プレスリリース 筋肉の障害や筋力低下をきたす難病『先天性ミオパチー』の新たな原因遺伝子を発見

平成28年12月23日プレスリリース

公立大学法人横浜市立大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

横浜市立大学附属病院 遺伝子診療部 宮武聡子助教、横浜市立大学学術院医学群 遺伝学 松本直通教授らは、先天性ミオパチー*1の一型である、ネマリンミオパチーの新たな疾患責任遺伝子を発見しました。2013年のネマリンミオパチーの新規責任遺伝子KLHL40の同定に引き続く研究成果で、本疾患の診断や臨床診療へのさらなる貢献が期待されます。

この研究は、同大学生化学教室 椎名政昭助教、緒方一博教授、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 三橋里美医師、西川敦子医師、埜中征哉医師、西野一三部長、東京医科大学 林由起子教授、独立行政法人国立病院機構 東埼玉病院 鈴木幹也医長、谷田部可奈医長、田中裕三医師、尾方克久臨床研究部長、川井充院長、独立行政法人国立病院機構 鈴鹿病院 久留聡臨床研究部長、神奈川県立こども医療センター臨床研究所 鶴崎美徳主任研究員、浜松医科大学医化学講座 才津浩智教授、テネシー大学ヘルスサイエンスセンター小児科Enkhsaikhan Purevjav准教授、Jeffrey Towbin教授らと共同で行われました。

研究成果のポイント

  • 全エキソーム解析*2で常染色体劣性遺伝性を示す小児期発症、緩徐進行性のネマリンミオパチーの原因遺伝子MYPNを同定した。
  • MYPN遺伝子変異によっておこるネマリンミオパチーは、臨床的には比較的軽症の経過を示す。また病理学的に核内棒状封入体を認めたり、心筋障害を合併したりするなど特徴的な臨床像を示す。
  • 骨格筋には、筋サルコメア*3という構造物があり、サルコメアが伸び縮みすることで筋収縮が起こる。MYPN遺伝子によって作られるタンパク質も筋サルコメアの構成成分である。患者の骨格筋ではこのタンパク質がほとんど消失しており、これがミオパチーの発症につながると考えられる。
  • 人工的にMYPN遺伝子の変異を導入したマウスでは、骨格筋のサルコメアに微細な構造異常を認め、ヒトでみられる軽症のミオパチーに合致する病態が再現された。

研究概要

ネマリンミオパチーは先天性ミオパチーの中で頻度の高い疾患です。筋肉の収縮に関係する構造タンパク質が壊れるため、全身の筋力低下をきたし、ネマリン小体と呼ばれる凝集体が筋線維内に出現します。心筋にはほとんど障害をきたさないとされています。またネマリンミオパチーの中で、核内棒状封入体をもつサブタイプがありますが、これまではACTA1遺伝子変異を持つ重症例でのみ認められる所見と考えられてきました。

ネマリンミオパチーの原因遺伝子としては、2013年に宮武助教、松本教授らが同定したKLHL40を含めてこれまで10個の遺伝子が特定されてきましたが、本疾患の約25~30%の症例ではその遺伝学的原因は不明とされていました。

本研究で、宮武助教、松本教授らのグループは、血族婚が背景にあって、核内棒状封入体をもつ小児期発症のネマリンミオパチー症例に全エキソーム解析を行い、MYPN遺伝子の劣性変異を見出しました。その後、病理学的にネマリンミオパチーと診断され、遺伝学的原因が不明な54家系の解析を行い、さらに3家系(5.6%)に本遺伝子の劣性変異がみつかったことから、MYPNがネマリンミオパチーの新規原因遺伝子であることを突き止めました。

今回見つかった合計4家系はいずれも小児期発症で比較的軽症であり、緩徐進行性のミオパチーを呈しており、2家系で心筋障害の合併、2家系の筋病理所見で核内棒状封入物が認められるという特徴がありました。

