プレスリリース 質の高い新たな治療を実現する医療機器の医師主導治験を支援―「医療機器開発推進事業」で3件の新規課題を採択―

平成28年3月14日プレスリリース

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、理事長 末松 誠)は、医師主導治験等によって革新的な医療機器を開発・実用化し、その成果の企業導出を目指す、「医療機器開発推進研究事業」を実施しています。 

今般、平成28年度に開始する事業として公募を行い、77件の提案があった中から、外部の有識者等の審査を経て、下記の、➀「STS型人工網膜装置」、➁「脳波―BMIリハビリテーションシステム」、➂「流体解析に基づく脳動脈瘤治療用ステント」の3件の医師主導治験に対する課題を採択することを決定しました。

研究開発課題名 実施機関等
➀進行した網膜変性症に対するSTS型人工網膜装置の医師主導治験 国立大学法人大阪大学、学校法人愛知医科大学、学校法人杏林大学、
株式会社ニデック
➁脳卒中後上肢麻痺に対する脳波―BMIリハビリテーションシステムの医師主導治験 学校法人慶應義塾、学校法人東海大学、
医療法人社団保健会東京湾岸リハビリテーション病院、東京都リハビリテーション病院、社会福祉法人恩賜財団済生会神奈川県病院、パナソニック株式会社エコソリューションズ社
➂国産初流体解析に基づいた脳動脈瘤治療用セミカスタムメイドステントの医師主導治験 学校法人慈恵大学東京慈恵会医科大学、
株式会社アルム、株式会社PENTAS

➀については、現時点ではまだ有効な治療法がない「進行した網膜色素変性症」に対して、電気刺激で神経を興奮させることで視覚機能を回復・補助する(全盲状態の症例も含む)、

➁については、脳卒中によって生じた「上肢麻痺」について、従来のリハビリでは麻痺の回復に至らず「代償的治療(利手交換など)」で対応していた症例でも、BMI(Brain-Machine Interface)リハビリシステムを用いることで、脳内の損傷部位以外に新たな運動指令の神経回路を形成して症状の回復を図る、

➂については、脳血管構造や脳動脈瘤の形状に応じた治療用のステントサイズ選択を手術者の経験に依存している現状について、コンピューターシミュレーションによって個々の症例に最適なステントを選択して治療を行う、

など、いずれも従来にはない「質の高い新しい医療」の実現を目指します。

1.STS型人工網膜装置

  • 網膜色素変性は、視覚障害の原因として第3位を占める遺伝性疾患ですが、有効な治療法はまだありません。大阪大学では10年前より、大学院医学系研究科の不二門 尚 教授を中心に、本邦独自の人工網膜である脈絡膜上経網膜電気刺激(STS)法を開発し、臨床試験を行ってきました。このSTS方式は網膜の外側にある脈絡膜への刺激を行うため、網膜上や網膜下への刺激を行う他の方式と比較して侵襲が少なく、安全性や長期的な安定性に優れているという特長があります。このほか、広い視野を得られる、電気刺激による神経賦活効果が得られやすい、IPS細胞を用いた再生医療との併用が可能になる といった特長も備えています。
  • 本研究の実用化により、現在治療法がない網膜色素変性による視覚障害者の視覚機能回復をもたらすことができます。また、本方式によれば、失明して長期に経過した網膜色素変性症にも効果があるため、多くの視覚障害者に適用し、食器を見分けて食事ができるようになるなどの回復が期待されます。

 
STS人工網膜の概念図
  • 本研究におけるSTS方式網膜システムは、体内に埋植する49極の電極と、メガネ状のCCDカメラ・およびバッテリーの体外装置からなっており、両者は無線で通信する構成になっています。体内に埋植する電極はデバイスが小さく、気密性が必要ですが、株式会社ニデックと共同で開発し、安全性・安定性を確認しています。
  • 本研究では、この49チャンネルの 電極をもつSTS方式網膜システムの医師主導治験を多施設で行なうことにより、実用化につなげていきます。具体的には3施設において進行した網膜変性の患者にSTS型人工網膜埋植術を行い、1年間の経過観察を実施する医師主導治験を平成29~30年に計画しており、平成31年には薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律:以下同様)の承認を目指しています。

