2018年度 研究事業成果集 周産期・小児臨床研究コンソーシアムを構築

日本から良質な多施設共同臨床研究を海外に発信

日本の周産期・小児分野における臨床研究は世界から大きく遅れています。そのため富山大学の齋藤滋教授が主導し、国立成育医療研究センター、日本周産期・新生児医学会の協力を得て、周産期・小児臨床研究コンソーシアムを立ち上げました。2018年には周産期・小児臨床研究の公募に50課題もの応募があり、優れた研究課題については国立成育医療研究センターの専門家による支援を行い、臨床試験・医師主導治験の計画をブラッシュアップいたしました。

取り組み

日本の母体死亡率と周産期死亡率は、全国的な周産期センターの設置ならびに海外の臨床研究を基にしたガイドラインの順守によって世界最低水準となりました。医療研究開発により、患者の予後向上や世界に寄与する高度医療技術の向上が望まれますが、日本における多施設臨床研究の基盤は海外に比べ大きく遅れています。

そのため、AMEDからの研究費助成により臨床研究に関する基本的事項を教育するDVDを作成し、ホームページに掲載しました。

また、日本周産期・新生児医学会内に周産期・小児臨床研究コンソーシアムを設置し、個人の臨床研究に対する学会のサポートにより、多施設共同研究の推進が簡便になるシステムを構築しました。さらに、国立成育医療研究センターへの臨床研究サポート人材の配置により、一部の優れた研究に対してプロトコル作成、生物統計、データマネジメント等の支援を行い、日本の周産期・小児臨床研究を推進する枠組みをつくり上げました(図)。

図 周産期・小児臨床研究コンソーシアムの役割

成果

日本周産期・新生児医学会内に周産期・小児臨床研究コンソーシアム委員会を設立し、産婦人科、小児科、小児外科から研究課題を応募する体制を整えるとともに、国立成育医療研究センター内に臨床研究をサポートする体制(人材雇用、標準業務手順書の整備等)を強化しました。2018年に周産期・小児臨床研究を公募したところ、予想を上回る50課題の応募があり、5課題をAMED研究として推薦し、2課題を条件付き推薦で採択しました。公募課題の中で評価が高かった研究について、国立成育医療研究センターの専門家によるサポートを行い、研究計画をブラッシュアップするためのワークショップを2019年2月2日に開催しました。

また、臨床研究に関する教育コンテンツ(「臨床研究ことはじめ」「臨床研究入門①」「臨床研究入門②」「周産期・新生児医療領域における開発戦略」)を作成し、日本周産期・新生児医学会のウェブサイト上で公開しました。周産期臨床研究の専門家を目指す医師に対してはon the job trainingを行い支援しました。

日本産科婦人科学会、日本小児外科学会、日本周産期・新生児医学会、日本新生児成育医学会、ならびに東北メディカル・メガバンク機構と協議を重ね、周産期データベースや人口動態統計ともリンケージする計画を立て、関連システムの調達を行いました。DPC(診断群分類)データベースとのリンケージが可能かを検討するパイロット研究を行い、新生児データベースの多くの項目がDPCデータベース上から自動抽出可能であることを新たに見いだしました。

このように、周産期・小児臨床研究をサポートする体制がスタートしましたので、今後は日本から良質な多施設共同臨床研究を海外に発信されることが期待されます。

展望

周産期・小児臨床研究を教育する動画コンテンツを公開し、学会における相談ブースを設けて、研究者人口の増加につながりました。

また、周産期・小児臨床研究コンソーシアムを基盤として、臨床研究に対する一元的な相談・支援が可能になったため、大規模で質の高い臨床研究の企画が可能となりました。研究のアイデアを個人で提出し、その後、コンソーシアムの援助のもと研究内容をブラッシュアップした上で、個人と学会の融合によって多施設の協力も得られやすくなり、多施設共同臨床研究が複数実施されることが予想されます。その結果、日本で質の高い臨床研究が複数実施され、日本や世界で最高レベルの医療を実践できるようになることが期待されます。

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最終更新日 令和2年6月23日