プレスリリース リン酸化プルランを用いた世界初の多目的接着性人工骨を開発するベンチャー企業設立(JST研究成果最適展開支援プログラム(A‐STEP)の研究開発成果を事業展開)

プレスリリース

科学技術振興機構(JST)
北海道大学
岡山大学
日本医療研究開発機構(AMED)

ポイント

  • 骨や歯などの生体硬組織に強固に接着する多糖誘導体リン酸化プルランを主成分とする新しい人工骨の開発に成功し、これを実用化するベンチャー企業を設立した。
  • 開発した人工骨は、高い接着力、圧縮強度の最適化、生体吸収性・骨置換速度の最適化を実現し、歯科領域以外に外科領域(整形外科や脳外科)への応用も期待できる。

概要

JST(理事長 中村 道治)は産学連携事業の一環として、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業のための研究開発を推進しています。

平成24年度より岡山大学に委託していた研究開発課題「リン酸化プルラン注1)を用いた世界初の多目的接着性人工骨の開発」[プロジェクトリーダー:吉田 靖弘 北海道大学  大学院歯学研究科 教授(元 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 准教授)、起業家:松尾 健哉、起業支援機関:岡山大学]において、本プロジェクトの協力企業が独占供給する医療用多糖類のプルラン注2)から得られるリン酸化プルランとリン酸カルシウム(骨の類似成分)を混合することにより、歯や骨に強固に接着する人工骨の開発に成功しました。この成果をもとに研究開発に参画したメンバーらが出資して、平成27年4月1日に「メディカルクラフトン株式会社」を設立しました。

歯周病やインプラント周囲炎では周りの骨を溶かすことが問題となっていますが、その治療に有効な人工骨はありませんでした。従来から用いられている歯科用人工骨である顆粒状のリン酸化カルシウムは、体内で吸収されて骨に置き換わるのに数年必要であることから、歯やインプラントの周りなど感染しやすい部位の治療には不向きでした。

吉田教授らはこの問題を解決するために、歯や骨に対して強固に接着し、体内で吸収され組織に置き換わる新規生体材料のリン酸化プルランを開発し、これとリン酸カルシウムを混合して、接着力、圧縮強度(潰れにくさ)、生体吸収・骨置換速度(材料が吸収されて組織が再生するのに必要な時間)をコントロール可能なペースト状人工骨を創生しました。これにより、人工骨を必要部位に必要量とどめることができ、また、短期間で周囲の組織を再生するため、従来品であるリン酸カルシウムの顆粒では不可能であった歯やインプラントの周りの骨の治療にも有効であることが分かりました。

また、今回開発に成功したリン酸化プルランとリン酸カルシウムからなる人工骨は、骨粗しょう症による骨折治療など外科領域の治療にも応用が期待できます。

今後は、設立したベンチャー企業を通じて、まずは歯科領域、そして将来は整形外科領域を中心とした医科領域へと広く普及していく計画であり、平成33年度を目途に歯科領域での製造販売承認の取得を経て、上市3年後には売上目標6.5億円を目指します。

なお、平成27年4月1日に日本医療研究開発機構(AMED)が設立されました。これにともないAMEDは、本課題を承継し、引き続き製品化に向けた支援を実施いたします。


今回の企業の設立は,以下の事業の研究開発成果によるものです。

研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)本格研究開発ステージ 起業挑戦タイプ
研究開発課題:
「リン酸化プルランを用いた世界初の多目的接着性人工骨の開発」
プロジェクトリーダー:
吉田 靖弘(北海道大学 大学院歯学研究科 教授)
起業家:
松尾 健哉
起業支援機関:
岡山大学
研究開発期間:
平成24~27年度

A-STEPは大学・公的研究機関などで生まれた研究成果をもとに、実用化を目指すための幅広い研究開発フェーズを対象とした技術移転支援制度です。今回の「メディカルクラフトン株式会社」設立により、JSTの「プレベンチャー事業」、「大学発ベンチャー創出推進」、「若手研究者ベンチャー創出推進事業」および「A-STEP」によって設立したベンチャー企業数は、129社となりました。

開発の背景

歯科領域においては、本文中に記したとおり従来の材料は、歯やインプラントの周りなどの感染しやすい部位の治療に使用する上で障害となる多くの問題を抱えています。

また、65歳以上の高齢者人口は過去最高の3,296万人となり、総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)も25.9%と過去最高となりました。年間の全骨折患者数219万人のうち、高齢者の骨折患者数は138万人(厚生労働省平成23年度患者調査より推計)で、実にその7割近くを占めており、高齢者数の増加により今後も増え続けると考えられています。高齢者の骨折は寝たきりのリスクを伴い、「寝たきり」から「痴呆」へと移行する確率が極めて高いことが知られています。そのため、骨折部位によっては年齢に関係なく手術を行う必要があります。例えば大腿骨頚部骨折では、歩行困難によりそのまま「寝たきり」につながるため、100歳以上の高齢者であっても数日以内に手術を行うのが通例です。その際の手術には金属製プレートや髄内釘などに加え、PMMA骨セメント注3)やリン酸カルシウム系の人工骨が用いられています。しかしPMMA骨セメントは必ずしも生体に安全な材料とは言い難く、死亡例も多く報告されています。一方、リン酸カルシウム系の各種人工骨では剤形が粉末や顆粒であるため、接着性を持つものはなく、患部に上手くとどめることができません。すなわち、治療手術時の操作性という点では大きな問題があります(表1参照)。加えて、いずれも吸収・置換が遅く、吸収に数年の期間を要するため、活性の低下した高齢者では骨再生への効果が期待できません。このような状況下、安全でかつ操作性に優れ、生体硬組織すなわち骨や歯に対して強固に接着する生体吸収性材料の開発が求められていました。

