成果情報 複数企業の社内データを産学で共有して新薬創出を加速する革新的な枠組みの構築に成功

成果情報

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
国立研究開発法人 理化学研究所
公立大学法人大阪 大阪市立大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

この度、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(医薬健栄研)AI健康・医薬研究センター長 水口賢司、国立研究開発法人理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター チームリーダー本間光貴、公立大学法人大阪 大阪市立大学ユニバーシティー・リサーチ・アドミニストレーション(URA)センター URA小村弘らのグループは、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の創薬支援推進事業である「創薬支援インフォマティクスシステム構築」(iD3-INST)*1において、国内製薬企業7社と社内データ及び予測モデルを共有する、新規の産学連携の枠組み*2を構築しました。

この枠組みにより、製薬企業が持つ質の高い薬物動態と毒性のスクリーニングデータからなるデータベース(「連携版」データベース)とそれに基づく予測モデルを創出することに成功しました。さらに、予測モデルを株式会社富士通にライセンスすることにより、iD3-INSTで創出した「基本版」創薬支援プラットフォーム*3を長期的に維持するための仕組み(エコシステム)を構築しました(図1)。

図1 創薬支援インフォマティクスシステム構築事業における企業との連携と仕組み

本成果は、製薬企業の重要な知的財産である化合物情報及びスクリーニングデータを、産学連携において共有・活用する世界的にも先進的な成功事例であり、国内での医薬品創出のためのオープンイノベーションを加速させるものと考えられます。また、創薬支援ネットワーク*4によるアカデミア発創薬への支援機能を増強するとともに、国内製薬企業の創薬プラットフォームの強化に繋がることも期待されます。

本産学連携の取組は、科学雑誌「Drug Discovery Today」(2021年1月28日付の電子版)に掲載されました。

用語説明

*1 iD3-INSTはAMEDが「オールジャパンでの医薬品創出プロジェクト」の一環として、2015年度から5か年の計画で創薬支援に活用するためのデータベースや予測モデルを開発することを目的として実施したプロジェクトです。

*2 産学連携はインフォマ産学連携(informatics Public Private Partnership: iP3)協議会にて進められ、iP3協議会には、アステラス製薬株式会社、大塚製薬株式会社、小野薬品工業株式会社、第一三共株式会社、武田薬品工業株式会社、田辺三菱製薬株式会社、日本たばこ産業株式会社が参画しました。

*3 基本版創薬支援プラットフォームは、Web上において公開されている薬物動態・心毒性・肝毒性のデータを収集した基本版データベースと、それらのデータベースを用いて作成された予測モデルからなり、大学等における多くの研究者が利用可能です。

*4 創薬支援ネットワークは、大学の優れた基礎研究の成果を医薬品として実用化に導くため、AMED創薬戦略部が本部機能を担い、医薬健栄研、理研、産業技術総合研究所等との連携により、革新的医薬品の創出にむけた研究開発等を支援しています。

詳細は論文概要資料をご覧ください。

発表雑誌

科学雑誌
「Drug Discovery Today」(2021年1月28日付の電子版)
タイトル
A public-private partnership to enrich the development of in silico predictive models for pharmacokinetic and cardiotoxic properties

(論文概要資料)創薬支援インフォマティクスシステム構築事業(iD3-INST)における産学連携の取り組み

背景・目的

米国では上市された医薬品の約2/3がアカデミアシーズから創出されたものですが、日本は高い基礎研究力を有しているにも関わらず、アカデミア創薬の医薬品は限られています。これまでのアカデミア創薬では薬物動態・安全性がほとんど評価されず、アカデミアシーズを臨床へ繋ぐことができません。そのため、基礎研究者がアクセス可能な、薬物動態・安全性評価の創薬研究基盤の整備が必要とされています。そこで、創薬支援インフォマティクスシステム構築事業(iD3-INST)において、Web上で公開されている薬物動態・心毒性・肝毒性のデータを選別・編集した基本版データベース(DB)及び薬物動態・安全性AI予測モデル(基本版予測モデル)の構築を目指し、2015年にプロジェクトを開始しました。

