プレスリリース 制御性T細胞発生に関わる重要なタンパク質を同定―自己免疫疾患やアレルギーの治療に光―
プレスリリース
国立大学法人大阪大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究成果のポイント
- 制御性T細胞のマスター転写因子※1がFoxp3であることは同定されていたが、どのようにFoxp3が発現し制御性T細胞が発生するかは不明だった
- 今回、ゲノムオーガナイザーSatb1によるエピゲノム※2の成立が制御性T細胞の発生に関わっていることを解明
- 今後、本メカニズムを更に研究することで、自己免疫疾患やアレルギーの病因を理解し、これらの疾患を根本的に治療することが可能に
概要

本研究成果は、英国科学雑誌 『Nature Immunology』[日本時間12月20日(火)午前1時]にオンライン掲載されます。
研究の背景
本研究の内容
本研究成果の意義
また本研究成果は、制御性T細胞を用いた免疫細胞療法にも役立つことが考えられます。通常のT細胞を制御性T細胞に分化させ細胞療法に用いると自己免疫疾患やアレルギーの抑制に効果的であることが期待されますが、現時点で安定した制御性T細胞を試験管内で作製することは難しいです。本研究で示した制御性T細胞発生初期のエピゲノム成立は、そのような試験管内での制御性T細胞作製の指標となると期待されます。
用語解説
- ※1:マスター転写因子
- 転写因子とは遺伝子発現をコントロールするタンパク質で、どのような転写因子が出ているかによりどのような細胞になるかが決まる。マスター転写因子はその中でも一番重要とされ、細胞のアイデンティティーを決める。
- ※2:エピゲノム
- 遺伝子配列はすべての細胞で同じであるが、細胞によって違ったパターンのマークが配列につく。このようなパターンをエピゲノムと呼ぶ。転写因子はこのようなマークを認識して遺伝子発現コントロールを行う。
掲載論文・雑誌
- 著者:
- Yohko Kitagawa, Naganari Ohkura, Yujiro Kidani, Alexis Vandenbon, et al.
- タイトル:
- Guidance of regulatory T cell development by Satb1-dependent super-enhancer establishment
- 掲載誌:
- Nature Immunology 日本時間12月20日(火)午前1時 オンライン掲載
特記事項
研究の解説
研究の背景
制御性T細胞は過剰な免疫反応を抑えるのに必須な細胞です。制御性T細胞の欠損または異常は致命的な自己免疫疾患やアレルギーを引き起こします。また、制御性T細胞は移植された臓器の拒絶防止に貢献します。このような疾患との関わりから、制御性T細胞を増やすと治療に役立つことが期待されています。そのためには制御性T細胞がどのように発生するのかを理解することが必要です。
1980年代に坂口志文教授が制御性T細胞を発見して以来、この細胞の機能、分化について多くのグループが研究を進めてきました。2003年には同グループが制御性T細胞のマスター転写因子としてFoxp3を同定しました。その後、Foxp3による転写制御などについて研究が進みましたが、どのようにFoxp3が発現し制御性T細胞が発生するかは不明でした。
本研究成果の内容
本研究では、制御性T細胞発生時にFoxp3が発現する前に何が起こるか、すなわちどのように制御性T細胞の分化が引き起こされるかということに焦点を置きました。発生段階のエピゲノムの変化を網羅的に調べた結果、制御性T細胞特異的なスーパーエンハンサー領域の活性化が制御性T細胞前駆細胞でFoxp3が発現する前に起こることが明らかになりました。さらに、この現象に必要な分子としてゲノムオーガナイザーSatb1を同定しました。Satb1欠損マウスでは制御性T細胞の胸腺での発生が顕著に減り、様々な臓器で自己免疫反応による炎症が起こりました(図1)。
図1.Satb1欠損マウスの制御性T細胞発生異常と自己免疫疾患
これらの結果からSatb1によるエピゲノム成立は胸腺での制御性T細胞発生において現時点で最も初期のイベントであり、後に制御性T細胞の転写制御を担うFoxp3の発現に必須であることが明らかになりました(図2)。Satb1は細胞を制御性T細胞に分化できるように整えることから、制御性T細胞発生のパイオニア因子の一つであると考えられます。
図2.制御性T細胞発生メカニズム
本研究成果の意義
本研究で明らかになった制御性T細胞発生メカニズムは、制御性T細胞を用いた免疫細胞療法に役立つことと考えられます。通常のT細胞を制御性T細胞に分化させ細胞療法に用いると自己免疫疾患やアレルギーの抑制に効果的であることが期待されますが、現時点で安定した制御性T細胞を試験管内で作製することは難しいです。本研究で示した制御性T細胞発生初期のエピゲノム成立は、そのような試験管内での制御性T細胞作製の指標となると期待されます。
また、本研究により、制御性T細胞発生初期の異常は免疫疾患に繋がる可能性が考えられます。実際、ヒトのSatb1遺伝子付近の突然変異は自己免疫疾患と関連があります。これら病因の理解はより効果的な治療法模索に役立つと期待できます。
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坂口 志文(さかぐち しもん)
大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)
実験免疫学 特任教授(常勤)
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URL:http://exp.immunol.ifrec.osaka-u.ac.jp
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掲載日 平成28年12月20日
最終更新日 平成28年12月20日