目の一次基準と3項目の二次基準からなり、一次基準の6ないし7項目を満たせばABPMと診断されます。
(注5)2013年の国際医真菌学会から診断基準
Rosenbergらが提唱した診断基準に問題点があるため、医学専門家が集まって作成した診断基準です。2項目の必須基準に加えて3項目の追加基準のうち2項目を満たせば、ABPMと診断されます。

論文情報

論文名
アレルギー性気管支肺真菌症の新しい臨床診断基準とその検証
著者
浅野浩一郎1、蛇澤晶2、石黒卓4、高柳昇4、仲村泰彦2、鈴木純子3、岡田直樹1、田中淳1、福冨友馬5、植木重治6、福永興壱7、今野哲8、松瀬厚人9、亀井克彦10、谷口正実5、下田照文11、小熊剛1、日本ABPM研究プログラム
所属
1東海大学医学部医学科内科学系呼吸器内科学、2国立病院機構東京病院臨床検査科、3呼吸器内科、4埼玉県立循環器・呼吸器センター呼吸器内科、5国立病院機構相模原病院臨床研究センター、6秋田大学医学系研究科総合診療・検査診断学、7慶應義塾大学医学部呼吸器内科、8北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野、9東邦大学医学部医学科内科学講座呼吸器内科学分野(大橋)、10千葉大学真菌医学研究センター臨床感染症分野、11国立病院機構福岡病院臨床研究センター
雑誌名
Journal of Allergy and Clinical Immunology
DOI
10.1016/j.jaci.2020.08.029
URL
https://www.jacionline.org/article/S0091-6749(20)31240-9/abstract

お問い合わせ先

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東海大学医学部医学科内科学系呼吸器内科学
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E-mail:ko-asano“AT”tokai-u.jp

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最終更新日 令和2年9月15日