2017年度 研究事業成果集 骨の無機成分と同じ組成の人工骨の開発・実用化
骨の無機成分と同じ組成の人工骨の開発・実用化
産学連携部 産学連携課
歯科用インプラント治療で使用できる人工骨として薬事承認日本初
2017年12月、歯科用インプラント治療で使用できる人工骨が日本で初めて薬事承認されました。九州大学の石川邦夫教授が骨の無機成分と同じ組成の顆粒状炭酸アパタイトを人工合成することに成功し、その技術を基にAMEDの研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)で株式会社ジーシーが開発・実用化しました。これによりインプラント治療時の患者さんの負担が大幅に軽減されることが期待できます。
■さまざまな形状の炭酸アパタイト
左から粉末、ブロック、顆粒の炭酸アパタイト。これまでにも製造可能とされてきた粉末状の場合は炭酸アパタイトが分解され炎症などが引き起こされるが、ブロック状や顆粒状ではそのリスクがなく臨床応用が可能
取り組み
歯科用インプラント治療では、骨再建術用に患者さん本人の骨(自家骨)や人工骨(動物由来など)を使った治療が行われていました。しかし、自家骨の場合は使用する骨を採取する際の身体的負担が大きく、インプラント部分の骨量が少ない高齢者などは大きな負担を強いられていました。また、日本では歯科用インプラント周囲で使用できる人工骨は薬事承認されておらず、既存の人工骨は安全性や治療効果の面において課題がありました。
安全で機能性が高い歯科用インプラント周囲で使用できる人工骨開発が求められる中、AMEDの「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)」による産学連携プロジェクトで、骨の無機成分(炭酸アパタイト)と同じ組成の人工骨が世界で初めて開発され、薬事承認されました。
成果
骨の無機成分である炭酸アパタイトは、製造法の確立している粉末状物については、体内に移植した際に炎症を引き起こしやすいため、治療には使えないという問題がありました。九州大学歯学研究院の石川邦夫教授は、リン酸塩水溶液中でブロックや顆粒状の炭酸カルシウムから炭酸アパタイトを生成する組成変換を行うことで、形状を保持したまま炭酸アパタイトを人工的に作ることに成功しました。炭酸アパタイトは生体内で骨に置き換わります。
■骨の無機成分は炭酸基を含む炭酸アパタイト
株式会社ジーシーは、この研究成果を基に「炭酸アパタイト」を主成分とする歯科用インプラント部へ適用可能な骨充填材を開発しました。徳島大学病院、東京医科歯科大学歯学部附属病院、九州大学病院において治験を行ったところ、ほぼ全ての症例において骨の再生が認められ、インプラント部分の骨量が少ない患者に対する臨床試験でも有効な結果が得られるなど、自家骨を代替する骨置換材として十分な強度、安全性、骨再生能力が確認されました。
この成果により自家骨を体内から取り出すという患者さんの負担が大幅に減り、顎の骨が不足している患者さんも治療が受けられるようになります。
■治験による検証結果
骨が不足した部分に挿入した炭酸アパタイト顆粒により骨の厚みが増し、病理組織像では炭酸アパタイト(白色部分)周辺に骨(緑色・赤色部分)の形成が確認された
展望
この成果により、製造販売承認された合成炭酸アパタイトが歯科用インプラント治療の分野で世界で初めて用いられることになります。また全て国産材料でインプラント治療をすることが可能になりました。今後さらに対応する症例が広がることによって、より多くの患者さんのQOL向上につなげることが期待されます。
関連リンク
最終更新日 平成30年11月15日