プレスリリース 変形性膝関節症の進行を抑えるのに滑膜幹細胞の定期的関節内注射が有効―軟骨を保護する多数の栄養因子の産生が明らかに―
プレスリリース
国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
国立研究開発法人科学技術振興機構
ポイント
- 国内に約850万人いる変形性膝関節症の新規治療の開発に動物モデルを用いて成功しました。
- 滑膜幹細胞を定期的に関節内注射することで変形性膝関節症の進行が抑えられました。
- 滑膜幹細胞が軟骨保護作用のある多数の栄養因子を産生することを明らかにしました。
- 変形性膝関節症の治療応用への展開が期待されます。
東京医科歯科大学再生医療研究センターの関矢一郎教授と大関信武助教らの研究グループはラットを用いた研究で、膝関節の滑膜より培養した体性幹細胞(滑膜幹細胞)を定期的に関節内注射することで、変形性膝関節症の進行を予防することに成功しました。関節内に投与した細胞は急速に数が減少するため、慢性の病態である変形性膝関節症に対しては1回の投与では効果が十分でなく、定期的に投与する事が有効であることを明らかにしました。また、関節内に投与した滑膜幹細胞のほとんどは滑膜に生着し、軟骨を保護する多数の栄養因子を産生することを明らかにしました。この研究は科学技術振興機構「再生医療実現拠点ネットワークプログラム 再生医療の実現化ハイウェイ(平成27年度より日本医療研究開発機構所管)」の支援のもとで行われたもので、その研究成果は国際科学誌Osteoarthritis and Cartilage(変形性関節症と軟骨)に、平成28年2月12日午前11時(英国時間)にオンラインで発表されます。
研究の背景
変形性膝関節症は膝関節軟骨の摩耗・消失を特徴とする主に加齢に伴う疾患であり、日本には850万人の患者がいると推定されています。その病態は複雑なため、いまだ根本的な治療薬は開発されていません。
本研究グループはこれまでに滑膜由来の体性幹細胞(滑膜幹細胞)を、関節鏡を使用して軟骨欠損部に移植することで、軟骨を再生させ、半月板損傷を修復させる治療法の開発に取り組んできました。本研究では、変形性膝関節症の進行の予防のための効果的な滑膜幹細胞投与方法の確立とその作用機序を明らかにすることを目的としました。
本研究グループはこれまでに滑膜由来の体性幹細胞(滑膜幹細胞)を、関節鏡を使用して軟骨欠損部に移植することで、軟骨を再生させ、半月板損傷を修復させる治療法の開発に取り組んできました。本研究では、変形性膝関節症の進行の予防のための効果的な滑膜幹細胞投与方法の確立とその作用機序を明らかにすることを目的としました。
研究成果の概要
変形性膝関節症を発症させるため、ラットの膝前十字靱帯を切離しました。無処置の場合には、切離後8週で軟骨損傷と滑膜炎を認めましたが、術後1週より滑膜幹細胞を毎週関節内に投与すると、軟骨変化と滑膜炎の進行が明らかに抑えられました。一方、滑膜幹細胞を1回だけ関節内に投与しても、効果が限定的であることが認められました。細胞を追跡できるように遺伝子改変ラットから樹立した滑膜幹細胞を関節内注射して、イメージング技術を用いて関節内注射後の滑膜幹細胞の動態を経時的に解析すると、1回のみの投与では3~4週で投与細胞はほぼ消失しましたが、毎週投与した場合は常に検出されました。これらのことから、滑膜幹細胞の効果を十分に維持するには、定期的に投与することが有効であることがわかりました。
また関節内注射した細胞は関節内において軟骨や半月板には分布せず、滑膜に生着していました。さらに滑膜に生着した滑膜幹細胞は、投与前と変わらず幹細胞の特徴を維持していました。ヒトの滑膜幹細胞をラットに関節内注射して遺伝子発現変化を調べると、滑膜生着後に1060種類のヒト遺伝子の発現が上昇し、このなかには軟骨保護や炎症抑制に関するものが多数ありました。これらのことから、関節内注射した滑膜幹細胞は滑膜に生着後も幹細胞の特徴を維持したまま、軟骨保護や炎症抑制に関連する栄養因子を産生することで、軟骨の摩耗を抑えるという機序が明らかになりました。
また関節内注射した細胞は関節内において軟骨や半月板には分布せず、滑膜に生着していました。さらに滑膜に生着した滑膜幹細胞は、投与前と変わらず幹細胞の特徴を維持していました。ヒトの滑膜幹細胞をラットに関節内注射して遺伝子発現変化を調べると、滑膜生着後に1060種類のヒト遺伝子の発現が上昇し、このなかには軟骨保護や炎症抑制に関するものが多数ありました。これらのことから、関節内注射した滑膜幹細胞は滑膜に生着後も幹細胞の特徴を維持したまま、軟骨保護や炎症抑制に関連する栄養因子を産生することで、軟骨の摩耗を抑えるという機序が明らかになりました。
研究成果の意義
近年、変形性膝関節症に対して脂肪組織由来の体性幹細胞を1回だけ関節内注射する治療法が、日本でも保険外診療として行われています。しかし慢性の病態に対する1回だけの幹細胞投与では長期にわたり効果を維持するには十分ではないと考えられ、その効果に対する機序も明確ではありませんでした。今回、本研究グループは変形性膝関節症モデルを用いて、幹細胞を1回ではなく定期的に投与する必要性と、投与した細胞の動態・作用機序を初めて明らかにしました。この研究成果を踏まえ、今後、変形性膝関節症の予防・治療を目的として、滑膜幹細胞の定期的関節内注射による臨床研究を計画する予定です。
お問い合わせ
研究に関すること
東京医科歯科大学再生医療研究センター
関矢 一郎(セキヤ イチロウ)
TEL:03-5803-4017 FAX:03-5803-0192
E-mail:saisei01.arm“AT”tmd.ac.jp
関矢 一郎(セキヤ イチロウ)
TEL:03-5803-4017 FAX:03-5803-0192
E-mail:saisei01.arm“AT”tmd.ac.jp
遺伝子改変ラットに関すること
慶應義塾大学医学部臓器再生寄附講座
小林 英司(コバヤシ エイジ)
TEL:03-5315-4090(内線63968) FAX:03-5315-4089
E-mail:organfabri“AT”keio.jp
小林 英司(コバヤシ エイジ)
TEL:03-5315-4090(内線63968) FAX:03-5315-4089
E-mail:organfabri“AT”keio.jp
報道に関すること
東京医科歯科大学 広報部広報課
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm“AT”tmd.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432
E-mail:jstkoho“AT”jst.go.jp
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
TEL:03-5803-5833 FAX:03-5803-0272
E-mail:kouhou.adm“AT”tmd.ac.jp
科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
TEL:03-5214-8404 FAX:03-5214-8432
E-mail:jstkoho“AT”jst.go.jp
日本医療研究開発機構(AMED)の事業に関すること
日本医療研究開発機構 戦略推進部 再生医療研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1読売新聞ビル
TEL:03-6870-2220 FAX:03-6870-2243
E-mail:saisei“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年2月15日
最終更新日 平成28年2月15日