プレスリリース 国立精神・神経医療研究センターが認知症予防のための日本で初めての健常者対象の新オレンジプラン統合レジストリ;『IROOP(TM)』の運用を開始

プレスリリース

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター
国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

本活動のポイント

  • 認知症予防を目的とする40歳以上の健康な日本人を対象とした数万人規模のインターネットレジストリはこれまで存在せず、本研究が最初である。
  • 産官学から提供される最新の情報により認知機能低下予防やあたまの健康増進に関する国の知識向上を図る。

  • 登録者には生活習慣などのアンケートに答えていただくとともに、米国および日本で有効性検証されている認知機能検査「IROOP™あたまの健康チェック」を電話で半年ごとに無料で受けていただく。

  • 半年ごとの認知機能の経過に関連する因子をアンケート情報から調査・解明することを目指し、認知症の発症予防に役に立てる。
  • 認知症予防を目的とした臨床研究や認知機能の改善が期待される薬の治験に適した登録者に情報を提供する。

図1 IROOP™の概要

IROOP(TM)の概要

概要

国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター(NCNP、東京都小平市、理事長:水澤英洋)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の認知症研究開発事業の支援により国立長寿医療研究センターなどとともに認知症の発症予防を目指したインターネット健常者登録システムIROOP™(Integrated Registry Of Orange Plan;アイループ)を開発し、登録運用を開始します。

脳とこころの疾患の克服を目指すナショナルセンターであるNCNPは、新オレンジプランに基づく研究として、認知症が発症する前の症状をとらえ、生活習慣の改善などにより発症を予防する因子の解明と、認知機能の改善が期待される薬の開発のための臨床研究や治験促進を目的とする、認知症予防のための健常者レジストリのシステムを開発し、運用を開始します。IROOP™では、登録者が自身の記憶力の状態を定期的にチェックできる認知機能検査を無料で提供すると共に、産官学から提供される最新の情報により認知機能低下予防やあたまの健康増進に関する国民の知識向上を図ります。

公的機関の主導する認知症予防を目的とし、40歳以上の健康な日本人を対象とした数万人規模のインターネット登録システム(レジストリ)の運用は、日本初の取り組みです。この健常者登録システムは、認知症の発症を予防するための方策を見つける研究や認知機能の改善が期待される薬の効果を確かめる治験に関するご案内をご希望者へ提供して参ります。

背景と目的

日本では、2025年には団塊の世代が75歳を迎え、実に国民の4人に1人が75歳以上という社会が到来します。これに伴い認知症人口も2012年時点での462万人から700万人にまで増加することが予測され、予備軍をふくめると相当数にのぼると推計されています。

認知症人口は社会の高齢化とともに、世界規模で急増しつつあります。このため、認知症、特にアルツハイマー病に対する対策が国際的に急がれています。しかし、アルツハイマー病を根本的に治療する薬の開発が進んでいるとはいえません。この一つの原因として、認知症の発症を予防するための方策を見つける研究や、認知機能の改善が期待される薬の効果を確かめる治験が計画されている場合でも、その有効性を検証するに適した方々に効果的に参加募集のご案内をすることが難しいことがあげられています。

あるイギリスの事例では、環境要因や生活習慣病への取り組みがなされ、認知症の有病率は下がったという報告があります。このような取り組みの重要性や有効性を確かめるためにも、多くの方々に予防策を実証する研究に参加いただき易い環境整備が求められています。

IROOP™では、この状況を踏まえ、日本全国の40歳以上の健康な方々にインターネット上での登録を数万人規模で募ります。登録された方々にはインターネット上で生活習慣などのアンケートに答えていただくとともに、認知機能を簡易にチェックできる検査である「IROOP™あたまの健康チェック」を半年ごとに電話で受けていただきます。この検査の結果は登録された方ご自身が翌日からIROOP™サイト上のマイページで確認することができます。この半年ごとの記憶機能の経過に関連する因子をアンケート情報から調査・解明を目指し、認知症の発症予防に役立てます。

さらに、このIROOP™への登録者の中で適した方々に、生活習慣の改善などにより認知症の発症を予防する臨床研究や、認知機能の改善が期待される薬の効果を確かめる治験をご案内します。

また、数万人の登録を加速させるために、全国約400の国立病院や認知症疾患医療センター等に登録啓発のための広報ポスターや冊子を設置し、インターネット上でも募集するなど、広く国民に向けた広報活動を実施していく予定です。

