プレスリリース 視線パターンで思春期・青年期の自閉スペクトラム症を高率で見分けることが可能に
プレスリリース
国立大学法人福井大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究成果のポイント
- 自閉スペクトラム症(Autism spectrum disorder: ASD、注1)の診断基準にはアイコンタクトの異常が含まれていますが、その判断は医療者の主観的な判断でこれまで行われてきました。本研究において、臨床場面でも簡便に実施できる視線計測装置Gazefinder®(注2)を使って、思春期・青年期のASD男性に視線計測を実施したところ、ASD群に特有の視線パターンを検出することができました。
- ASD群に特有の視線パターンの結果を使って、ASD群と定型発達群を弁別したところ、高い確率(80%以上)でASD者と定型発達者を分けることができました。
- 臨床場面で視線の異常を簡便かつ客観的に測定できる機器はこれまでになく、幼児用に開発したGazefinder®が、思春期・青年期のASD診断のための有用な補助機器の1つになると考えられます。
臨床場面でも簡便に実施できる視線計測装置Gazefinder®で、自閉スペクトラム症(ASD)のある思春期・青年期男性の視線計測を実施したところ、健康な同年齢集団(定型発達群)と比較して、特有の社会的情報(人の顔における目など)への注視パターンを示すことを明らかにしました。臨床場面で簡便に実施できる機器を用いたASD特有の視線パターンの報告は初めてです。今後、様々な年齢層や対象児者に対しての検証を重ねていくことで、社会性の特徴の把握やASDの診断の補助ツールとしてGazefinder®が広く使用されるなど、ASDの臨床に非常に大きな影響を与えうる研究であると考えています。
本研究は、日本医療研究開発機構「脳科学研究戦略推進プログラム」(平成27年度に文部科学省より移管)の事業の一環として行われ、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科の共同研究として、福井大学子どものこころの発達研究センター 小坂浩隆 特命教授、医学部精神医学領域 藤岡徹 学術研究員、連合小児発達学研究科科長 片山泰一 教授、浜松校 土屋賢治 准教授を中心に行われました。
今回の研究成果は、英国科学雑誌「Molecular Autism」(3月23日付)電子版に掲載されます。
研究の背景と経緯
研究の内容
今後の展開
波及効果
ただし、Gazefinder®で測定できることは、あくまでもASDの特徴である社会性の障害の一部に過ぎません。つまり、Gazefinder®の結果だけでASDの診断ができるわけでもありませんし、実施した方の社会性の全てが分かるわけでもありません。ASDの診断に熟練した専門家の判断の補助として有用な機器であると考えられます。また、乳幼児健診などでGazefinder®を使用する際は、Gazefinder®の結果から、ASD様の気になるお子さんの経過をフォローできるような体制作りも一緒に行っていく必要があると考えています。
用語解説
- 「精神障害の診断と統計マニュアル」(DSM)(注3)の第5版において、ASDは、下記の2つの特徴で定義されます。DSMの第4版では「自閉性障害(自閉症)」、「アスペルガー障害」、「特定不能の広汎性発達障害」と呼ばれていたものが、若干の診断基準変更とともに「自閉スペクトラム症」に統合されました。
なお、自閉スペクトラム症は、注意欠陥多動症などとともに「発達障害」として分類されます。
- 「社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の障害」
- 視線が合わない、独り遊びが多い、友人関係が作れない、他者の表情や気持ちが理解できない、他者への共感が乏しい、言葉の発達に遅れがある、会話が続かない、冗談や嫌味が通じない、など。
- 「限定した興味と反復行動ならびに感覚異常」
- 興味範囲が狭い、特殊な才能をもつことがある、意味のない習慣に執着、環境変化に順応できない、常同的で反復的な言語の使用、常同的で反復的な衒奇的運動、感覚刺激への過敏または鈍麻、限定された感覚への探究心、など。
これらの特徴は、強弱こそありますが、誰しもが持っているものです。つまり、これらの特徴は「障害があるか、ないか」という二分法的なものではなく、傾向が強い方からほとんどない方までの連続体(スペクトラム)となっています。ASDの診断は、上述した特徴が比較的強く、その特徴ゆえに日常生活に困難が生じている場合になされます。つまり、ASDと診断された方の中でも自閉スペクトラムの傾向が弱い方もいれば、ASDと診断されていない方でも自閉スペクトラムの傾向が強い方もいるという考え方です。
- (注2)Gazefinder®