予測モデルの精度はデータの質と量に依存すると考えられています。そこで、高品質かつ多くのスクリーニングデータを保有している製薬企業と連携し、多様かつdrug-likeな社内化合物情報を加えた連携版DB及び世界最高水準の予測モデルからなる統合プラットフォームの創出を目指しました。

ポイント

  • Web上で公開されている薬物動態・心毒性・肝毒性に関する選別・編集済みデータを格納した基本版DB及び基本版予測モデルからなる基本版創薬支援プラットフォームを作成しました。なお、薬物動態のプラットフォームはDruMAP、心毒性はAMED Cardiotoxicity Database、肝毒性はDILI-TOOLBOXからアクセス可能です。
  • 製薬企業と公的研究機関からなるインフォマ産学連携(informatics public private partnership:iP3)の枠組みを構築しました。
  • 製薬企業が有する質の高い薬物動態及び毒性データからなる連携版DBを構築し、そのDBを用いて世界最高レベルの連携版インシリコ予測モデルを作成しました。
  • 本事業終了後も、基本版創薬支援プラットフォームを維持・管理するための仕組みの構築に成功しました。

取り組みの成果

製薬企業からデータの提供を受ける試験項目は、創薬研究における重要度と製薬企業への事前アンケートに基づいて、iP3協議会で決定しました(図2)。製薬企業7社から、薬物動態[溶解性、血漿タンパク結合(ラット/ヒト)、肝ミクロソームによる代謝安定性(ラット/ヒト)]、心毒性[hERG阻害]の各評価について、23,747化合物のデータの提供を受け、連携版DBを構築しました。なお、モデル作成に必要な化学構造情報は、各製薬企業の重要な基盤情報であり、かつ機密情報であることから、化学記述子で提供を受けることにしました。さらに、薬物の脳への移行性を予測するための評価に関しては、142化合物と化学構造情報(構造式を含む)の提供を受けました。一方、研究機関からは、連携版DBを用いて作成した薬物動態及び心毒性の判別モデルまたは定量モデル(連携版予測モデル)を連携企業へ提供をしました。現在、それらのモデルの性能等について連携企業からフィードバックを受け、改善を行っています。さらに、連携版予測モデルは、創薬支援ネットワークにおける大学の優れたシーズを医薬品として実用化するための創薬研究に活用されています。また、公開されている基本版創薬支援プラットフォームを、本事業終了後においても維持・管理するため、図3に示した仕組みを構築しました。

図2 iP3協議会での協議を経て取り決めた連携の枠組み
図3 基本版プラットフォームを維持・管理するための仕組み

今後の展望

  • 基本版及び連携版プラットフォームは、アカデミア及び製薬企業における創薬基盤強化に繋がるものと考えられます。
  • 本連携においては、化合物数は少なかったものの、企業から提供された化学構造式をプロジェクト内において共有することができました。このことは、産学連携の成果であり、化学構造式を共有する契機となり、今後、オープンイノベーションを加速することに繋がるものと期待されます。
  • 本事業の取り組みは、創薬標的と関連しない非競合領域である薬物動態や毒性データの共有でしたが、今後競合的な領域である薬効スクリーニングデータの共有へ繋がることが期待され、AMEDの「創薬支援推進事業―産学連携による次世代創薬AI開発―」において、さらに発展するものと考えられます。

お問い合わせ先

研究について

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 AI健康・医薬研究センター 
バイオインフォマティクスプロジェクト
水口 賢司
TEL:072-639-7010 FAX:072-641-9881
E-Mail:kenji“AT”nibiohn.go.jp

公立大学法人大阪 大阪市立大学 URAセンター
小村 弘
TEL:06-6645-3887 FAX:06-6646-6125
E-Mail:h-komura“AT”osaka-cu.ac.jp

広報担当

国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 戦略企画部
TEL:072-641-9832 FAX:072-641-9821
E-mail:kikaku“AT”nibiohn.go.jp

国立研究開発法人理化学研究所 広報室 報道担当
E-mail:ex-press“AT”riken.jp

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
創薬事業部 創薬企画・評価課
TEL:06-6372-1771 FAX:06-6372-1772
E-mail: id3desk“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 令和3年3月8日

最終更新日 令和3年3月8日