運用・構成

(1)登録対象者:
日本に在住し日本語を母国語とする40歳以上の健康な国民が対象になります。
(2)システムデザイン:
インターネットを活用した登録システムです。
(3)登録予定数:
初年度 8,000人/年。
(4)参加者の募集方法について
  • 全国の病院や認知症疾患医療センター等に登録募集ポスターやパンフレット冊子を設置することを予定しています。
  • インターネット上でのホームページからも登録を促します。
  • 趣旨に賛同いただける団体からの啓発サポートを募ることも予定しています。
(5)IROOP™登録システム概要
  • IROOP™の登録システムは、IROOP™サイトとデータベースから構成されています
  • IROOP™サイトでの登録に際しては、まずIROOP™での情報管理体制や運用方法等についての同意意思を確認の上、登録者のEメールアドレスを登録いただきます。
  • その後、登録者の氏名、生年月、性別等の基本的な情報の入力をいただきます。
  • 基本情報を入力後、初回アンケート(約160項目 所要約25分)にお答えいただきます。
  • アンケートは、いくつかの大項目に分かれており、大項目ごと何度かに分けて入力を行うことができます。
  • 登録から6ヶ月ごとに定期アンケート(約145項目 所要約20分)にお答えいただきます。
  • 初回、定期アンケートの後には、簡易な記憶力チェック「IROOP™あたまの健康チェック」(所要15分程度)をご自宅の電話や携帯電話を通じて無料で受けていただけます。
  • アンケートへ回答後、マイページに「IROOP™あたまの健康チェック」専用フリーダイヤルと受検番号が表示されます。
  • 「IROOP™あたまの健康チェック」の結果は、チェックの翌日から登録者ご自身のマイページから閲覧いただけます。
  • 定期アンケート時期のお知らせや最新情報のご案内は、IROOP™のメール配信システムにより登録のEメールアドレスに随時、送信されます。
  • IROOP™でのデータ管理については、個人情報管理責任者が厳正に管理します。
  • IROOP™データベースに保存される情報については、個人情報の保護に関する法律、ならびに、厚生労働省の「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」等に従い、真正性・保存性が担保された堅牢なセキュリティ対策を施し厳重に管理されます。
  • IROOP™に関連する同意の撤回や登録データの削除依頼などは、登録者が希望する場合にはいつでも行うことができます。
(6)認知機能検査「IROOP™あたまの健康チェック」について
米国食品医薬品局でも新薬治験におけるアウトカムスケールの1つとして採用されており、米国および日本において検証され、国内の地方自治体でも使用されている10単語記憶検査日本版1)2)(MCIスクリーン:図2)を15分間の電話対応により行います。

「IROOP™あたまの健康チェック」は、半年ごとに受検いただけ、結果は翌日までにIROOP™サイトのマイページにて登録者本人が閲覧可能です。

図2  コールセンターによる認知機能検査

コールセンターによる認知機能検査
(7)医学倫理的配慮について
本活動は、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、ヘルシンキ宣言に基づく倫理原則を遵守して実施します。すでに、国立精神・神経医療研究センターの倫理委員会で既に承認を受けています。
(8)個人の人権擁護について
  • 実施にかかるデータ類を取り扱う際には参加者の個人情報保護に十分配慮しています。参加者への同意説明には、個人情報は連結可能匿名化された上で研究者により厳重に保護されること、研究の目的以外に本活動で得られた登録者のデータを使用しないことなどを記載してあります。
  • インターネットを介した情報はすべて登録システム内で同意が得られた後に匿名化され、登録者識別コードが内部で発行されます。運用システムにログインすることにより臨床情報はすべて匿名化された登録者識別コードのみを付され、個人を同定できる情報は付されることはありません。電話を介して検査を行う際には、登録者にフリーダイヤルでコールセンターにかけてもらい受検番号のみで検査を行います。コールセンターは受検番号を運用サーバの端末に入力し、登録者の存在を確認します。解析を行う際にも解析を担当する者が個人を同定できる情報を取り扱うことはありません。
  • 運用データベースサーバからメールサーバに登録者の識別コードを管理し、登録者識別コードをキーとして、登録者のメールアドレスを知ることなくメール送信することができます。認知機能検査を受けた登録者には、運用データベースサーバからの識別コードを介し、メールサーバにより、定期的な項目入力を促すリマインダメールおよび認知機能検査受検の依頼、’認知機能検査結果’のURL情報等(運用Webサイト上)がメールにて与えられます。研究事務局は登録者のメールアドレスを知ることはできません。事務局は識別コードにメール送信するため、メールアドレスを直接知ることはできません。
  • 個人情報を保持するデータベースは暗号化ソフトウェアにより技術的な盗難対策もとっています。

