プレスリリース 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明
プレスリリース
国立大学法人名古屋大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
名古屋大学大学院医学系研究科(研究科長・髙橋雅英)精神医学の尾崎紀夫(おざきのりお)教授らの研究グループは、東京都医学総合研究所、大阪大学、新潟大学、富山大学、藤田保健衛生大学、理化学研究所、徳島大学、Chang Gung University(台湾)の研究グループとの共同研究により、統合失調症(※1)の発症に強く関与するゲノムコピー数変異(CNV)(※2)を患者全体の約9%と高い頻度で同定し、患者の臨床的特徴および病因の一端を解明しました。
本研究グループは、ゲノム変異の一種であるCNVが発症に関与する可能性を考え、ヒト染色体全体を高解像で解析できる方法(アレイCGH)を用い、患者と健常者合わせて約2,500名を詳しく調べました。その結果、発症に関与するCNVを患者全体の約9%で同定し、健常者よりも3倍程度高いことが分かりました。同定したCNVの中には、22番染色体の一領域(22q11.2)の欠失やX染色体の一領域(Xp22.31)の欠失が含まれていました。22q11.2の欠失、Xp22.31の欠失はともに身体的な疾患を生まれた時から持っているケースも多く、平成27年から難病医療費助成制度の対象疾病になっています。発症に関わるCNVをもつ患者全体でも、その40%で先天性あるいは発達上の問題が確認され、さらに統合失調症の薬物治療に十分な効果を示さない確率が高いことが示されました。
以上の知見から、ゲノム解析が統合失調症の早期診断に役立ち、また治療反応性を予測できる可能性が示唆されました。さらに、ゲノムデータを詳しく解析することで、統合失調症の病因には、シナプスやカルシウムシグナルの異常に加え、ゲノムの不安定性や酸化ストレス応答の異常が関与する可能性が示唆され、本疾患の病態メカニズムの一端が明らかになりました。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Molecular Psychiatry』(2016年5月31日付けの電子版)に掲載されました。
ポイント
- 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異(CNV)が、患者全体の約9%で同定され、難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった。
- 発症に関連したCNVを持つ患者では、その40%で先天性あるいは発達上の問題が認められ、さらに統合失調症の薬物治療で十分な効果が得られない患者が多いことが明らかになった。
- 本疾患の病因にゲノム不安定性や酸化ストレス応答異常等の関与が示唆された。
1.背景
2.研究成果
CNVは、脳の発達に重要な遺伝子の機能に影響を及ぼすことで、神経発達障害が起こり最終的に精神疾患の発症に繋がると考えられています。実際、発症に関与するCNVをもつ患者では、約4割で先天性あるいは発達上の問題を抱えており、また抗精神病薬を用いた薬物治療でも十分な効果を得られない場合が多いことが確認されました。
次に本疾患の病因を明らかにするためにゲノムデータをバイオインフォマティクスの手法を用いて詳しく調べました。その結果、統合失調症の病因には、従来報告されていたシナプスやカルシウムシグナルに加え、ゲノム不安定性や酸化ストレス応答異常が関与する可能性が示唆されました。
3.今後の展開
また、本研究で得られたゲノム解析の知見から、精神疾患の病態を反映したモデル動物や患者由来のiPS細胞が作製され、病態メカニズムの解明や新しい治療薬の開発が進むことが期待できます。
4.用語説明
- (※1)統合失調症
- 陽性症状(幻覚や妄想など)、陰性症状(意欲低下など)、認知機能障害を主症状とし、社会機能の低下、高い自殺率を呈する疾患。有病率が1%と高く、本邦だけで、患者は80万人に達する。家系内に疾患が集積していること、遺伝率が80%と高いことから、病態解明のためのゲノム解析が有望と考えられている。
- (※2)ゲノムコピー数変異(CNV)
- 染色体上の一部の領域のコピー数が通常2コピーのところ、1コピー以下(欠失)あるいは3コピー以上(重複)となる変化をいう。CNVは健康な人でも多数有していることが分かっているが、CNVの一部は脳の発達に重要な遺伝子の機能に影響を与え、精神疾患や発達障害の発症に繋がると考えられている。
5.発表雑誌
6.本研究について
7.お問い合わせ先
研究内容について
名古屋大学大学院医学系研究科 精神医学・教授
氏名:尾崎 紀夫
TEL:052-744-2282
FAX:052-744-2293
e-mail:ozaki-n“AT”med.nagoya-u.ac.jp
広報担当について
名古屋大学医学部・医学系研究科総務課総務係
TEL:052-744-2228
FAX:052-744-2785
e-mail:iga-sous“AT”adm.nagoya-u.ac.jp
AMED事業について
国立研究開発法人日本医療研究開発機構 脳と心の研究課
TEL:03-6870-2222
e-mail:brain-pm“AT”amed.go.jp
※e-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年6月8日
最終更新日 平成28年6月8日