プレスリリース いわて東北メディカル・メガバンク機構 国内コホート・バイオバンクの統合解析を可能とする 血液細胞のエピゲノム補正手法を開発

プレスリリース

岩手医科大学
いわて東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究のポイント

  • <背景>病気の発症に深く影響しているエピゲノム(DNAメチル化)は、細胞や組織により異なり、また輸送方法や実験手法の影響を受けるため、異なる研究機関で集められた試料を用いて大規模な研究を行うことは困難でした。
  • 岩手医科大学の清水らのグループは、国内の大規模コホートの検体収集やDNA抽出処理の手順(DNA収集プロトコール)を調査し、検体の収集プロトコールの違いにより、DNAメチル化状態が変化することを明らかにしました。
  • また、バイオインフォマティクスの手法により、血液中に含まれる白血球の種類ごとの量を推定し、プロトコールの違いを抑えることを可能としました。
  • 複数コホートの連携による大規模エピゲノム解析の基盤が確立できたことで、今後疾患の進行の発見や要因解明につながる高精度な解析が可能となり、個別化予防・個別化医療の実現を加速できる。 本研究成果は国際科学雑誌であるPLOS ONE誌に1月23日に掲載されました。

概要

コホート研究*1は医学研究のなかでもデータの精度・信頼度が高いため、近年の個別化予防・個別化医療の実現に必須の研究分野です。日本では我々東北メディカル・メガバンク計画(東北MM)をはじめとする、多くのコホート研究が進められています。

ゲノムコホート研究では収集した血液あるいは血液から抽出したDNAを保存していますが、採血からDNA抽出までの手順(DNA収集プロトコール)は各コホートで異なります。ゲノム多型解析*2では、DNA収集プロトコールの違いが研究結果に与える影響は非常に小さいと考えられますが、いわて東北メディカル・メガバンク機構が研究対象としているDNAのメチル化*3は環境により変化することが知られているため、DNA収集プロトコールの違いが研究結果に影響を与えることが考えられます。しかし、これまでDNA収集プロトコールの違いがDNAメチル化解析の結果に与える影響について、十分な知見はありませんでした。そこで、清水(岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構生体情報解析部門特命教授)らの研究グループでは、今後のゲノムコホート研究において国内の各コホートが連携してDNAメチル化解析を実施するために、DNA収集プロトコールの相違がDNAメチル化解析に与える影響について詳細な解析を行いました。

まず、日本を代表するコホート研究である久山町研究(久山)、多目的コホート研究(JPHC)、日本多施設共同コーホート研究(J-MICC)、及びバイオバンク・ジャパン(BBJ)からDNA収集プロトコールの情報を提供いただきました。東北MMの手法を加え、類似した手法をまとめると21種類もの異なるDNA収集プロトコールがあることがわかりました。

そこで、大きく異なる5つのDNA収集プロトコールを用い、岩手医科大学で、同日に同条件で、16名の協力ボランティアの方々の血液からDNAを抽出しました。

メチル化マイクロアレイを用いたDNAメチル化解析の結果、同一個人・同一日時に採取した血液でもDNA収集プロトコールが異なるとDNAメチル化に差が生じていることが示されました。この原因をさらに調べたところ、DNA収集プロトコールの相違により、血液から回収した白血球細胞の種類の分布(細胞組成)に変化が生じていることがわかりました。つまり、異なるコホートで収集した生体試料を用いてDNAメチル化解析を行うことは難しいということです。

そこで、我々は細胞の種類ごとにDNAメチル化状態が異なることを利用し、測定したDNAメチル化情報から雑多な細胞集団である元の血液に含まれていた個人ごとの細胞組成を推定し、その情報を用いてDNA収集プロトコールによるDNAメチル化の差を補正する手法を開発しました。このような既存のコホート・バイオバンクの検体の情報を収集し、実際に利用できることを示したのは初めての成果です。これにより、国内の様々なコホート・バイオバンクによって異なるDNA収集プロトコールで集められた血液由来DNAを相互利用できるようになり、コホート同士が連携して統合解析が行えることが示されました。

まとめ

本研究において、DNA収集プロトコールの相違がDNAメチル化に影響を与えうることを世界で初めて明らかにし、その影響を補正して解析を行う手法も同時に確立しました。今後、各コホートで集めた生体試料を用いたDNAメチル化解析に本研究の成果を応用し、病気と関連のあるDNAメチル化の変化ならびに病気の発症前に変化するDNAメチル化を見つける方法について研究を進め、個別化予防・個別化医療の実現を目指します。

なお、本研究は東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、久山町研究(久山)、多目的コホート研究(JPHC)、日本多施設共同コホート研究(J-MICC)、及びバイオバンク・ジャパン(BBJ)との共同研究として、国際科学雑誌であるPLOS ONE誌に1月23日に掲載されました。

論文名

Adjustment of cell-type composition minimizes systematic bias in blood dna methylation profiles derived by dna collection protocols

「異なるDNA収集プロトコールがDNAメチル化状態に与える影響を細胞組成情報を用いて補正する方法の確立」 掲載誌:PLOS ONE doi: 10.1371/journal.pone.0147519

※本研究は、国立医療研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの支援を受け実施したものです。

用語解説

*1 コホート研究:
コホート研究は、ある集団内における疾病の発生確率を遺伝的素因や生活習慣、環境の違い等で識別する医学研究の1つです。さらに、遺伝子(ゲノム)の配列の違いやオミックス情報を要因の一つとして加えて行うのがゲノムコホート研究です。
*2 ゲノム多型解析:
ゲノム配列をDNAマイクロアレイや次世代型シークエンサーを用いて決定し、個人毎に異なる配列を調べる手法。日本では東北MMが昨年1070人のゲノム多型を公開している。
*3 DNAメチル化:
DNAのメチル化とは、DNAの遺伝暗号であるA・T・G・Cの4文字(塩基)の中の主にC(シトシン)塩基にメチル基(-CH3)が結合し、遺伝子の働きを調節する仕組みの一つです。DNAのメチル化の異常は、がんや生活習慣病など様々な疾患に関わっており、現在注目を集めている研究分野です。

お問い合わせ先

研究に関するお問い合わせ

いわて東北メディカル・メガバンク機構 生体情報解析部門
特命教授 清水 厚志
電話番号:019-651-5111(内線5472)
E-mail:ashimizu“AT”iwate-med.ac.jp

AMED事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
バイオバンク事業部
電話番号:03-6870-2228
E-mail:kiban-kenkyu“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成28年2月3日

最終更新日 平成28年2月3日