図3 個人情報保護

個人情報保護
(9)登録者への認知機能検査結果説明
登録者は、チェックの翌日からIROOP™へログインの上、マイページより自身の経時的な認知機能検査結果(0~100の値で示される認知機能指数MPI)を閲覧することができます。
(10)IROOP™システムで得られるデータ利用について
IROOP™システムから、治験実施団体や他の臨床研究者にデータを直接提供することはありません。新薬治験や認知症予防を目指した臨床研究に登録者がIROOP™を介して登録し、これらの団体や研究者が登録者データを利用する場合には、登録者専用のログイン画面から1回きりのパスワードによりダウンロードを可能とします。この1回きりのパスワードは登録者のみに与えられ、登録者から団体や臨床研究者に提供されます。

本活動の意義と今後の展望

IROOP™サイトでは、あたまの健康に関する様々な最新情報を提供して参ります。また登録者がご希望される場合には、生活習慣の改善などにより認知症の発症を予防するための方策を見つける研究や認知機能の改善が期待される薬の治験をご案内します。さらに、この半年ごとに入力された生活習慣などに関するアンケート情報から記憶力の経過に関連する因子を調査・解明し認知症の発症予防に役立てることもできると考えています。

認知症はその多くが、慢性進行性の経緯を辿り、健常者から前臨床期、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment; MCI)、そして軽度・中等度・進行期の認知症まで移行していきます。このことから広く健常者の登録を募ることは、今後の認知症予防研究では必須と考えられています。

既に欧米では、IROOP™同様にインターネットを用いた健常者レジストリとしてBrain Health Registry(BHR)が運用され、アルツハイマー病の予防研究や治験を促進するレジストリ・システムとして欧州のEuropean Prevention of Alzheimer’s Dementia consortium(EPAD)や米国のGlobal Alzheimer’s Platform(GAP)が構築され運用されつつあります。IROOP™はBrain Health Registry (BHR)と協調していくことになっており、IROOP™の果たす意義は国際的にも極めて大きなものであると言えます。

これまで、明確な対処法や予防策が少ないというイメージのあった認知症対策ですが、最近の研究では、様々な予防策や認知機能低下のリスク要因などが提示されてきています。ご自身や大切なご家族の健やかな暮らしの為に、私たち国民ひとりひとりが最新の正確な情報を基に、日々の生活の中であたまの健康を維持できるような環境づくりを目指すことが求められています。そのためにも、IROOP™は、登録対象とならない40歳未満の方々へも、ご家族への情報提供や登録の補助などでIROOP™へのサポートをいただけるよう啓発を進めて参ります。また、今後も継続的かつ広域にIROOP™のサービスの広報、啓発、提供を推し進めるために、全国の関連機関・団体、地方自治体、企業などからの運営趣旨への賛同や協力、支援を募って参ります。

用語の説明

新オレンジプラン
厚生労働省の認知症施策推進総合戦略。「認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指す」ことを基本的考え方とする。
レジストリ
医学の前向き研究の進め方のひとつ。多施設において疾患の情報をデータベースに登録し、症例を積み重ねていき、疾患のさまざまな原因や経過などについて統計的に検討する方法。

活動グループ

国立精神・神経医療研究センター
水澤 英洋、松田 博史、今林 悦子、舞草 伯秀、小川 雅代
国立長寿医療研究センター
鳥羽 研二、島田 裕之、鈴木 啓介、渡辺 浩
横浜市立脳卒中・神経脊椎センター
秋山 治彦(日本認知症学会理事長)
大阪市立大学医学研究科
森 啓

活動支援

IROOP™は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の認知症研究開発事業に基づき運用されます。

参考文献

1) Shankle WR, Mangrola T, Chan T, Hara J. Development and validation of the Memory Performance Index: reducing measurement error in recall tests. Alzheimer’s Dement. 2009;5(4):295-306.

2) Cho A, Sugimura M, Nakano S, Yamada T. The Japanese MCI screen for early detection of Alzheimer's disease and related disorders. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2008;23(2):162-6.

お問い合わせ先

研究に関すること

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
脳病態統合イメージングセンター長 松田博史
〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2712 (内線2171)
E-mail:matsudah“AT”ncnp.go.jp

報道に関すること

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)
広報係
TEL:042-341-2711(代表)/FAX:042-344-6745
E-mail:ncnp-kouhou“AT”ncnp.go.jp

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
総務課総務係
TEL:0562-46-2311(代表)/FAX:0562-48-2373

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
戦略推進部 脳と心の研究課
TEL:03-6870-2222/FAX:03-6870-2244
E-mail:brain-d“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成28年1月8日

最終更新日 平成28年6月22日