研究開発の内容

吉田教授らは、独自に開発した多糖誘導体リン酸化プルランをキーマテリアルとした新しい人工骨を創製しました。リン酸化プルランは、生体内での親和性と安全性を持ち、歯や骨に接着する新しい材料で、それを骨の無機成分に近いリン酸カルシウムと混ぜ合わせることにより、①吸収と骨置換を短期に達成する非硬化型ペースト状人工骨や、②高い接着性を示す硬化型人工骨など、従来のリン酸カルシウム系人工骨の問題点を改善したさまざまな人工骨を開発しました。これらを組み合わせることにより、骨粗しょう症患者の強度が低下した骨の骨折治療や骨の大規模欠損の再建治療をはじめ、従来の材料では不可能であった骨折や骨欠損への応用が期待されています。先行する歯科用途については、歯周病で起こった重度の骨吸収など、従来品では不可能であった疾患の治療にも有効であることが非臨床試験で確認(図1)されており、歯科医療にブレークスルーをもたらすことは明らかです。

本プロジェクトでは、新たにベンチャー企業を設立して開発を加速するとともに、まず歯科用途で実用化し、その後に整形外科や脳外科用途へと展開を図ります(図2)。

今後の事業展開

日本のみならず世界の先進国は超高齢化の一途を辿っています。そのため開発する人工骨の市場は国内だけでなく、世界を視野に入れた事業展開を考えています。歯周病は日本でも働き盛りの年代の実に88%が罹患し、45歳以上の58%が4mm以上の歯周ポケットを持つ国民病です。本プロジェクトで最初に実用化を試みる歯周外科に、将来的に展開を図る口腔インプラント周囲の外科手術適応患者を加えると、対象者は国内でも1,500万人に達すると目算されています。先行して製品化する歯周科用製品は国内で販売した後、ヨーロッパ、続いて米国を初めとする諸外国へ事業を展開します。続いて実用化する整形外科用の骨補填材についても、国内だけでなく海外での事業展開を行う予定です。整形外科用人工骨は、歯科用途の市場規模を大きく上回る巨大な市場があります。具体的な経営指標として、商品化されてから3年後に売上目標6.5億円を目指します。

参考図表

 

表1 PMMA骨セメントとリン酸カルシウム系人工骨の特徴
リン酸カルシウムは顆粒やブロックはもちろんのこと、硬化するセメントタイプでも接着力は得られない。そのため、PMMA骨セメントが現在も継続使用されている。今回、開発した人工骨は接着の強さを調節できることから、治療部位に応じて最適な接着性を付与することができる。

図1 リン酸化プルランをキーマテリアルとした歯科用人工骨の治療効果(動物実験結果)
リン酸カルシウム顆粒や臨床で行われている歯周治療法を施しても、コントロール(未使用)の場合と同様に歯槽骨の回復は困難であるが、リン酸化プルラン含有人工骨を用いると、黄色ラインの広範囲にわたって骨が新生している(黄星印)。8週間後の時点で、歯槽骨はほとんどもとの高さまで回復した。


図2 歯科用途で実用化した後、医科用途に展開(「歯科から医科へ」切れ目のない開発)

用語解説

注1)リン酸化プルラン
天然多糖類プルランのリン酸化物。本材の主要な原料で、歯や骨に対して強固に接着し、生体内で吸収されることから、接着性を持つ骨補填材としての実用化が期待されている。また、薬剤の担体にもなりうるため、リン酸化プルランを含有した口腔ケア製品の実用化も進められている。
注2)プルラン
グルコースのみからなる多糖類の一種で、食品として多用されている。水溶性に優れ、速やかに水に溶解する。また、増粘性、接着性、付着性、粘着性、造膜性、被膜性などに優れ、酸素を通しにくいことから薬のカプセルにも応用されている。
注3)PMMA骨セメント
PMMAすなわちポリメチルメタクリレートは生体内で不溶性の高分子で、人工関節の固定や脊椎の圧迫骨折の治療などに用いられている。体内でアクリル樹脂を反応・硬化させるものであるため必ずしも安全性は高くなく、死亡例も多く報告されている。

お問い合わせ先

開発内容に関すること

松尾 健哉(マツオ ケンヤ)
メディカルクラフトン株式会社 代表取締役 
〒701-0203 岡山県岡山市南区古新田1125
Tel/Fax:086-282-1245
E-mail:k.matsuo"AT"daiyak.co.jp

吉田 靖弘(ヨシダ ヤスヒロ)
北海道大学 大学院歯学研究科 教授
〒060-8586 北海道札幌市北区北13条西7丁目
Tel:011-706-4249 Fax:011-706-4253
E-mail:yasuhiro"AT"den.hokudai.ac.jp

JST事業に関すること

科学技術振興機構 産学連携展開部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-5214-0016 Fax:03-5214-8999
E-mail:a-step"AT"jst.go.jp

AMED事業に関すること

日本医療研究開発機構 産学連携部
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2214
 E-mail:sangaku"AT"amed.go.jp

報道担当

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:jstkoho"AT"jst.go.jp

日本医療研究開発機構 経営企画部 企画・広報グループ
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北海道大学 総務企画部 広報課
〒060-0808 北海道札幌市北区北8条西5丁目
Tel:011-706-2610 Fax:011-706-2092
E-mail:kouhou@jimu.hokudai.ac.jp

岡山大学 広報・情報戦略室
〒700-8530 岡山県岡山市北区津島中一丁目1番1号
Tel:086-251-7292 Fax:086-251-7294
E-mail:www-adm"AT"adm.okayama-u.ac.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください

掲載日 平成27年4月8日

最終更新日 平成27年4月8日