プレスリリース 日本人多層オミックス参照パネル公開―日本人集団の血漿のメタボローム&プロテオーム解析が完了―

平成27年7月2日プレスリリース

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

成果のポイント
  • 東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査に参加した日本人500人分の血漿オミックス解析を完了
  • 本成果は、今後の疾患関連マーカー探索の基盤となる
  • 日本人集団の血漿中の代謝物の濃度分布やタンパク質の頻度分布を広く内外の研究者に公開

東北大学東北メディカル・メガバンク機構(機構長:山本雅之、以下ToMMo)は、東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査*1に参加した日本人500人分の血漿オミックス解析*2を完了しました。500人以上の血漿の、網羅的メタボローム*3及びプロテオーム*4統合解析を行った世界初の成果です。本解析は、質量分析(MS)法*5と核磁気共鳴(NMR)法*6を複合的に駆使することにより、日本人集団の血漿中の代謝物の濃度分布やタンパク質の頻度分布を明らかにすることに成功し、今回、日本人多層オミックス参照パネル*7として公開します。

今後、ToMMoは、解析例の数や同定物質の種類を増やしてパネルの精度を上げるとともにゲノム情報等との関連解析を行い、幅広い医科学研究の基盤として活用されるよう、データベース(日本人多層オミックス参照パネル)を随時更新していきます。

背景

がんや生活習慣病など現在わが国で罹患率の高い疾患の多くは、複数の環境要因や遺伝要因が複雑に相互作用して発症します。血液中の代謝物やタンパク質の種類や濃度は、遺伝子や生活習慣の影響を受けて各個人で異なり、また同一人でも加齢や疾患の有無で変化します。このため疾患バイオマーカーとして注目されています。現在世界中の健康調査において、様々な生体分子を網羅的・包括的に解析する方法としてオミックス解析が導入され始めており、生活習慣や人種による代謝物などの違いと疾患との関連が注目されています。しかし、血漿中の代謝物を調べるメタボローム解析とタンパク質を調べるプロテオーム解析の両方を同じ対象者で大規模に行った例はこれまでありませんでした。また、遺伝要因との関連解析に必要なゲノム情報に関しても、遺伝子多型のみをスクリーニングするSNPアレイ解析がほとんどで、全ゲノム情報が解読*8された日本人集団を対象に大規模オミックス解析が行われた例はありませんでした。

今回の成果

500人分の血漿オミックス(メタボローム&プロテオーム)解析が完了

ToMMoは東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査に参加した500人分のオミックス情報を明らかにしました。500人分の血漿メタボローム及びプロテオーム解析の達成は世界初です。東北メディカル・メガバンク計画では、宮城県と岩手県在住の日本人を対象とした大規模なコホート調査とそれにもとづくバイオバンク構築を進めるとともに、ご提供いただいた一部の試料から血漿オミックス解析を進めてきました。本事業におけるオミックス解析は、質量分析(MS)法と核磁気共鳴(NMR)法という2つの解析技術を用いて、網羅的かつ高精度なデータを得ていることが特徴です。

日本人集団の血液中の各代謝物やタンパク質の分布情報を公開

日本人集団における血液中の代謝物やタンパク質の種類とその分布を高精度に決定しました。それらの組成や分布情報は、様々な疾患の原因を探索する際の比較対照(参照パネル)として非常に重要です。このため、当機構で得られたオミックス情報を日本人多層オミックス参照パネルとしてこのたび公開いたします。

【参考図1】検索サイト

検索サイトの説明図

【参考表1】日本人多層オミックス参照パネルにおける公開内容

項目 公開内容
基本情報 性別・年齢・BMIの分布
NMRメタボローム解析 37代謝物の定量値と分布
MSメタボローム解析 同定された数百種類の代謝物の名称と頻度分布
MSプロテオーム解析 同定された数百種類のタンパク質の名称と検出された人の割合

今後の展開

個別化医療・予防を目指したゲノム情報等との統合解析

今回オミックス解析を行った500名は全ゲノム情報解析が既に終了しています。今後はゲノム情報等との統合解析により、各代謝物やタンパク質の個人差(体質)に影響を与えている環境・遺伝要因の解析を行います。そして様々な疾患関連(予防)マーカーの確立を目指し、個別化医療・予防の実現に貢献します。

幅広い研究機関との共同研究の推進(詳細情報の開示を含む)

健常者の多層オミックス参照パネルは、疾患関連マーカー候補の探索・評価において、正常対照として非常に有用です。このため幅広い研究機関と共同研究を行うことで国内の疾患研究を連携して進めます。その際は今回公開対象になっていない詳細情報も限定的に共同研究先に提供する予定です。

