プレスリリース 震災後4年間の宮城の子ども1万7千人の調査を完了―津波や住居の変化を経験した子どもでは、アトピー性皮膚炎の症状やこころの所見のある子どもの割合が高いが、時間経過とともに減少傾向が見られる―

プレスリリース

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

東北大学東北メディカル・メガバンク機構が平成24~27年度に宮城県内28市町村の小中学生の保護者を対象に「地域子ども長期健康調査」を実施。4年間で累計17,043人が協力。

  • 4年間を通し、津波や住居環境の変化を経験した子どもは経験していない子どもに比べて、アトピー性皮膚炎の症状をもつ子どもの割合や、こころの所見*1のある子どもの割合が大きい。
  • ただし時間経過とともに、津波や住居環境の変化を経験した子どもで、アトピー性皮膚炎の症状を持つ子どもの割合や、こころの所見のある子どもの割合が減少していく傾向がある。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構は平成24‐27年度に宮城県内28市町村の小中学生の保護者を対象に「地域子ども長期健康調査」を実施し、4年間で累計17,043人にご協力いただきました。調査では児童・生徒に、学校を通じて「子どもの健康に関するアンケート」を配布し、ご家庭に持ち帰って保護者の方にご記入いただき、ご返信をいただきました。震災後、宮城県の大部分をカバーする多数の子どもの調査としては、当調査が唯一のものになります。

4年間を通し、アトピー性皮膚炎の症状、こころの所見がある割合が、津波や住居環境の変化を経験した子どもがしない子どもに比べて大きい結果となりましたが、時間経過とともに割合が減少していく傾向が見られました。4年間の累計では、日常生活で何らかの難しさを抱えていると疑われる子どもは2,386人、重い症状があるのに治療も診断も受けていない子どもは、気管支ぜんそくで94人、アトピー性皮膚炎で116人に上ることもわかりました。

本調査に加えて、アンケート調査の結果から相談や支援が必要と考えられる方で保護者の方が希望された方、のべ1,609人へ、心理士と保健師が電話相談と、保護者の希望に応じてのべ約110回の面談を行いました。

また平成27年度のアンケート調査の結果からは、日常生活で何らかの難しさを抱えていると疑われる子どもは640人、重い症状があるのに治療も診断も受けていない子どもは、気管支ぜんそくで24人、アトピー性皮膚炎で27人いることがわかりました。

4年間にわたった調査を終え、調査の集計結果は、保健行政に役立ててもらうため市町村および各地の教育委員会にお知らせしています。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構 地域子ども長期健康調査事業詳細

目的

この調査は、東日本大震災後の子どもたちに病気の増加や症状の悪化の懸念があることに対して、

  1. 子どもたちの健康の実態を把握して、対策をたてること。
  2. 心配な点のあるお子さんへの、適切な支援を行うこと。
  3. 最先端の医学的支援によって、症状や予後がよくなるお子さんをいち早くみつけること*2を目的としています。

平成24~27年度の調査

宮城県内28市町村の小中学生の保護者を対象に「地域子ども長期健康調査」を実施し、4年間で累計17,043人にご協力いただきました。

対象エリアの公立小学校204校・中学校102校・支援学校9校の小学2年・4年・6年生と中学2年生の児童・生徒全員(62,895人)に、学校を通じて「子どもの健康に関するアンケート」を配布し、ご家庭に持ち帰って保護者の方にご記入とご返信をいただきました。

平成27年度の対象者

宮城県北部の公立小学校124校・中学校63校・支援学校5校の小学2年・4年・6年生と中学2年生の児童・生徒18,489人に、学校を通じて「子どもの健康に関するアンケート」を配布し、ご家庭に持ち帰って保護者の方にご記入いただき、4,374人(有効回答数)からご返信をいただきました。

平成27年度の対象エリア

宮城県14市町(気仙沼市、登米市、栗原市、東松島市、大崎市、七ヶ浜町、大和町、大郷町、色麻町、加美町、涌谷町、美里町、女川町、および南三陸町)。

平成27年度の調査結果の概略

呼吸器や皮膚の症状として、気管支喘息の症状のある子どもは318人、アトピー性皮膚炎の症状がある子どもは840人でした。強い症状があるのに治療も診断も受けていない子どもは、気管支ぜんそくで24人、アトピー性皮膚炎で27人でした。こころの所見のある子どもは640人いることがわかりました。

なお居住環境の変化および津波経験の有無は、アトピー性皮膚炎の症状を持つ子どもの割合や、こころの所見のある子どもの割合の高値と関連がありました。調査の集計結果は、保健行政に役立ててもらうため市町村にお知らせしています。

平成27年度の支援

結果の郵送を希望された方には、子どもの成長発達に関するヒントをまとめたリーフレットを同封するとともに、当事務局運営の電話相談窓口の案内を行いました。

また、気管支喘息やアトピー性皮膚炎と診断されている子どもで、現在それらの症状があるものの治療を受けていないと回答した保護者には、結果回付の際に適切な対処方法に関する資料を送りました。

平成27年度は8人への電話相談、希望に応じた面談を行い、4年間ではのべ1,609人へ心理士と保健師が電話相談と、保護者の希望に応じてのべ約110回の面談を実施してまいりました。調査終了後も求めがあれば、随時対応しております。