MYPN遺伝子が作るタンパク質は筋サルコメアを構成するタンパク質の1種で、本遺伝子に変異を持つ患者では、このタンパク質が筋線維内でほとんど消失していました。

本遺伝子のナンセンス変異をホモ接合性にもつマウスモデルを作製すると、その骨格筋では筋サルコメアに微細な構造異常や、ネマリン小体様の凝集物が電子顕微鏡下に確認され、ネマリンミオパチーの病態が再現できました。本遺伝子の変異によってヒトで軽症のネマリンミオパチーが起こることを考えると、このマウスの所見はヒトで見られる疾患の重症度と合致していると考えられました。

本研究成果により、ネマリンミオパチーの早期診断、早期の適切な治療介入にさらに貢献できる可能性があります。またその病態解明が進めば、ネマリンミオパチーに対する新しい治療法の開発にも寄与することが期待されます。

注釈

*1 先天性ミオパチー:
生まれながらに筋組織の形態に異常があり、生後すぐ、もしくは乳児期~小児期以降に、筋緊張低下や筋力低下などの症状を認める難病で、国内におよそ1,000~3,000名の患者さんがいると推定される。
*2 全エキソーム解析:
ゲノムの蛋白質を決める部分(エクソン)のDNA配列を次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析する方法。
*3 筋サルコメア:
骨格筋の筋線維内には筋原線維と呼ばれる収縮性の構造体が多数並んでいる。筋原線維の最小構成単位がサルコメアで、この中にアクチンとミオシンフィラメントが並行に、一部重なりをもって配置されている。

説明図・1枚目(説明は図の下に記載)
図1 同定されたMYPN遺伝子変異。上段がMYPNタンパク質の構造を示す。グレーのボックスはコイルドコイルドメイン、黒のボックスはIgドメイン。筋サルコメア構成たんぱく質であるCARP、ネブリン、及びα-アクチニンとの結合領域を有する。下段には同定されたMYPN遺伝子変異を変異タンパク質とともに示す。4家系ともMYPNたんぱく質が消失する劣性遺伝性変異が見つかった。
説明図・2枚目(説明は図の下に記載)
図2 上段 症例1~4の骨格筋ヘマトキシリン(HE)染色像。症例1では、筋線維のサイズに顕著なばらつきがみられ、筋線維が間質結合組織及び脂肪組織(F)に置換されている。症例2~4では、筋線維のサイズの不均一性は軽度~中等度であり、小さく角張った線維が散在している。中段 ゴモリトリクローム変法(mGT)染色像。ネマリン小体(矢印)が観察された。核内棒状封入物(丸で囲んだ部分)が症例1、4で観察された。下段 電子顕微鏡像。ネマリン小体(矢印)が症例2、3で確認された。症例4では、核内棒状封入物(症例4挿入図)が観察された。
説明図・3枚目(説明は図の下に記載)
図3 健常コントロールおよび症例2~4の骨格筋の免疫組織化学染色像。健常コントロールの筋線維には緑色に染色されるMYPNタンパク質が存在。症例2~4ではMYPNタンパク質が消失。
説明図・4枚目(説明は図の下に記載)
図4 マウス疾患モデルにおける骨格筋解析。左a,b:Mypnナンセンス変異をヘテロ接合性に有するモデルマウスの骨格筋電子顕微鏡像。筋サルコメア構造は正常。右c,d,e,f:ホモ接合性マウスでは筋サルコメア構造が乱れ(c,d)、ネマリン小体様の凝集物がみられた(e,f)。

特記事項

※本研究成果は、米国の科学雑誌『The American Journal of Human Genetics』に掲載されます。(米国時間12月22日正午付:日本時間12月23日午前2時付発表)

※この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業、厚生労働省、文部科学省、科学技術振興機構、日本学術振興会の研究補助金、横浜市立大学先端医科学研究センター「研究開発プロジェクト」によって行われました。

※本研究は、横浜市立大学遺伝学・輿水江里子研究員、中島光子助教、水口剛助教、三宅紀子准教授の協力を得て行われました。

お問い合わせ先

本資料の内容に関するお問い合わせ

横浜市立大学 附属病院 遺伝子診療部 助教 宮武 聡子
横浜市立大学 学術院 医学群 遺伝学 教授 松本 直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail:miyatake“AT”yokohama-cu.ac.jp (宮武)、naomat“AT”yokohama-cu.ac.jp (松本)

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横浜市立大学 研究企画・産学連携推進課長 渡邊 誠
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最終更新日 平成28年12月23日