プレスリリース 大気汚染物質がアトピー性皮膚炎の症状を引き起こすメカニズムを解明―痒みの制御をターゲットとした新規治療法開発の可能性―
プレスリリース
国立大学法人東北大学大学院医学系研究科
国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
国立大学法人信州大学医学部附属病院
研究概要
東北大学大学院医学系研究科の日高高徳医員(医化学分野・皮膚科学分野)、小林枝里助教(医化学分野)、山本雅之教授(医化学分野・東北メディカル・メガバンク機構 機構長)らは、大気汚染物質がアトピー性皮膚炎の諸症状を引き起こす仕組みの一端を解明しました。これまで、大気汚染とアトピー性皮膚炎の患者数や重症度に相関があることが知られていましたが、その理由は不明でした。今回の成果により、大気汚染物質が転写因子※1AhRを活性化させることで神経栄養因子※2arteminを発現させ、皮膚表面の表皮内へ神経が伸長し、過剰に痒みを感じやすい状態を作り出すことがわかりました。過剰な痒みにより皮膚を掻いてしまうことで皮膚バリアが破壊され、皮膚から多くの抗原が侵入してアレルギー性皮膚炎を引き起こすと考えられます(図1)。本研究の結果は、これまでアトピー性皮膚炎の治療に対症療法的に使われてきたステロイド剤などに加えて、AhRの活性を抑える化合物や、arteminの働きを抑える物質をアトピー性皮膚炎の治療薬として利用できる可能性を示しています。
この成果は2016年11月21日(日本時間22日午前1時)以降に英国科学雑誌「Nature Immunology」のオンライン版で公開されました。
本研究の背景
本研究の成果
また、ディーゼル排気に含まれる物質などの大気汚染物質を慢性的に皮膚に塗布することでもAhRが活性化され、正常なAhR遺伝子を持ったマウスでarteminの発現や表皮内神経伸長、痒み過敏性などAhR活性化マウスに見られた症状を再現することがわかりました。さらに、アトピー性皮膚炎患者の皮膚ではAhRの活性化が強い人ほどarteminの発現量が高いことがわかり、AhRによるartemin活性化がヒトのアトピー性皮膚炎に関連することが明らかになりました。
これらの結果から、皮膚についた大気汚染物質がAhRを活性化し、表皮でのartemin産生を誘導することで、表皮内への神経伸長による痒み過敏性を引き起こし、さらには皮膚バリア機能の破綻によって抗原の侵入を増加させ、アトピー性皮膚炎の諸症状を引き起こすことが明らかになりました。
今後の展望
研究について
用語解説
- ※1 転写因子
- DNAに結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質。
- ※2 神経栄養因子
- 神経の生存や成長、分化を促すタンパク質の総称。

論文名
「大気汚染物質によるAhR活性化はarteminの誘導を介してアトピー性皮膚炎様の症状を引き起こす」
掲載予定誌:Nature Immunology
研究施設と研究者
本研究は、日本国内5箇所の研究施設に所属する11名の研究者による、共同研究として実施されました。
- 東北大学大学院医学系研究科 医化学分野
日高高徳(医員)、小林枝里(助教)、鈴木隆史(講師)、山本雅之(教授) - 東北大学大学院医学系研究科 皮膚科学分野
日高高徳(医員)、藤村卓(助教)、相場節也(教授) - 信州大学医学部 皮膚科学教室
小川英作(助教)、奥山隆平(教授) - 東北大学大学院医学系研究科 細胞増殖制御分野
舟山亮(助教)、長島剛史(助教)、中山啓子(教授) - 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
山本雅之(機構長)
お問い合わせ先
研究に関すること
東北大学大学院医学系研究科 医化学分野
東北メディカル・メガバンク機構長
教授 山本 雅之(やまもと まさゆき)
電話番号:022-717-8084
Eメール:masiyamamoto“AT”med.tohoku.ac.jp
報道に関すること
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
大学院医学系研究科 医学部広報室
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
FAX番号:022-717-7923
Eメール:f-nagami“AT”med.tohoku.ac.jp
AMEDに関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 研究企画課
電話番号:03-6870-2224
FAX番号:03-6870-2243
Eメール:kenkyuk-ask“AT”amed.go.jp
※Eメールは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成28年11月15日
最終更新日 平成28年11月15日