プレスリリース 先天性巨大色素性母斑に対する世界初の皮膚再生治療を開始します

プレスリリース

学校法人関西医科大学
国立研究開発法人国立循環器病研究センター
国立大学法人京都大学
学校法人常翔学園 大阪工業大学
国立研究開発法人科学技術振興機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

概要

学校法人関西医科大学形成外科学講座の森本尚樹講師と国立循環器病研究センターの山岡哲二部長らの研究グループは、再建する皮膚がなく治療が困難であった先天性巨大色素性母斑に対する世界初の新規皮膚再生治療を開始します。

皮膚の再生を成功させるためには、皮膚を構成する表皮とその下にある真皮の両方を再建する必要があります。今回研究グループは、患者さんの母斑組織を高圧で処理することにより、コラーゲンなどの主要成分はそのままで腫瘍細胞を完全に死滅させることに成功し、患者さん自身に腫瘍細胞のない真皮として再移植することが可能となりました。また、表皮は日本初の再生医療製品である自家培養表皮(製品名:ジェイス、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)を用い、患者さん自身の細胞と組織だけで皮膚を再建します。

本臨床研究は、平成26年11月25日に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づく第二種分野の臨床研究であり、治療開始に必要な関西医科大学医学倫理委員会の承認と京都大学特定認定再生医療等委員会の審査が終了しました。今後、実施準備ができ次第臨床研究を開始します。

本治療法の有効性が確認されれば、これまで大きな自家皮膚の犠牲を伴う治療しかなかった先天性巨大色素性母斑の治療が可能になると共に、将来的には高圧による死滅処理方法が、皮膚悪性腫瘍やその他の組織の悪性腫瘍にも応用可能な組織再生方法となることが期待されます。

この新規治療法(臨床研究)のポイント

  • 腫瘍細胞を含む母斑皮膚を高圧処理(2000気圧、10分間)で死滅処理した後に再移植し、培養細胞と組み合わせて皮膚を再生します。
  • 残留毒性が懸念される薬品を用いない物理的な処理方法ですので、高い安全性が確保できます。
  • 腫瘍組織を死滅処理し、破棄することなく皮膚再生に再利用する世界初の治療法です。
    また、平成26年11月25日に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づく第二種再生医療等技術を用いて実施される臨床研究です。
  • 母斑が大きくて手術をしていない患者さん、何度も手術したが母斑が残存している患者さんでも比較的小さな侵襲で実施できる治療です。
    今後、臨床研究への参加を希望する患者さんを募集する予定です。

 

なお、本研究開発は科学技術振興機構(JST)「研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)シーズ顕在化タイプ」(平成24~25年度)の支援により開始。以後、文部科学省「橋渡し研究加速ネットワークプログラム」(平成26年度)、厚生労働省「革新的がん医療実用化研究事業」(平成26年度)の支援を獲得しました。そして現在は、平成27年4月1日に設立された日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」にて支援が継続されています。また、本臨床研究に関する基礎的な検討は以下の論文で報告しています。

臨床研究に関する発表論文

  1. Liem PH, Morimoto N, Mahara A, Jinno C, Shima K, Ogino S, Sakamoto M, Kakudo N, Inoie M, Kusumoto K, Fujisato T, Suzuki S, Yamaoka T. Preparation of Inactivated Human Skin Using High Hydrostatic Pressurization for Full-Thickness Skin Reconstruction. PLoS One. 2015 Jul 30;10(7):e0133979..
  2. Jinno C, Morimoto N, Mahara A, Liem PH, Sakamoto M, Ogino S, Kakudo N, Inoie M, Fujisato T, Kusumoto K, Suzuki S, Yamaoka T. Inactivation of Human Nevus Tissue Using High Hydrostatic Pressure for Autologous Skin Reconstruction: A Novel Treatment for Giant Congenital Melanocytic Nevi. Tissue Eng Part C Methods. 2015 Aug 21.
  3. Morimoto N, Mahara A, Shima K, Ogawa M, Jinno C, Kakudo N, Kusumoto K, Fujisato T, Suzuki S, Yamaoka T. The rapid inactivation of porcine skin by applying high hydrostatic pressure without damaging the extracellular matrix. Biomed Res Int. 2015;2015:587247. Epub 2015 Mar 24.
  4. Mahara A, Morimoto N, Sakuma T, Fujisato T, Yamaoka T. Complete cell killing by 3 applying high hydrostatic pressure for acellular vascular graft preparation. Biomed Res Int. 2014;2014:379607.Epub 2014 Apr 30.