2.脳波―BMIリハビリテーションシステム

  • 患者数が約350万人に上る脳卒中は、上肢が実用レベルまで回復する割合は15~20%に留まっています。現状、手指伸筋活動もみられない重度麻痺患者に対しては、有効な治療法は存在せず、従来のリハビリテーションでは、 麻痺手の回復そのものを指向した治療よりも、利手交換、片手動作の習得等の代償的治療が中心になっていました。
  • 慶應義塾大学では医学部リハビリテーション医学教室の里宇 明元 教授を中心とする医工連携チームにより、非侵襲的な脳活動計測である頭皮脳波を用い、麻痺そのものの回復を促す治療をめざし、BMI(Brain-Machine Interface)リハビリテーションシステムを開発し、効果の検証を行ってきました。障害脳の可塑性によって麻痺自体を回復させる本アプローチは画期的な治療法といえます。
  • 本システムの対象は脳卒中片麻痺患者のうち、発症後90日以上の慢性期で、手指伸展不能となった、他の方法では効果が得られない重度の患者となります。リハビリテーションにより、手指伸筋の筋活動が現れ、脳皮質運動領域の血流が増加し、結果として運動麻痺の改善につながり、日常生活での上肢使用の増加が期待できます。
脳波ーBMIリハビリテーションシステム
  • 本リハビリテーションシステムは脳の運動野での脳活動を測定する専用の脳波ホルダーと手指伸筋への電気刺激装置、さらには手指を伸展させる電動装具(ロボット)から構成されています。手指の伸展をイメージすることで脳波変化が生じ、これをトリガーに手指への電気刺激と電動装具による他動運動を行い、脳に体性感覚フィードバックを与えることにより新たな運動指令の神経回路を形成します。なお、これらの装置は慶應大学との連携によりパナソニック株式会社が開発し、製品化を目指します。
  • 本研究では、4施設による多施設医師主導治験を平成28年度中に開始し、慢性期脳卒中患者を本システムで治療した際の上肢機能改善効果の証明と有効性・安全性の検証を行います。そして、医師主導治験終了後の平成31年に薬機法承認を目指します。

3.流体解析に基づく脳動脈瘤治療用ステント

  • 我が国での脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血の患者の10~15%が病院搬送前に死亡し、50%以上が合併症を発症し、生存者の半数以上には後遺症が残ると言われています。脳動脈瘤の効果的な治療法であるステント治療の中では、近年、脳動脈瘤に対する低侵襲カテーテル治療としてステントの編み目を細かくしたフローダイバーター(FD)と呼ばれる血流抑制効果の高いステントが使用され始めています。しかしながら現在のFDは、正常な分岐血管まで遮蔽してしまうことによる脳梗塞や、予期せぬ術後動脈瘤の破裂を誘発する可能性があります。このため、医療現場においては、脳血管構造や脳動脈瘤の形状を考慮してサイズ選択を行う必要がありますが、多くの場合、術者の経験に依存しているという問題があります。
  • これに対して、東京慈恵会医科大学脳神経外科では株式会社アルム(坂野 哲平 代表取締役社長)と共同で、流体力学的手法を用いた血流抑止効果の高い新たなステントを開発し、シミュレーションソフトウエアによって個々の症例に最適なステントを選択できるセミカスタムメイドステントとして提供するという全く新しいコンセプトの実現を目指してきました。
  • 本研究の実用化によって、より安全な脳動脈瘤ステント治療が可能になり、患者のQOLを向上させると共に、脳卒中患者への適切な脳梗塞治療の普及による社会的・経済的効果をもたらし、さらには治療海外製品の寡占状態となっている国産治療機器市場に国産機器を拡大してゆく先駆けになるものと期待されます。
  • 説明図・3枚目ステント留置イメージ
  • 説明図・4枚目流体シミュレーション
  • ソフトウエアはベンチャー企業である株式会社アルムが開発し、製造販売業を現在所得準備中の株式会社PENTASによってステントと単体プログラムの薬機法承認および保険収載を目指しています。
  • 本研究では、ステントとソフトウエアの両方の薬機法承認を目指して、臨床試験及び医師主導治験を行います。平成30年度には両方の承認を受けると共に、保険収載して販売開始までを行う予定です。

お問い合わせ先

国立研究開発法人日本医療研究開発機構

産学連携部医療機器研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2213 Fax:03-6870-2242
E-mail:med-device“AT”amed.go.jp

経営企画部企画・広報グループ
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
Tel:03-6870-2245

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最終更新日 平成28年3月14日