- 幼児の社会性を客観的に測定することを目的として、大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科と株式会社JVCケンウッドが共同で開発したモニターとカメラが一体化した視線計測器です。難しい準備を必要とせず、約2分間の映像を眺めてもらうだけで、社会的情報への注視が客観的な数値として測定できます。結果は自動的に算出されるので、実施後すぐに確認できます。
公式のホームページも御参照ください。
- (注3)「精神障害の診断と統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:DSM)
- アメリカ精神医学会によって出版され、精神障害の分類のための共通言語と標準的な基準を提示するものです。2013年に第5版が出版され、診断名やその基準に変更が見られました。
論文タイトル
(日本語タイトル:「視線計測装置Gazefinder®の思春期・青年期男性における自閉スペクトラム症判別機器としての有効性検証」)
著者
Toru Fujioka, Keisuke Inohara, Yuko Okamoto, Yasuhiro Masuya, Makoto Ishitobi, Daisuke N. Saito, Minyoung Jung, Sumiyoshi Arai, Yukiko Matsumura, Takashi X. Fujisawa, Kosuke Narita, Katsuaki Suzuki, Kenji J. Tsuchiya, Norio Mori, Taiichi Katayama, Makoto Sato, Toshio Munesue, Hidehiko Okazawa, Akemi Tomoda, Yuji Wada, Hirotaka Kosaka
- 藤岡 徹(福井大学 医学部精神医学領域 学術研究員)
- 猪原 敬介(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 UECポスドク研究員)
- 岡本 悠子(福井大学 子どものこころの発達研究センター 特命助教)
- 升谷 泰裕(福井大学 医学部精神医学領域 医員)
- 石飛 信(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 室長)
- 齋藤 大輔(福井大学 子どものこころの発達研究センター 特命准教授)
- ジョン ミンヨン(福井大学 子どものこころの発達研究センター 学術研究員)
- 新井 清義(大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 福井校 大学院生)
- 松村 由紀子(福井大学 医学部精神医学領域 助教)
- 藤澤 隆史(福井大学 子どものこころの発達研究センター 特命助教)
- 成田 耕介(群馬大学 医学部医学科高次機能統御系脳神経発達統御学神経精神医学 講師)
- 鈴木 勝昭(浜松医科大学 医学部医学科精神医学講座 准教授)
- 土屋 賢治(浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 准教授)
- 森 則夫(浜松医科大学 医学部医学科精神医学講座 教授)
- 片山 泰一(大阪大学大学院 大阪大学・金沢大学・浜松医科大学・千葉大学・福井大学 連合小児発達学研究科 研究科科長)
- 佐藤 真(大阪大学大学院 医学系研究科 解剖学講座(神経機能形態学)教授)
- 棟居 俊夫(金沢大学 子どものこころの発達研究センター 特任教授)
- 岡沢 秀彦(福井大学 高エネルギー医学研究センター 教授)
- 友田 明美(福井大学 子どものこころの発達研究センター 教授)
- 和田 有司(福井大学 医学部精神医学領域 教授)
- 小坂 浩隆(福井大学 子どものこころの発達研究センター 特命教授)
発表雑誌
「Molecular Autism」(電子版:2016年3月23日に掲載予定)
お問い合わせ先
研究に関すること
小坂 浩隆(こさか ひろたか)
国立大学法人福井大学 子どものこころの発達研究センター
〒910-1193 吉田郡永平寺町松岡下合月23-3
TEL:0776-61-8804(子どものこころの発達研究センター)
E-mail:hirotaka“AT”u-fukui.ac.jp
事業に関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 戦略推進部脳と心の研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL:03-6870-2222
E-mail:brain-pm“AT”amed.go.jp
報道に関すること
国立大学法人福井大学 総合戦略部門 広報室
前川 奈々江(まえがわ ななえ)
〒910-8507 福井市文京3-9-1
TEL:0776-27-9733
E-mail:sskoho-k“AT”ad.u-fukui.ac.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年3月23日
最終更新日 平成28年3月23日