プレスリリース 血中の代謝物とゲノムとの関連性を発見―血漿メタボロームと遺伝子多型の関連解析が未来型医療実現のカギに―

令和2年11月11日プレスリリース

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
東北大学未来型医療創成センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 血漿メタボローム*1(代謝物)情報と遺伝子多型*2情報の関連解析により、50種類近い関連が同定されました。関連する遺伝子の多くが疾患に関与することが報告されている遺伝子でした。
  • ヒト由来だけではなく、腸内細菌由来の代謝物も遺伝要因の影響を受けていることが明らかになりました。
  • 性別、民族集団により、遺伝子が代謝物へ与える影響の効果に違いがあることが明らかになりました。

概要

血液中の代謝物はヒトの健康状態に関係しているものが多く、バイオマーカー*3として利用されています。一方、ゲノム上の遺伝子多型の多くについては健康状態との明確なつながりを示すことが困難です。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)では、代謝物とゲノムとの関連を明らかにするmetabolome-genome wide association study(MGWAS)を提案してきました。

今回、ToMMoの小柴生造教授(東北大学未来型医療創成センター兼務)らのグループは、東北メディカル・メガバンク計画におけるコホート調査*4によって得られた1,008人の血漿メタボローム情報と全ゲノム解析情報についてMGWASを実施し、50種類近い関連とその詳細について明らかにしました。関連を同定した遺伝子の多くが疾患に関与することが報告されていること、腸内細菌由来の代謝物への影響、性別や民族集団による代謝物の分布の違いなど、疾患の成り立ちの解明につながっていく知見が得られました。

この成果は、日本時間2020年11月11日にNature Researchが提供するオープンアクセス学術誌「Communications Biology」のオンライン版で公開されます。

詳細

コホート調査参加者1,008人の血漿について、NMR*5およびLC-MS*6によるメタボローム解析を実施したデータと、3.5KJPNv2*7の全ゲノム解析情報をMGWASにより解析しました。

MGWASはゲノム上の遺伝子多型と代謝物との関連を明らかにする解析手法であり、代謝物の濃度に影響を与える遺伝子がわかります。

その結果、表の通り、42種類の関連(26遺伝子多型と38代謝物)を同定し、さらに女性のみに有意な関連を5種類(5遺伝子多型と5代謝物)同定しました。関連が判明した26遺伝子多型のうち11、そして女性のみに有意だった関連の5遺伝子多型のうち3つは、今回新たに代謝物との関連を発見したものです。

表 MGWASによって同定された関連
同定した関連
47
男女共通の関連
42
26遺伝子多型(うち11が新規)
38代謝物
女性のみの関連
5
5遺伝子多型(うち3が新規)
5代謝物

今回同定したうち多くの遺伝子は、循環器疾患や精神・神経疾患などとのかかわりがあることが既に報告されているものでした。図は今回同定した関連と疾患との関係を表したものです。

図 同定した遺伝子・代謝物の関連との関係図
疾患種別もしくは外因性要因の文字色と同色の枠内にあるのが、疾患との関わりが見られた遺伝子(黒字斜体)と代謝物(ピンク字)

また、ヒトではなく腸内細菌由来の代謝物であるindoleacrylic acid(インドールアクリル酸)とindolepropionic acid(インドールプロピオン酸)についてはそれぞれSLC22A4とACSM2Aの遺伝子との関連を同定しました。つまり、別の生物である腸内細菌の働きがヒトの遺伝子変異の影響を受けていることが明らかになりました。特にindoleacrylic acidとSLC22A4との関連は今回新たに発見したものです。

今回の解析対象である1,008人は、男性433人、女性575人です。男女で解析結果を比較したところ5種類の遺伝子多型については男女で代謝物への影響が異なることを明らかにしました。

また今回の対象は日本人ですが、欧米や中東の人々を対象とした報告と比較したとき、共通してみられる関連と、各民族集団に固有の関連があることが判明しました。

このように、同じ遺伝子多型でも、性別により影響の程度が異なること、また多型の頻度が民族集団によって異なるため集団における代謝物への影響に違いが見られることが明らかになりました。

今後の展望

今回、代謝物とゲノムのつながりの一部が明らかになり、MGWASが疾患の病態解明に寄与できることを示しました。今後のMGWASの推進が、疾患の診断・治療法の開発に貢献すると考えます。

腸内細菌は疾患と深くかかわっているとして近年注目されていますが、その機序は部分的にしかわかっていません。ゲノムとの関係を解明することにより、腸内細菌がヒトに及ぼす影響も明らかになってくるかもしれません。

性別で遺伝子と代謝物の関連に違いがある原因は現時点では不明です。今後、コホート調査の中で原因が明らかになれば、同じ疾患であっても性別で、より効果的な治療方法が選択できるようになる可能性があります。

今後MGWASによって次々に代謝物とゲノムとの関連性が明らかになれば、個別化予防・医療開発を推進し、未来型医療を実現する重要なファクターになるかもしれません。

なお、本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援する「東北メディカル・メガバンク計画」の一環として行われ、さらにゲノム医療実現推進プラットフォーム事業研究開発課題「AMEDが行うゲノム医療研究支援サービスを支える研究開発基盤の整備」の支援も受けています。

論文題目

タイトル
Identification of critical genetic variants associated with metabolic phenotypes of the Japanese population
日本語タイトル
「日本人集団の代謝表現型に関連する重要な遺伝的変異の同定」
掲載誌
Communications Biology
掲載日
2020年11月11日
DOI
10.1038/s42003-020-01383-5

参考

東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として平成23年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。

東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、AMEDが本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語説明

*1 血漿メタボローム
血漿中に含まれる代謝物(メタボライト)。
*2 遺伝子多型
ゲノム配列において個人間で異なる多様性。
*3 バイオマーカー
疾患の発症や進行を反映する生体内分子。
*4 コホート調査
特定の集団を一定期間追跡することによって、環境要因や遺伝的要因と疾病発生の関連を調べる調査。ここでいうコホート調査は「東北メディカル・メガバンク計画」の長期健康調査のこと。
*5 NMR
Nuclear Magnetic Resonance(核磁気共鳴)の略で、NMR解析は、生体分子を含む様々な分子を強力な磁場の中において、分子中の各原子が持つ核磁気モーメントを計測することにより、分子の構造や量を測定する解析方法。
*6 LC-MS
Liquid Chromatography Mass Spectrometryの略で、液体クロマトグラフィー質量分析法を指す。液体中の成分を分離しその質量を検出する手法。
*7 3.5KJPNv2
ToMMoが2018年6月に発表した3千5百人分の日本人全ゲノムリファレンスパネル。(3.5KJPNv2についてのプレスリリースURL:https://www.megabank.tohoku.ac.jp/news/27839

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
生体分子解析分野
教授 小柴生造(こしばせいぞう)
電話番号:022-274-6016

報道担当

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神風二(ながみふうじ)
電話番号:022-717-7908 ファクス:022-717-7923
E-mail:pr“AT”megabank.tohoku.ac.jp

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ゲノム・データ基盤事業部 ゲノム医療基盤研究開発課
電話番号:03-6870-2228
E-mail:tohoku-mm“AT”amed.go.jp

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最終更新日 令和2年11月11日