また、プロテオーム解析に対するゲノム多型情報の活用など新たな解析方法を共同研究先と行うことで、オミックス参照パネルの高精度化を目指します。

時系列観察を伴うオミックス解析

血液中の代謝物・タンパク質の分布や組成は、加齢(成長)や生活習慣に応じて時々刻々と変化します。このため、変化する代謝物・タンパク質を同定し、データベース化することでオミックス参照パネルを高精度化し、より幅広い研究対象において利用出来るように拡張していきます。

また、オミックス解析により血液中の薬物も解析可能ですので、血液中の薬物を検出することにより、どのような病気にかかっているかといった、罹患率の推定が可能です。また、長期の服薬による人体への影響や効果の調査を行うことも可能ですので、今後のコホート研究においてオミックス解析を時系列で行うことにより、服薬状況とその影響や効果を調べることも可能になります。

用語解説

*1.コホート調査:
ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因・遺伝的要因などと疾病の関係を解明するための調査。
*2.オミックス解析:
生命を構成する様々な生体分子(ゲノム、RNA、タンパク質、代謝物等)を網羅的・包括的に解析する方法。
*3.メタボローム解析:
オミックス解析の一つ。生体中の代謝物を網羅的に解析する方法。
*4.プロテオーム解析:
オミックス解析の一つ。生体中のタンパク質を網羅的に解析する方法。
*5.質量分析(MS)法:
物質を荷電粒子に変え、質量電荷比(m/z)にて分離されたスペクトルとして検出する方法。生体内、食品及び環境に含有される様々な物質の存在量を測定することができる。 網羅性に優れているのが特徴である。
*6.核磁気共鳴(NMR)法:
生体分子を含む様々な分子を強力な磁場の中において、分子中の各原子が持つ核磁気モーメントを計測することにより、分子の構造や量を測定する方法。定量性に優れているのが特徴である。
*7.日本人多層オミックス参照パネル:
大規模な人数のオミックス解析を行った結果を総合し、各代謝物やタンパク質の分布や頻度情報などをまとめることで、今後のオミックス研究の参照情報となるもの。将来的には、診療情報や生活習慣情報、ゲノム情報のデータなどと統合され、我が国における次世代医療を目指す研究に幅広く活用可能なデータベースとなることが期待される。
*8.全ゲノム解読:
およそ30億塩基対からなるヒトのゲノムのDNA配列をすべて解読すること。一部のゲノム情報のみを解読して関連性を調べるアレイ解析とは異なり、全てのゲノム情報を対象に関連解析を行えるため、オミックス情報との関連解析による疾患原因因子の探索の際には非常に効果的な手法である。

参考

オミックス解析の試料について

本研究は、宮城県と岩手県で実施中のコホート調査(地域住民コホート調査と三世代コホート調査)の協力者からご提供頂いた生体試料をもとに行われました。2013年5月に開始した『地域住民コホート調査』は宮城県と岩手県にお住まいの20歳以上の方を対象として、8万人の方のご参加を目指す長期健康調査事業です。また同年7月より開始した『三世代コホート調査』(妊婦とその家族が対象)は7万人の方のご参加を目指しています。両調査では、住民の方々に対して本事業・調査のご説明を行い、同意を頂いた方々から、血液・尿及び各種健康調査結果ならびに調査票情報等をご提供頂いています。『地域住民コホート調査』と『三世代コホート調査』を合わせて、すでに約9万人の住民の方々よりご協力を頂いています。

東北メディカル・メガバンク計画について

本計画は、東日本大震災を受け、被災地住民の健康不安の解消に貢献するとともに、個別化予防等の東北発の次世代医療を実現するため、ゲノム情報やオミックス情報を含むコホート研究等を実施し、被災地域の復興を推進する、国の復興事業として行われているものです。平成27 年度より、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

被災地に医療関係人材を派遣して地域医療の復興に貢献するとともに、15万人規模の地域住民コホートと三世代コホートを形成し、そこで得られる生体試料、健康情報、診療情報等を収集してバイオバンクを構築します。さらに、ゲノム情報、オミックス情報、診療情報等を解析することで、個別化医療等の次世代医療に結びつく成果を創出することを目指しています。また、得られた生体試料や解析成果を同意の内容等に十分留意し、個人情報保護のための匿名化等の適切な措置を施した上で、外部に提供することや、コホート調査や解析研究を行うための多様な人材の育成も行っています。

本計画の事業の実施は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構とが連携して行っています。

お問い合わせ先

宛先 東北大学東北メディカル・メガバンク機構 報道担当 長神 風二 (ながみ ふうじ)、影山 麻衣子(かげやま まいこ)
Tel 022-717-7908
Fax 022-717-7923
E-Mail f-nagami"at"med.tohoku.ac.jp
備考
※E-mailは上記アドレス"at"の部分を@に変えてください。

最終更新日 平成27年7月2日