2016(平成28)年 平成27年度市民向け成果発表会「すすむがん研究 変わる未来―がん研究者たちの挑戦―」演題概要

2016(平成28)年

がん細胞の“アキレス腱”を狙い撃ちしてがんの増殖を封じる

増富 健吉(国立がん研究センター)

正常細胞にはなく、がん細胞だけがもっている特徴を、当研究室で新たに発見しました。その特徴を「がん細胞の“アキレス腱”」と捉え、現在“アキレス腱”を狙い撃ちできる治療方法の開発を進めています。現在、悪性脳腫瘍や肝臓がんなどで、先行してその効果を調べる研究が進められており、近い将来には、臨床応用ができると予想しています。その他のがん種でも、同じ“アキレス腱”を持つがんには今回の治療法が効くと期待でき、将来的にはがん細胞のみを退治し、副作用の少ない薬の開発につながることが期待されます。

今は薬の効かない肺がん患者さんをいかに見つけていかに治すか?

矢野 聖二(金沢大学)

日本人の肺がん患者さんに多くみられる「EGFR」という遺伝子変異。これを標的とする抗がん剤治療が行われてきましたが、「EGFR」変異をもっていても「BIM」という遺伝子多型を有する肺がん患者さんでは、「EGFR」を標的とする抗がん剤が効きにくいことがわかってきました。しかし、最近の研究によって、そのような患者さんでも別のメカニズムを有する抗がん薬を併用することで、肺がんを効果的に制御できる可能性が示されました。現在、その効果を確かめる臨床試験が実施されており、この臨床試験が成功すれば、今は抗がん剤が効かない「EGFR」変異ありの肺がん患者さんに大きな福音になるものと期待されます。

乳がんをもっと早期発見するために―超音波検査が拓く新たながん検診―

大内 憲明(東北大学)

日本では、女性のおよそ12人に1人が乳がんを発症し、特に30代後半から40代にかけてそのリスクが高まります。ところが、乳がん検診で通常行われるマンモグラフィ(乳房X線検査)は乳腺濃度が高い若い女性での限界が指摘されてきました。そこで、日本人の40代女性76,196人の協力を得て世界最大の臨床試験を行い、マンモグラフィに超音波検査を組み合わせることで、40代女性での乳がん発見率が1.5倍に高まり、早期の乳がんが多く見つかることを、世界で初めてつきとめました。この成果は日本および世界で増え続ける乳がん対策の重要な礎となり、将来的に乳がん検診の精度が高められると期待されます。

高圧処理で腫瘍をなくすー色素性母斑(黒あざ)の再生医療

森本 尚樹(関西医科大学)

色素性母斑(黒あざ)は悪化すると、皮膚がんとなる場合があります。これまでは、母斑が大きくて手術をしていない患者さんや、何度も手術をしても母斑が残存している患者さんがいましたが、患者さん自身の細胞と組織だけで皮膚を再建する再生医療が可能になりつつあります。具体的には、患者さんの母斑のある皮膚を切り取って高圧で処理した後、再移植することにより、コラーゲンなどの主要成分はそのままで、腫瘍細胞を完全に死滅させることに成功しました。今後、臨床研究への参加を希望する患者さんを募集し、5年後には治療法として確立する予定です。

患者さんががん治療法を選択するためのナビゲーションシステム

白土 博樹(北海道大学)

がんと診断された患者さんやご家族が知りたいのは、がんや治療に関する一般的な情報ではなく、「自分のがんはどうなのか」「自分が治療を受ける医療機関はどうなのか」です。治療を受ける医療機関で、実際に選択されている治療法や入院期間、医療費概算等の情報を示し、説明を受けることで、患者さん自身が納得して治療を受けられ、患者さんと医療機関の相互の信頼も高まります。また、医療者にとっても、日々変化する現場の医療状況や、進歩する医療技術に対応することが求められています。「がん治療ナビゲーションシステム」は、そんな患者さんの疑問や医師の課題を「情報」で解決するツールです。

最終更新日 平成29年8月16日