2019年度 研究事業成果集 バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」を移植する臨床研究を開始

バイオ3Dプリンタで造形した小口径Scaffold free細胞人工血管

佐賀大学の中山功一教授、伊藤学助教及び株式会社サイフューズ(本社:東京都文京区、代表取締役:秋枝静香)は、独自に開発したバイオ3Dプリンタを用いて作製した「細胞製人工血管」を世界で初めてヒトへ移植する臨床研究を開始いたします。本臨床研究は、患者自身の細胞のみから構成される細胞製人工血管を作製し、バスキュラーアクセス*1の再建を目的としています。

*1 バスキュラーアクセス
血液透析を行う際に血液を出し入れするための入り口。自己血管内シャントや留置カテーテル、動静脈直接穿刺などいくつか手法がある。

取り組み

現在、腎不全等により血液透析が必要となった場合、人工透析患者の96%以上がバスキュラーアクセスとして動静脈内シャント*2を使用していると言われています。この動静脈内シャントの作製には患者自身の自己血管を用いるか、または自己血管による作製が困難な場合には合成繊維や樹脂といった人工材料から作製される小口径の人工血管が使用されていますが、従来の人工血管は感染しやすく閉塞しやすい等の課題を抱えているのが現状です。

そこで、これら小口径の人工血管の課題を克服するべく、より生体血管に近い人工血管の開発を目指し、佐賀大学と京都府立医科大学及び株式会社サイフューズは、これまでにAMEDの支援を受け、バイオ3Dプリンタ「Regenova®」を用いた細胞塊の積層技術により、細胞のみから構成される小口径の細胞製人工血管(Scaffoldfree*3細胞製人工血管)の開発に取り組んで参りました(図)。これらの成果をもとに、今回、バスキュラーアクセスの再建を目的とし、細胞のみから構成される細胞製人工血管をヒトに移植する臨床研究を実施します。

図 バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」
*2 動静脈内シャント
手術で動脈と静脈を連結し、動脈の血液を直接静脈に流れこませることで、血液透析が円滑に行える十分な血液量を確保させる。
*3 Scaffold free(スキャフォールドフリー)
多くの研究で使われる「細胞が立体構造を維持するための足場材料(スキャフォールド)」を用いることなく細胞だけで立体構造を構築する。

成果

臨床研究「スキャフォールドフリー自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」は、維持透析を要する末期腎不全を対象疾患とし、以下のように臨床研究をします。

患者自身の鼠径部などから皮膚組織を約1cmx3cm程度採取し、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC:愛知県蒲郡市)内の細胞培養専用のクリーンルームに皮膚片を専用容器で輸送します。皮膚片を酵素処理にて細胞を分離し、数日間培養して線維芽細胞を増殖させ、必要な数の細胞が得られたら、細胞凝集現象を誘導する専用の培養皿で細胞凝集体(スフェロイド)を作製し、臨床用のバイオ3Dプリンタ(澁谷工業(株)とサイフューズの共同開発)を用いてチューブ状にプリントします。細胞製人工血管の強度を高めるよう線維芽細胞にコラーゲン産生を促す培養を行い、一定の強度が確認されたらJ-TECから佐賀大学医学部附属病院へ、細胞製人工血管内の細胞を生かしたまま輸送します。移植に適しているか細胞製人工血管を担当医が判定したうえで、患者自身の肘~前腕の動静脈へ移植を行います。移植直後から細胞製人工血管の状態を定期的に観察します。

展望

本細胞製人工血管は、人工材料を用いず患者自身の細胞のみから作製されているため、従来の人工材料から作製された人工血管に比べ抗感染性や抗血栓性において有用性が期待されること、また、バスキュラーアクセスの開存性向上やバスキュラーアクセスで繰り返すトラブルによる患者の苦痛が軽減されること等が期待されます。

最終更新日 令和3年8月13日