プレスリリース ステロイド治療抵抗性の天疱瘡(てんぽうそう)患者を対象とした 抗CD20抗体(リツキシマブ)療法の医師主導治験を開始

プレスリリース

慶應義塾大学病院
慶應義塾大学医学部
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

2016年10月4日、慶應義塾大学医学部皮膚科学教室の天谷(あまがい)雅行教授、山上淳専任講師らは、ステロイド治療で十分な効果が得られない難治性天疱瘡患者における抗CD20抗体(一般名リツキシマブ)療法の有効性及び安全性を評価するための医師主導治験を開始しました。

慶應義塾大学病院臨床研究推進センターの支援のもと、慶應義塾大学で施行されます。また、他に国内3施設(北海道大学、岡山大学、久留米大学)での施行も予定されています。

天疱瘡は国指定の難病で、細胞間の接着に重要な役割をしている分子(デスモグレイン1、3)に対する自己抗体により、皮膚や粘膜に水疱、びらんを生じる自己免疫疾患です。現在、天疱瘡に対する治療法は、ステロイド剤内服を中心とした免疫全般を抑制する治療法が中心となっています。しかし、ステロイド治療に抵抗性を示し、従来の治療法では症状が治まらない症例が存在します。

このような症例に対しては、CD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブによる治療が期待されます。天疱瘡の原因となる自己抗体は、CD20陽性のB細胞から産生されていると考えられています。リツキシマブは、このB細胞を除去することによって天疱瘡に対する治療効果を発揮します。天疱瘡に対するリツキシマブの有用性は、海外で報告されており、本邦でも今回の治験に先行して計画された探索的研究で有効性が示唆されています。

今回の治験によって、リツキシマブの薬事承認をめざします。また、難治性の天疱瘡に対する治療戦略が見直され、ステロイドを減量できずに苦しんでいる患者にとって有望な新規治療法が提示されることが期待されます。

なお、この医師主導治験は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)の研究課題「ガイドライン最適化を目的とした自己免疫性水疱症に対する抗CD20抗体療法の評価」(研究開発代表者: 慶應義塾大学医学部皮膚科学教室教授天谷雅行)の一環として行われています。

背景と概要

現在、天疱瘡に対する治療法は、ステロイド内服を中心とした免疫抑制療法が中心的役割を担っています。天疱瘡診療ガイドラインでは、中等症以上の天疱瘡症例に対しては、プレドニゾロン(PSL)1mg/kg/日を標準的初期投与量として推奨しています。水疱・びらんの新生がなくなり、皮膚症状の大部分が治癒したらPSLを漸減していき、最小限のステロイド内服(PSL換算で0.2mg/kg/日または10mg/kg/日以下)と必要最小限の免疫抑制剤併用のみで皮疹が出現しない状態(「寛解」と定義されます)を治療の目標としています。ステロイド減量中に再燃または再発して寛解に至らず、ステロイド治療抵抗性と判断される症例では、アザチオプリンなどの免疫抑制剤、血漿交換療法、免疫グロブリン大量療法(IVIG)などを併用しながらステロイドの減量を試みます。しかし、既存の治療法のみではどうしても寛解に至らない症例が少数ながら存在し、難治例に対する新規治療法が強く望まれています。

治験について

1)今回の医師主導治験に至る経緯

近年、ステロイド治療抵抗性の天疱瘡症例に対する治療法として、B細胞の表面マーカーであるCD20に対するモノクローナル抗体(注1)であるリツキシマブが注目されてきました。天疱瘡の原因となる自己抗体を産生する細胞は、CD20を細胞表面に発現しているB細胞、およびさらに分化した形質細胞と考えられています。リツキシマブは、B細胞を除去することによって自己抗体の産生を抑制し、天疱瘡に対する治療効果を発揮します。実際に、海外では2002年から治療抵抗性の天疱瘡に対するリツキシマブの奏功例が報告されており、ヨーロッパの天疱瘡治療ガイドラインでは、難治例に対する標準的な治療法として位置づけられるようになりました。

一方、日本では難治性の天疱瘡に使用された症例報告は見られるものの、保険適応外のため天疱瘡に対して日常の臨床現場でリツキシマブを使用することはできませんでした。そこで、天谷雅行教授らは、2009年より厚生労働省の稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班の研究の一環として、ステロイド抵抗性の天疱瘡・類天疱瘡の症例を対象にリツキシマブの効果・安全性の探索的研究を実施しました。国内4施設(慶應義塾大学、北海道大学、岡山大学、久留米大学)で9例の難治性の天疱瘡症例にリツキシマブを投与し、全例で有効性が見られました。この結果を受けて、ステロイド治療抵抗性の天疱瘡患者に対する治療として、2016年10月4日、リツキシマブの有効性及び安全性を評価するための医師主導治験を開始しました。

2)対象患者と方法

PSL使用中(またはPSLと「最低限の併用療法」の薬剤のうち1剤併用中)の天疱瘡の確定診断例で、PSLを10mg/日に減量するまでの間に臨床症状スコア(Pemphigus Disease Area Index; PDAI)の再上昇を認めた20歳以上80歳以下の患者を対象としています。

リツキシマブ1000mgを2週間隔で2回投与する臨床試験です。同意取得時点でのPSLの内服量を継続したまま、リツキシマブ1000mgを2週間隔で2回、点滴静脈内投与を行います。初回投与は入院で、2回目投与は入院または外来で行います。決められたスケジュールに従ってPSLを減量し、リツキシマブ投与開始24週後の時点で寛解に到達した症例の割合を主要評価項目としています。

今後の展開

今回の治験の結果をもとに、治療抵抗性の天疱瘡に対するリツキシマブの薬事承認をめざしています。既存の治療法のみでは寛解に到達できなかった、難治性の天疱瘡症例における新規治療法として期待されます。現状においてステロイドを減量できずに苦しんでいる患者において、リツキシマブの使用によりステロイドの副作用のリスクを減らせる可能性があり、難病に対する新規治療という面からも有益性が期待できます。

特記事項

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)(難治性疾患実用化研究事業)および全薬工業株式会社の支援によって行われました。

用語解説

(注1)モノクローナル抗体:
単一の抗体産生細胞に由来するクローンから作られた抗体。均一な性質を持ち、標的となる分子に結合する抗体を投与することができるため、がんや自己免疫疾患の治療に応用されている。

お問い合わせ先

本発表資料のお問い合わせ先

慶應義塾大学医学部皮膚科学教室
専任講師 山上 淳(やまがみ じゅん)
TEL:03-5363-3823 FAX:03-3351-6880
E-mail:yamagamijun“AT”keio.jp

事業に関するお問い合わせ先

日本医療研究開発機構 戦略推進部難病研究課
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E-mail:nambyo-info“AT”amed.go.jp

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掲載日 平成28年10月19日

最終更新日 平成28年10月19日