2019年度 研究事業成果集 動く腫瘍の形を正確にとらえて治療が可能な陽子線治療システムの開発と薬事承認取得

陽子線治療の安全性向上、治療効果の向上を目指す

北海道大学の清水伸一教授の研究グループが発案し、株式会社日立製作所とともに開発してきた、陽子線治療ガントリーに付随するin roomコーンビームCT(CBCT)撮影技術が一部製造販売承認を取得しました。この技術により、日々の患者の体の様子に合わせた、より正確な陽子線治療を提供することができるようになりました。

取り組み

北海道大学と(株)日立製作所は、危険臓器(放射線に弱い臓器)への放射線照射を大幅に抑制することが可能な陽子線治療装置の開発を行ってきました。この度、呼吸による動きが大きい場所にある腫瘍や腫瘍の近くに金歯などの金属がある場合でも腫瘍の形状を明瞭にとらえることができるin roomコーンビームCT撮影技術を開発しました。この技術の薬機申請に必要な検証データを日立製作所と北海道大学で整え、2020年3月に一部変更製造販売承認申請し、2020年9月、承認を得ました。

これまでは、腫瘍の動きが大きい場合、腫瘍に確実に放射線を照射するために、動きの不確かさを考慮して少し広めに照射範囲を設定せざるを得ず、近傍の危険臓器への放射線照射の抑制が制限を受けることがありました。本技術により、このような動きのある腫瘍に対しても、日々の体形変化と腫瘍の形状を明瞭にとらえること、陽子線治療の効果を最大限に引き出すことが可能となり、より副作用の少ない陽子線治療の実現が期待されます。

腫瘍の大きさや位置により、患者によって副作用の発生する確率は異なるとされています。本研究ではまた、本技術を用いた治療で受ける恩恵が大きい患者を事前に予測する技術の開発を目指し、過去の臨床データを用いたシミュレーションによる研究も行っています。

成果

陽子線治療装置搭載2軸CBCT機能および四次元CBCT機能の臨床評価を実施し、本結果をもとに(株)日立製作所が陽子線治療システムPROBEAT-RTの一部変更製造販売承認を得ました。2軸のCBCTを用いることにより、体内のランドマークの三次元位置をトラッキングすることが可能となり、この情報を基に体の動きがある場合でも腫瘍および近傍の構造の明瞭な三次元断層像を得ることが可能になりました(M4R技術:Marker-basedFour-dimensional Reconstruction)(図1、2)。動く腫瘍の模型の撮像試験を実施し、本技術によって腫瘍及び周辺の構造を鮮明に描出できることを検証し、その結果を基に承認を得ることができました。

図1 M4Rシステム
図2 M4Rの原理

2軸CBCTによる金属アーチファクトのシミュレーションによるアーチファクト低減効果の予測に関する研究成果に関して、2019年5月に特許を出願しました。

治療計画時にNTCP(Normal Tissue Complication Probability,正常組織有害事象発生確率)を評価することで、個別患者ごとに本技術の適用性に関する医師の判断を支援するためのソフトウェア開発を進めました。

展望

北海道大学では、より多くの患者に低侵襲な陽子線治療が受けられるようになることを目指して研究開発を行っています。本研究は治療期間中の体形変化が無視できない疾患(頭頸部腫瘍や前立腺がん等)に対しても低侵襲な陽子線治療技術を提供できることを目指したものです。また、患者毎に本技術の適用を判断することで限られた医療リソースの中で、必要な患者には本技術を届けられるようにすることも目指しています。このように、技術の高度化と、医療リソースの適切な配分に資する技術の双方の研究開発を行うことで、より多くの患者に最適な治療法を提供できるようになると期待されます(図3)。

図3 本技術により期待される効果

最終更新日 令和3年8月13日