慢性炎症はサイレントキラーとも言われ、気付かぬうちに体内で進行し、がん、動脈硬化、糖尿病、アルツハイマー病や多発性硬化症など、多くの疾患の発症・進行を促進させ、われわれのからだに取り返しのつかない病的状態をもたらす大きな原因であることが近年明らかになってきました。これに対して、平成22年度にCREST「炎症の慢性化機構の解明と制御に向けた基盤技術の創出」研究開発領域が発足しました。そして、100以上もの応募があった中から選ばれた17の研究チームが、万病のもとである「慢性炎症」に研究の焦点を定め、炎症が慢性化する機構を明らかにし、慢性炎症を早期に検出し、制御し、消退させ、修復する基盤技術を創出することを目指して、活発に研究を進めてきました。この研究プロジェクトは本年度をもって終了しますが、それを前に、慢性炎症研究がどこまで進んだのか?新しい炎症制御技術が出てきたのか?そして何が今後の課題なのか?などについて、広く領域外の方々に知っていただくことを目的に、今回、本シンポジウムを開催いたします。
このシンポジウムでは、9研究チームが口頭発表を行い、それぞれの研究成果を一般向けにわかりやすく解説します。さらに、全17研究チームがポスター発表により、自らの研究成果によって、慢性炎症の何が明らかになり、何が今後解明すべき点として残っているかを視覚的に明示することを試みます。
慢性炎症の予防、制御が可能になれば、慢性炎症によって誘導される種々の疾患の発症を未然に防ぐことが可能になり、病気が始まってから治療をするのではなく、その発症に先立ち診断、対処ができる「高齢社会に必要な先制医療」の礎を築くことができます。21世紀末には世界の多くの国で、未だ経験したことのないような超高齢社会となることが予想されていますが、このような先制医療の礎を築くことにより、人々が健やかに老いることが可能になり、等しく健康で長寿を全うできる社会の形成に大きく資することになるはずです。これらのことを念頭に置きながら、このシンポジウムがAMED-CRESTによる慢性炎症研究の最先端を知っていただくための良い機会となり、参加者の皆さまにより活発な議論が繰り広げられることを期待します。