プレスリリース コモンマーモセットのゲノム配列解読の改良に成功―霊長類による前臨床実験の実用化を加速―
プレスリリース
学校法人慶應義塾 慶應義塾大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
慶應義塾大学理工学部の榊原康文教授と医学部の岡野栄之教授は、実験動物中央研究所の佐々木えりか応用発生学研究センター長および理化学研究所、国立遺伝学研究所等と共同で、霊長類前臨床実験(注1)動物であるコモンマーモセット(注2)のゲノム配列を再シークエンスし、より詳細に解読することに成功しました。コモンマーモセットは、マウスに比べてヒトに近い霊長類の実験動物で、近年、脳の機能や疾患の解明に用いる前臨床実験モデル動物としての重要性から、活発な研究が行われています。今回のゲノム解読の成果により、マウスのゲノム情報基盤に匹敵するマーモセットのゲノム情報基盤が整備され、それによりマーモセットが前臨床実験モデル動物として世界中の多くの研究者によって使用されると期待されます。
本研究成果は、国際論文誌“Scientific Reports”に、2015年11月20日に発表されます。
1.研究の背景
2.研究の概要と成果
今回本研究グループは、次世代シークエンサーと呼ばれる最新のDNA読み取り装置を用いてシークエンスとアセンブリを行い、ドラフトゲノム配列中に存在する長大なギャップを埋めることにより、マーモセットゲノム配列の改訂を行いました(注3)。現在のシークエンサーの特徴として、読み取る長さが短い、読み取り中にエラーが起こる、全体を均一に読むことはできず偏って読む、という欠点があります。この問題を解決するために、同じ箇所を60回も繰り返して読む(カバレッジ率60)という作業を行いました。
その結果、途中で空白が入ることなく連続してつながっている領域の平均の長さが2倍に伸びました。これにより、今まではギャップ領域を含んで不完全であった28,471個の遺伝子転写配列の中で、5,187個の配列が完全化されました。さらに、5,288個の新規の遺伝子転写配列が同定されました。これは、穴だらけだった文章においてその空白の部分が解読されたことにより、完全な文章として理解できるようになったことを意味します。また、ワシントン大学のドラフトにおいて染色体上の位置が特定できていなかったDNA配列の51パーセントを染色体上に整列することができました。
3.今後の展望
4.特記事項
5.掲載論文
受理日:2015年10月21日
掲載誌:“Scientific Reports”, srep16894, 2015
http:// www.nature.com/articles/srep16894
著者名:K.Sato, Y.Kuroki, W.Kumita, A Fujiyama, A.Toyoda, J.Kawai, A.Iriki, E.Sasaki, H.Okano, Y.Sakakibara.
掲載日:2015年11月20日
用語解説
- (注1)前臨床実験:
- 薬の副作用の有無や安全性の評価、疾患モデルの作成による医学研究などを、ヒトの臨床実験で行う前に、マウスなどの動物を用いて行う実験を意味する。
- (注2)コモンマーモセット:
- ヒトと同じ霊長類に属し、新世界ザルの一種で、南アメリカ・ブラジル大西洋岸の熱帯・亜熱帯林に生息する。体長は20~30cm、体重は350~400g 程度と比較的小型である。高い繁殖能力を有し、また人獣共通感染症を持たないといった多数の利点から、新たなヒトモデルの実験動物としての確立が期待されている。
- (注3)シークエンス、アセンブリ:
- シークエンスとは、細胞中のDNA分子上に並んでいるA, T, G, Cの4つの塩基の配列を、専用の機械(シークエンサー)を用いて、読み出すことを意味する。コモンマーモセットのDNAの全長は約23億塩基対であるが、現在のシークエンサーでは、100~1,000塩基程度の短い断片に分割した部分のみを読み出すことができる。この短い断片のことを、リードと呼ぶ。断片の両端を読んだリードのことをペアエンドと呼び、両端の間の長さのことをインサート長と呼ぶ。また、大量のリードから元のゲノムを復元する作業のことをアセンブリと呼ぶ。
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E-mail:yasu“AT”bio.keio.ac.jp
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掲載日 平成27年11月20日
最終更新日 平成27年11月20日