解説

「高圧処理により不活化した母斑組織の再移植と自家培養表皮を用いた色素性母斑に対する新規皮膚再生治療法(自家皮膚完全リサイクル治療法)」について色素性母斑(しきそせいぼはん)は、小さいものは「ほくろ」と呼ばれる茶色~黒色のあざ(できもの)です。真皮の中に母斑細胞といわれる細胞が存在し、母斑細胞がメラニン色素を産生するために生じます。先天性巨大色素母斑は産まれた時から存在する大きな(大人になった時直径20cm以上になる)色素性母斑で、放置すると悪性黒色腫(ひふの癌)が数%程度発生します。巨大母斑の治療は、2、3回に分けて切除する分割切除術や組織拡張器(シリコンでできたバック)を皮下に埋入し、数ヶ月かけて皮膚を拡張させた皮膚を用いて再建を行う方法、患者さんの皮膚を採取し移植する植皮手術が行われます。しかし、大きな手術侵襲(手術の身体的負担)があり、母斑切除部の長い傷跡、皮膚採取部位の傷跡ができる、などの問題があります。

また、体表面積の数10%以上といった特別大きな母斑ではそもそも手術が不可能です。手術以外の治療としてレーザー治療がありますが、レーザーは色素を破壊する方法なので再発することが多く、母斑細胞を完全に取り除くことは困難です。この臨床研究では、母斑以外の場所には傷を残さず、母斑そのものを用いて皮膚を再建する新規治療方法の有効性と安全性を検討します。具体的な手順は以下「今回の臨床研究の流れ」をご参照ください。

今回の臨床研究の流れ

  1. 1回目の手術で母斑を切除します。
    切除した母斑を高圧処理し「細胞を死滅」させた後に、この母斑を元の場所に再度移植します。2cm×1cm程度の皮膚(母斑のない部位から)を採取して、企業に依頼して培養(皮膚の表皮細胞を増やす)し、自家培養表皮を作ります。
  2. 2回目の手術では、1回目の手術から4週間後(2~6週間後)に、生着した母斑(真皮に相当)の上に自家培養表皮を移植します。
皮膚の、手術前後の経過

臨床研究フロー

今回の臨床試験の流れ
高圧処理について:

藤里教授らは、10,000気圧で組織から細胞を取り除く技術を開発しました。元々、高圧処理は古くから食品加工の分野で研究されてきた安全な処理技術です。例えば卵を7,000気圧で10分処理すると、圧力でタンパク質が変性するためゆで卵の様に固まります。これは、マリアナ海溝の7倍も深い海に相当する高い圧力です。一方、水はほんの少ししか縮まないため、水(生理食塩水)に浸して加圧すれば卵は割れません。また、6,000気圧を超えると細菌なども死滅するため、高圧処理は殺菌法としても期待されている手法です。

今回の治療方法では、母斑組織を比較的低い2,000気圧で10分間処理します。これにより、皮膚の主要成分であるコラーゲンなどを損傷することなく自然のまま残し、母斑細胞などの細胞を完全に死滅させることに成功しました。過去の実験で、高圧処理した母班からは母斑が再発しないこと、高圧処理済みの母斑を患者さんに移植するとうまく適合し、培養表皮を組み合わせることで患者さん自身の皮膚を再生できることを確認しています。

自家培養表皮について:

自家培養表皮(製品名:ジェイス、(株)ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング)は患者さんの皮膚組織を採取し、表皮細胞を培養してシート状としたもの。患者さん自身の表皮がほぼ再生されています。ジェイスは、本邦初の細胞使用製品として2007年10月に国から承認を受け、重篤な広範囲熱傷のみに使用可能(保険適用)となっています。体表全体を覆うくらいの大きさの培養表皮が作成できますが、真皮がない部分には生着しません。

自家培養皮膚の概念
今回の臨床研究では、単純縫縮(1回の手術で縫い寄せること)ができない大きさの母斑がある患者さんを対象とします。この治療では、通常は廃棄される母斑組織を再利用しますので、自家皮膚完全リサイクル治療法と呼んでいます。ただし、この治療では色素が残存しますので、色素を取り除くためのレーザー治療を引き続き行う予定です。

研究組織

学校法人関西医科大学 形成外科学講座
森本尚樹(研究責任者)、楠本健司、覚道奈津子、日原正勝、畔熱行、光井俊人、木村幸志伊

国立循環器病研究センター研究所 生体医工学部 山岡哲二、馬原淳

国立大学法人京都大学 大学院医学研究科医化学専攻形成外科 鈴木茂彦、神野千鶴、坂本道治

国立大学法人京都大学 医学部附属病院臨床研究総合センター開発企画部 清水章

学校法人常翔学園大阪工業大学 工学部生命工学科 藤里俊哉

お問い合わせ先

本件発表に関するお問い合わせ先

学校法人 関西医科大学
〒573-1010大阪府枚方市新町2丁目5番1号

総務部広報課 担当:田村、岡田、小森
TEL:072-804-2128 FAX:072-804-2547 E-MAIL:kmuinfo“AT”hirakata.kmu.ac.jp

同 形成外科学講座 担当:森本尚樹(もりもと・なおき)講師
TEL:072-804-0101 FAX:072-804-2031 E-MAIL:morimotn“AT”hirakata.kmu.ac.jp

がん対策全般に関するお問い合わせ先

厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1丁目2番2号
TEL:03-5253-1111

革新的がん医療実用化事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目7番1号
TEL:03-6870-2221 FAX:03-6870-2244 E-MAIL:cancer“AT”amed.go.jp

※E-MAILは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成27年12月11日

最終更新日 平成27年12月11日