プレスリリース 100人規模のエピゲノム(全DNAメチル化情報)を高精度に解析完了「3層オミックス参照パネル」として公開―生活習慣病・がん・うつなどの予防や治療に貢献可能―
プレスリリース
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究のポイント
さらに、今回解析したエピゲノム(DNAメチル化情報)を、ゲノム(遺伝子情報)・トランスクリプトーム(遺伝子転写情報)と合わせ、3層のオミックス(網羅的生体分子情報)参照パネルとしてこのたび公開しました。
「3層オミックス参照パネル」によって、日本人におけるDNAメチル化の状態と個人差、ならびにゲノム・トランスクリプトームとの関係が細胞ごとに明らかとなりました。今後、この参照パネルを基準として活用することで、様々な環境要因によって生じたDNAメチル化の異常が生活習慣病・がん・うつなどの発症に及ぼす影響が解明され、これらの疾患の予防・早期診断・治療に大きく貢献することが期待されます。
概要
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM、機構長 佐々木真理)では、復興支援事業である東北メディカル・メガバンク計画の一環として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、理事長 末松誠)の支援の下、岩手県の被災地を中心とした大規模健康調査を行い、地域医療の復興に貢献するとともに、個別化医療等の次世代医療体制の構築を目指しています。
近年、ゲノムの塩基配列を変えずにその周辺(エピ)を修飾することで発現を制御する仕組みである「エピゲノム」が注目されています。エピゲノムの一つであるDNAメチル化*1は、細胞分化の仕組みの主役である一方、喫煙・飲酒・ストレスなどの様々な環境要因によって異常が生じ、生活習慣病・がん・うつなどの種々の疾患を引き起こす誘因となっていることが明らかになってきました(図1)。

しかしながら、日本人のDNAメチル化の状態や個人ごと・細胞ごとの違いを大規模かつ網羅的に調査した研究はありませんでした。そこで、私達は東北メディカル・メガバンク計画にご参加いただいている約100名の方における全DNAのメチル化を詳細に解析しました。
エピゲノム解析の対象となる組織には皮膚、口腔粘膜、血液などがありますが、汎用性が高く多くの疾患との関連性が指摘されている血液細胞を用いることにしました。血液からセルソーター*2を用いて血液細胞を一つ一つ回収し、98%以上という高い純度で種々の血液細胞を分別収集しました。その中から、エピゲノムの特徴が大きく異なる単球*3とCD4陽性Tリンパ球*4という2つの血液細胞からDNAとRNAを取り出し、次世代シークエンサーという解析機器を用いて、DNAの塩基配列の情報(ゲノム)、遺伝子転写の情報(トランスクリプトーム)に加え、DNAメチル化の情報(エピゲノム)を解析しました。その結果、2,400万箇所のDNAメチル化部位を同定するとともに、個人ごとの違いや細胞ごとの違いを明らかにしました。
さらに、本成果を広く利用していただくため、ゲノムブラウザー*5でこれら3つの情報を合わせ、「3層オミックス参照パネル」として一部のデータを公開することにしました(図2)。この参照パネルは、当機構のウェブサイト(iMethyl Database)で閲覧可能です。

単球とCD4陽性Tリンパ球のDNAメチル化の様子と個人間の違いが示されている。
本公開にあわせて100人規模の個々人のゲノム、エピゲノム、トランスクリプトームを利用した研究について共同研究を募集いたします。詳細につきましては後日ウェブサイトにて発表いたします。
まとめと展望
用語解説
- *1DNAメチル化
- 遺伝子の働きを調節する仕組みの一つで、DNAのC(シトシン)塩基にメチル基(-CH3)が結合した状態を指します。同じ遺伝子をもつ細胞でも、DNAメチル化の差異によって様々な臓器に分化することができます。また、環境要因によってDNAメチル化に異常が生じ、疾患の発症につながることがあります。
- *2セルソーター
- 細胞一つ一つにレーザーをあてることで、その大きさや形を見分けることができます。さらに、色のついた抗体を用いることで、細胞表面のタンパク質の種類も見分けることができます。これらの手法によって、特定の細胞を高純度に集めることができます。
- *3単球
- 外部から侵入した細菌やウイルス等の異物を積極的に内部に取り込み分解する細胞で、炎症などと深い関係があります。
- *4CD4陽性 Tリンパ球
- ヒトの免疫系の司令塔となる重要な細胞で、ヘルパーT細胞とも呼ばれます。単球やマクロファージから異物の情報を受け取り、B細胞に抗体を産生する指示を与えるなどの役割があります。
- *5ゲノムブラウザー
- ゲノム・エピゲノム情報を効率的に閲覧したり特定の遺伝子や領域を検索したりするためのソフトウェアです。インターネットのウェブサイトのコンテンツとして利用することができます。
東北メディカル・メガバンク計画について
お問い合わせ先
研究内容に関して
いわて東北メディカル・メガバンク機構 生体情報解析部門
特命教授 清水 厚志
電話番号:019-651-5111(内線5472) Eメール:ashimizu”AT”iwate-med.ac.jp
報道に関して
いわて東北メディカル・メガバンク機構 広報・企画部門
部門長 遠藤 龍人
電話番号:019-651-5111(内線5509) Eメール:ryuendo”AT”iwate-med.ac.jp
AMED事業に関して
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 バイオバンク事業部
電話番号:03-6870-2228 Eメール:kiban-kenkyu”AT”amed.go.jp
※Eメールは上記アドレス”AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年4月14日
最終更新日 平成28年4月14日