住居環境の変化した子どものこころの所見あり
  平成24年度
調査
平成25年度
調査
平成26年度
調査
平成27年度
調査
全調査
地域 岩沼市、亘理町、山元町 県南全域 県南部および 県北部 県北部 県南および県北
対象者数 3,505 12,742 28,159 18,489 62,895
回答数 1,369 4,074 7,226 4,374 17,043
有効回答数 1,339/3,505
38.2%
3,948/12,742
31.0%
6,321/28,159
22.4%
3,880/18,489
21.0%
15,488/62,895
24.6%
気管支ぜんそく症状 150/1,339
11.2%
367/3,948
9.3%
633/6,321
10.0%
318/3,880
8.2%
1,468/15,488
9.5%
アトピー性皮膚炎症状 268/1,339
20.0%
842/3,948
21.3%
1,333/6,321
21.1%
840/3,880
21.7%
3,283/15,488
21.2%
津波経験した子どものアトピー性皮膚炎症状のオッズ比 1.25 [0.92-1.70]
(P=0.2)
1.36 [1.08-1.71]
(P=0.01)
1.24 [1.05-1.46]
(P=0.01)
1.16 [0.95-1.42]
(P=0.1)
1.23 [1.11-1.37]
(P<0.0001)
住居環境の変化した子どものアトピー性皮膚炎症状のオッズ比 1.16 [0.96-1.40]
(P=0.1)
1.18 [1.03-1.35]
(P=0.02)
1.07 [0.91-1.27]
(P=0.4)
1.15 [1.05-1.26]
(P=0.004)
こころの所見あり*1 187/1,339
14.0%
592/3,948
15.0%
967/6,321
15.3%
640/3,880
16.5%
2,386/15,488
15.4%
津波経験した子どものこころの所見ありのオッズ比 1.16 [0.81-1.66]
(P=0.4)
1.26 [0.96-1.64]
(P=0.09)
1.29 [1.07-1.55]
(P=0.008)
1.12 [0.90-1.39]
(P=0.3)
1.21 [1.08-1.37]
(P=0.001)
住居環境の変化した子どものこころの所見ありのオッズ比 1.44 [1.16-1.77]
(P=0.0007)
1.37 [1.18-1.60]
(P<0.0001)
1.22 [1.01-1.46]
(P=0.04)
1.35 [1.22-1.49]
(P<0.0001)
オッズ比:
特定のグループにおける現象(疾患など)の起こりやすさを示す値。オッズ比が1より大きい場合は、特定のグループで他のグループに比較して「その現象の起こりやすさ」がより高いことを示す。
<例>
  こころの所見あり こころの所見なし
住居環境の変化あり a人 b人
住居環境の変化なし c人 d人
こころの所見のオッズ
住居環境の変化ありの子どもではa/b
住居環境の変化なしの子どもではc/d
住居環境の変化した子どものこころの所見ありのオッズ比
a/b ÷ c/d
P値(P):
統計的な有意差を示す値。P値が小さいほど、確からしさは高くなる。

参考

・平成26年度までの調査について
地域子ども長期健康調査では平成24年11月に宮城県岩沼市、亘理町、山元町の公立小中学校で事前調査を、平成25年6月に県南部の公立小中学校で、平成26年6月に県南部と県北部の公立小中学校で本調査をおこないました。公立小学校・中学校の小学2年・4年・6年生と中学2年生の児童・生徒の保護者にアンケートをお答えいただいた結果から、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、PTSD、広汎性発達障害等の可能性がある児童が見いだされています。また治療に関しては、気管支喘息で重度の症状があるにも関わらず、治療をしていない児童がいることが判明しています。

・地域子ども長期健康調査は、三世代コホート調査の一部として東北大学東北メディカル・メガバンク計画の中で実施されています。平成27年度より、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語解説

*1 こころの所見:
本調査ではSDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)で16点以上をこころの所見ありとしました。SDQとは、子どもの精神的な適応の状態を調べるための25項目・3択式の質問紙形式の心理尺度です。世界中の言語で標準化されて使用されており、行為問題、情緒問題、多動、友人関係問題、向社会性の5つの下位尺度で構成されています。質問項目は、日本版に標準化されたものを使用しています。

平成19年1月に厚生労働省から発表された「軽度発達障害児に対する気づきと支援のマニュアル」において、行動評価法として広く一般に紹介されています。本調査では、対象地域の子どもたち全体の精神健康状態を包括的に把握しつつ、一人ひとりの子どもに応じた支援を行っていくためのスクリーニングとしても使用しています。

日本語版に関する論文
T.Matsuishi et al.: Scale properties of the Japanese version of the Strengths and Difficulties Questionnaire (SDQ): A study of infant and school children in community samples. Brain and Development 2008; 30: 410-415.

*2 :
診断上必要な場合、保護者の方の同意のもと遺伝子解析を含む詳細な検査を実施して、最先端の医学的支援を該当するお子さんに行いました。

地域子ども長期健康調査の関連論文

Protocol and Research Perspectives of the ToMMo Child Health Study after the 2011 Great East Japan Earthquake. Tohoku J. Exp. Med. 2015; 236: 123-130

Eczema and Asthma Symptoms among Schoolchildren in Coastal and Inland Areas after the 2011 Great East Japan Earthquake: The ToMMo Child Health Study. Tohoku J. Exp. Med. 2015; 237: 297-305

お問い合わせ先

調査に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
予防医学・疫学部門 分子疫学分野
准教授 菊谷 昌浩(きくや まさひろ)
電話番号:022-717-8104

報道担当

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)
影山 麻衣子(かげやま まいこ)
電話番号:022-717-7908
ファックス:022-717-7923
Eメール:f-nagami“AT”med.tohoku.ac.jp

AMED事業について

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
バイオバンク事業部
電話番号:03-6870-2228     
Eメール:kiban-kenkyu“AT”amed.go.jp

※Eメールは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成28年3月1日

最終更新日 平成28年3月1日