プレスリリース ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の責任遺伝子を明らかに!―本疾患における核膜孔複合体因子NUP107遺伝子変異の同定―

平成27年9月25日プレスリリース

公立大学法人横浜市立大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

横浜市立大学 学術院医学群 三宅紀子准教授、松本直通教授(遺伝学教室)らは、小児期発症のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の責任遺伝子を新たに解明しました。この研究は、関西医科大学 医学部内科学第二講座 塚口裕康講師らとの共同研究による成果であり、横浜市立大学先端医科学研究センターが推進している研究開発プロジェクトの成果のひとつです。

研究成果のポイント

  • 全エキソーム配列解析*1により、核膜孔複合体構成因子の一つであるNUP107遺伝子の両アレル変異が小児期発症のステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を引き起こすことが判明した。
  • 今回ネフローゼ症候群の新規疾患遺伝子および発症病態が明らかになったことにより、本変異に起因するネフローゼ症候群には腎移植が現状で最も有効な治療法であることが判明し、治療方針の決定に大きく役立つと考えられる。

研究概要

ネフローゼ症候群は糸球体の濾過機能が障害を受け、結果的に蛋白尿、低アルブミン血症、脂質異常を呈する腎疾患です。小児における特発性ネフローゼ症候群の大部分は、ステロイド反応性ですが、10~20%の症例はステロイド抵抗性を示します(ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群:steroid-resistant nephrotic syndrome, SRNS)。小児期発症のSRNSの67~73%の症例は病理学的に巣状糸球体硬化症を示し、高い確率で腎不全へと進行すると言われています。しかし、70%の症例においてその遺伝的要因はまだ明らかではありません。

三宅准教授・松本教授らの研究グループは、既知のSRNS遺伝子に変異を認めない18家系(10家系は兄弟例、8家系は孤発例)を対象に全ゲノムエキソーム解析を用いて遺伝子変異探索を行いました。その結果18症例中5症例でNUP107遺伝子に両アレル性変異(複合ヘテロ接合性変異)を同定しました(図1)。NUP107変異を認めた5家系のうち、4家系(8名)におけるネフローゼ発症は2~3歳であり、10歳以前に腎不全の状態に進行していました(図2)。

NUP107は核膜孔複合体を構成するタンパク質NUP107をコードしており、このタンパク質は糸球体の濾過機能に重要な役割を果たすタコ足細胞を含め、全身の臓器に発現しています(図3)。in vitroの実験で、患者に認められたNUP107変異体は、既知の結合タンパク質であるNUP133との結合が障害されていること、核膜孔への局在が障害されることを証明しました。更にゼブラフィッシュを用いた解析で、NUP107をノックダウンすると、糸球体の低形成、タコ足細胞の構造異常が観察されました。これら一連の解析により、NUP107の両アレル性変異でタコ足細胞の構造異常および機能障害が起こり、小児期SRNSが発症することが明らかになりました。今回、SRNSの新たな疾患遺伝子が解明されたことで小児期発症のSRNSの病態解明と、治療法の開発への大きな寄与が期待されます。

【図1】早期小児期発症ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群の家系図およびNUP107変異
赤文字が変異のアレルを示す。WT: wild type(野生型)■:罹患男性、□:非罹患男性、●:罹患女性、○:非罹患女性、●に斜線:死亡した罹患女性
【図2】NUP107変異に起因するSRNS患者の臨床経過
ネフローゼ発症を四角、腎不全の診断をクロスで示す。青線は腎不全に至った症例を、赤線は腎不全の診断に至っていない症例を示す。SRNS-1 Ⅱ-2はウイルス感染により腎不全の診断に至る前に死亡している。
【図3】ヒト腎臓糸球体タコ足細胞におけるNUP107発現
上段:NUP107を水色、WT1(Wilms tumor 1;タコ足細胞特異的転写因子)をマゼンダ、Ezrin(上皮細胞マーカー)を赤で免疫染色した。右側のパネルは黄色枠の拡大図であり、WT1で染色されたタコ足細胞の核に一致して斑点状にNUP107が染色されている(黄色矢頭)。星印は毛細管腔内の赤血球の自家蛍光シグナルを示す。
下段:正常ウサギIgG(NRb IgG)および正常マウスIgG(NMs IgG)を使用した陰性コントロール。

注釈

*1 全エキソーム配列解析:
ゲノム上のエキソン領域(遺伝子がタンパク質の配列を決定するゲノム中の領域)を網羅的に分画後、次世代シーケンサーを用いて塩基配列を決定する方法。

*本研究成果は、米国の科学雑誌『American Journal of Human Genetics』に掲載されます。(米国時間 9月 24日 正午:日本時間 9月 25日 午前1時 オンライン発表)

*この研究は、厚生労働省医療研究開発推進事業費補助金に基づく日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業、厚生労働省、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会の研究補助金により行われました。

*本研究は、横浜市立大学医学部遺伝学・輿水江里子博士研究員、神戸大学小児科・庄野朱美研究員、野津寛大講師、飯島一誠教授、横浜市立大学大学院医学研究科微生物学・分子生体防御学・松永智子特任助手、梁明秀教授、横浜市立大学医学部生化学・椎名政昭助教、緒方一博教授、理化学研究所・三村恭弘特別研究員、今本尚子主任研究員、中央水産研究所・今村伸太郎研究員、山下倫明氏、横浜市立大学大学院医学研究科・分子細胞生物学・廣瀬智威講師、横浜市立大学医学部病態病理学・奥寺康司准教授、大橋健一教授、東京女子医科大学腎臓小児科・秋岡祐子講師、服部元史教授、国立成育医療センター・吉川徳茂臨床研究開発センター長、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・生体防御医学分野・北村明子医師、Seoul National University Children's Hospital・Hae Il Cheong教授、徳島大学小児科・香美祥二教授の協力を得て行われました。

お問い合わせ先

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公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 遺伝学
三宅 紀子、松本 直通
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E-mail:nmiyake”AT”yokohama-cu.ac.jp(三宅)、naomat”AT”yokohama-cu.ac.jp(松本)

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TEL:03-6870-2223 Fax:03-6870-2243
E-mail:yoshihiko-furusawa”AT”amed.go.jp

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参考

横浜市立大学先端医科学研究センター
横浜市の中期計画に基づき、「がん」や「生活習慣病」などの疾患克服に向けて取り組んでいる大学の研究施設です。基礎的研究を推進し、さらにその成果を少しでも早く診療の場や市民の方々に還元する「橋渡し研究(トランスレーショナルリサーチ)」体制の構築を目指しています。現在、本学の持つ技術シーズを活用した最先端の医科学研究を行う22件の研究開発プロジェクトを推進し、研究成果を市民等の皆様へ還元することを目指しております。

最終更新日 平成27年9月25日