2018年度 研究事業成果集 炎症性腸疾患の疾患活動性を迅速に評価する血清バイオマーカー(LRG)の実用化

血液検査による炎症性腸疾患の迅速な活動性評価が可能に

医薬基盤・健康・栄養研究所の仲哲治招へいプロジェクトリーダー(現・高知大学医学部免疫難病センター教授)らの研究グループが、積水メディカル株式会社(代表取締役社長:久保肇)と共同で開発したロイシンリッチα2グルコプロテイン(LRG)の迅速定量法について、2016年3月31日に厚生労働省に体外診断用医薬品として製造販売承認の申請を行い、2018年8月21日 付で製造販売承認の取得に至りました。

取り組み

炎症性腸疾患は、腸管に慢性・再発性の炎症を引き起こす原因不明の難病であり、潰瘍性大腸炎とクローン病に大別され、厚生労働省により医療費助成対象疾病(指定難病)に定められています。

わが国の患者数は近年、増加の一途をたどっています。標準的治療として5-アミノサリチル酸製剤やステロイド製剤、免疫調節薬が使用されてきましたが、抗TNF-α抗体製剤等の生物学的製剤の導入により治療成積が劇的に向上し、内視鏡的に炎症がない状態である粘膜治癒も達成できるようになりました。現在の治療指針としては、各種薬剤を適切に組み合わせ粘膜治癒をもたらすことが、病勢のコントロールと再燃予防に重要とされています。しかしながら、粘膜病変の活動性を反映する有用なバイオマーカーがないことが、炎症性腸疾患の治療において大きな障壁となっていました。

研究グループは、LRGが炎症性腸疾患の活動性マーカーとなることを発見し、積水メディカル社と共同でLRGの迅速定量法の実用化の開発を進めました。

成果

臨床性能試験の結果、炎症性腸疾患の疾患活動性を評価する上で血清LRGが有用であることが認められ(図1)、2016年3月31日に厚生労働省に体外診断用医薬品として製造販売承認の申請を行い、2018年8月21日付で製造販売承認の取得に至りました。

図1 血清LRGの潰瘍性大腸炎の粘膜病変の活動性評価

今回共同開発した炎症性腸疾患の疾患活動性を迅速に測定する方法は、患者から採取した少量の血液を用いて血清中のLRGの濃度をラテックス免疫比濁法によって約10分で行えます。この測定法は検査施設を持つ病院で実施可能であり、その日の診察の間に結果を得ることができます(図2)。血液中のLRG濃度は、従来の血液マーカーよりも、内視鏡検査による疾患活動性の評価と非常に強く相関します。そのため、治療に伴う疾患活動性の変化を簡便かつ適切に評価でき、不要な内視鏡検査を回避することや治療薬の増減や変更を判断することが容易になります。これは医療の質を高めるのみならず、医療費削減にもつながることが期待されます。また、LRGは炎症性腸疾患以外にも、関節リウマチなどさまざまな炎症性疾患に有効なマーカーとなることが分かっており、他の難病治療にも貢献することが期待されます。

図2 血清LRG検査では、受診日当日に炎症性腸疾患の病状評価や治療薬調整が可能

最終更新日 令和2年6月23日