成果情報 Ablファミリーチロシンキナーゼによる自己抗体の血管外輸送の制御を解明―生体内での自己抗体の輸送メカニズム―

令和元年12月4日成果情報

京都大学
日本医療研究開発機構

概要

皮膚科には、自己免疫性水疱症という皮膚に水ぶくれを生じる病気の一群があります。これらは、自らの細胞や組織に対して作用する自己抗体が皮膚の接着分子などに産生され、血中を循環し皮膚へ沈着することで発症します。しかしながら、自己抗体を産生したり、自己抗体が血中から組織へ移行する詳細な機序については解明されていませんでした。

京都大学大学院医学研究科皮膚科学講座 椛島健治 教授、江川形平 同助教、小野さち子 同日本学術振興会特別研究員らの研究グループはこれまで、炎症のある皮膚への自己抗体の移行や、胎盤を介した胎児への自己抗体の移行に着目し、研究を進めてきました。本研究では、これをさらに発展させ、自己抗体が炎症のない状態の血管から皮膚へ移行するメカニズムはカベオラ※1による小胞輸送を利用し、チロシンキナーゼの一つであるAblファミリーチロシンキナーゼ※2により制御されること、Ablファミリーチロシンキナーゼの阻害薬は血管から皮膚への自己抗体の移行を阻害し、疾患モデルマウスの症状を抑制し得ることを見出しました。この結果は、自己免疫疾患に対し、血管壁をターゲットとするという新たな視点での治療法の可能性を提供すると期待されます。

本成果は、2019年9月30日に国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

Ablファミリーチロシンキナーゼによる自己抗体の血管外輸送の制御イメージ図

背景

自己免疫性疾患の中には、自らの体内で細胞や組織に対して産生される自己抗体によって生じる一群があります。皮膚科では、自己免疫性水疱症という水ぶくれが皮膚に生じる病気があり、自己抗体の種類によって、天疱瘡や水疱性類天疱瘡などと分類されます。これらの自己抗体や自然抗体を含む免疫グロブリンG(Immunoglobulin G、IgG)は、リンパ組織で作られ血中へ入った後、末梢組織である皮膚や様々な臓器に分布します。しかしながら、生体内で自己抗体を含むIgGが、どのように血中から組織へ分布するかの詳細については分かっていませんでした。IgGのレセプター(受容体)分子が血管壁を介した抗体の輸送に関わることは昔から想定されており、近年ではAblファミリーチロシンキナーゼが炎症下での血管の透過性を制御し得る可能性が高いことが、脳梗塞、肺炎、アレルギーの疾患モデルマウスで支持されていました。また、本研究グループは、炎症のある皮膚への自己抗体の移行や、胎盤を介した胎児への自己抗体の移行に着目し、研究を進めてきました(J. Allergy Clin. Immunol. 139, 2026-2028.e5 (2017), J. Allergy Clin. Immunol. 141, 2273-2276.e1 (2018).)。こうした背景から、本研究グループはこれまでの研究を発展させ、血管から皮膚への自己抗体の輸送という観点で、IgGのレセプター分子やAblファミリーチロシンキナーゼが血管壁のバリア機能を制御する作用について検討しました。

研究手法・成果

自己免疫性水疱症の一つである天疱瘡の自己抗体をマウスに静脈注射すると、マウスの皮膚には天疱瘡の自己抗体の沈着が生じ、最終的に脱毛が生じます。これは、天疱瘡患者の皮膚で水ぶくれが生じるのと同じような機序が想定されます。そこで本研究では、この疾患モデルマウスを用いて、自己抗体の血中から皮膚への輸送を定量的に評価する手法を確立しました。そして、自己抗体の血中から皮膚への輸送は、時間ならびに血中濃度に依存して生じることを確認しました。さらに、IgGのレセプター分子あるいはAblファミリーチロシンキナーゼによって、その輸送が制御されるかどうかを、阻害抗体やノックアウトマウス、Ablファミリーチロシンキナーゼの阻害薬である「イマチニブ」を用いて、比較・検討しました。

結果として、定常下での血管から皮膚への自己抗体の移行において、以下の知見を見出しました。

  1. 既存のIgGのレセプター分子は必要ないこと
  2. 輸送はカベオラによる小胞輸送を利用するものであること
  3. カベオラの機能はAblファミリーチロシンキナーゼにより制御されること
  4. 代表的なAblファミリーチロシンキナーゼの阻害薬であるイマチニブは、皮膚への自己抗体の移行を阻害することで、天疱瘡モデルマウスにおける脱毛の発症の程度を軽減し得ること

波及効果、今後の予定

本研究の成果を基盤として、現在、自己免疫性水疱症(水疱性類天疱瘡)に対するイマチニブの臨床治験を、京都大学医学部付属病院皮膚科にて行っています (田辺三菱製薬株式会社および AMED との産官学共同rTRプロジェクト/GAPFREE2)。

本研究について

本研究は以下の資金により行いました。

  • 日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(科研費):研究課題/領域番号(201740146、15H05790、15H1155、15K15417)
  • 科学技術振興機構(JST)さきがけ(PRESTO): 課題番号(16021031300)
  • 日本医療研究開発機構(AMED):
    • 創薬基盤推進研究事業(医薬品研究課)「イマチニブをツールとした自己免疫性水疱症における創薬基盤研究」(研究代表者:京都大学 椛島 健治 18ak0101057h0003)
    • 免疫アレルギー疾患実用化研究事業(難病研究課)「表皮を標的としたアトピー性皮膚炎の治療の最適化を目指す新規薬剤の開発」(研究代表者:京都大学 椛島 健治 16ek0410011h0003)
    • 未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業(医療機器研究課)「生体多光子励起イメージング技術を利用した新規低侵襲・高解像度がん診断装置の開発」(研究代表者:京都大学 椛島 健治 16he0902003h0002)

用語解説

※1カベオラ:
細胞の外から中へ物質を取り込む際などに利用される小胞構造の一つ
※2Ablファミリーチロシンキナーゼ:
タンパク質のアミノ酸残基の一つであるチロシン残基をリン酸化する酵素の一つ

研究者のコメント

血管は全身にはりめぐらされ、細胞や栄養を末梢組織に届けています。その中で、免疫グロブリン(IgG)も全身に輸送されます。免疫グロブリンには、自己免疫性疾患の原因の一つである自己抗体以外にも、宿主免疫に役立つ自然抗体も含まれます。また、近年、悪性腫瘍、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬など、多くの疾患に対して、抗体製剤が開発・使用されています。我々の抗体の輸送機序に対する知見が、様々な領域に役立つことを期待します。

論文タイトルと著者

タイトル:
Abl family tyrosine kinases govern IgG extravasation in the skin in a murine pemphigus model
(天疱瘡モデルマウスにおいてAblファミリーチロシンキナーゼはIgGの血中から皮膚への移行を制御する)
著者:
小野さち子、江川形平、椛島健治、他
掲載誌:
Nature Communications
DOI:
10.1038/s41467-019-12232-3

お問い合わせ先

研究内容に関するお問合せ

小野さち子(おの・さちこ)
京都大学大学院医学研究科 皮膚科学講座・日本学術振興会特別研究員(RPD)
TEL:075-751-4949 FAX:075-751-3310
E-MAIL:osachi“AT”kuhp.kyoto-u.ac.jp

AMED事業に関するお問合せ

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
創薬戦略部 医薬品研究課
創薬基盤推進研究事業 担当
TEL:03-6870-2219 FAX:03-6870-2244
E-MAIL:souyakukiban“AT”amed.go.jp

※E-MAILは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

最終更新日 令和元年12月4日