プレスリリース 最先端量子ドット技術でマウス生体内の脂肪由来幹細胞イメージングを実現―4Kディスプレイ・太陽電池技術を再生医療に応用展開―

プレスリリース

国立大学法人名古屋大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

名古屋大学大学院工学研究科(研究科長:新美智秀)化学・生物工学専攻の馬場 嘉信(ばば よしのぶ)教授、湯川 博(ゆかわ ひろし)特任講師らの研究グループは、同研究科結晶材料工学専攻の鳥本 司(とりもと つかさ)教授の研究グループ及び、同大学院医学系研究科(研究科長:高橋雅英)医療技術学専攻の石川 哲也(いしかわ てつや)教授の研究グループらと共に、4Kディスプレイや太陽電池に応用されている最先端量子ドット技術を駆使して、iPS細胞等の幹細胞に対してより安全な量子ドットZnS-ZAIS-COOH(ZZC)を開発しました。またこれを用いて、マウス生体内の移植幹細胞を高感度可視化(イメージング)することにも成功しました。 

通常、有機系色素や蛍光タンパク質は、蛍光強度が低く安定性も乏しいため、これら蛍光プローブを利用して生体内の移植幹細胞を高感度にイメージングすることは極めて困難でした。一方、従来の量子ドットにはカドミウム等が含まれているため、幹細胞や生体への毒性が懸念され、利用に制限があります。

今回開発した量子ドットZZCは、カドミウム等の毒性成分を含まないため、従来の量子ドットと比較して細胞毒性が100分の1程度まで大きく低減され、且つ、低コストでの大量生産も可能となります。この開発した量子ドットZZCを用いることで、より安全な幹細胞標識に加え、高感度な生体内の移植幹細胞イメージングを実現することができました。これにより、多くの幹細胞を標識して追跡する必要がある前臨床試験での利用が、低コストで可能となり、今後の再生医療の実現・加速に大きく貢献できると期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)における再生医療実現拠点ネットワークプログラムの成果であり、将来的には、iPS細胞等の幹細胞を利用した再生医療の前臨床研究への貢献が期待されます。

本研究成果は、英国科学誌「Scientific Reports」に2017年1月6日午前10時(英国時間)(電子版)に掲載されます。

ポイント

再生医療において、生体内に移植した幹細胞や幹細胞からの分化細胞を高感度にイメージングできる技術の構築として、

  • 4Kディスプレイや太陽電池に利用されている最先端量子技術を駆使し、iPS細胞などの幹細胞や生体に対して、より安全な量子ドットを新たに開発した。
  • 高感度に生体内の移植幹細胞をイメージングすることに成功した。
  • 前臨床試験において、低コストで多くの幹細胞を標識して追跡することが可能となる。

背景

再生医療のなかでも、組織・臓器再生による治療が未だ困難な疾患(肺疾患、肝疾患など)に対し、幹細胞移植治療が果たす役割は非常に大きいものと期待されています。実際、種々の体性幹細胞(骨髄・脂肪由来幹細胞)、そして、これら幹細胞やiPS細胞から分化誘導により獲得された前駆細胞や成熟細胞を移植する細胞移植治療が実用化に向けて開発が進められています。しかし、安全性を確保し、治療効果を最大限に引き出すためには、移植幹細胞の生体内動態や集積組織・臓器を正確にイメージングし、その診断結果に基づく治療手段の最適化、改良が必要となります。ただし、生体内にある移植幹細胞を高感度にイメージングできる技術は確立されていないのが現状です。

研究内容

当研究グループでは、従来の蛍光プローブとは全く異なり、超高精細、超高感度、超長寿命、省エネ、低コストを実現し、現在、4K・8Kディスプレイや太陽電池に利用されている最先端量子ドット技術を応用し、iPS細胞等の幹細胞に対してより安全な量子ドットZnS-ZAIS-COOH(ZZC)を開発しました。開発した量子ドットZZCは、カドミウム等の毒性成分を含まないため、従来の量子ドットと比較して細胞毒性が100分の1程度に大きく低減され、且つ、低コストでの大量生産も可能になりました。これにより、多くの幹細胞を標識して追跡する必要がある前臨床試験での利用が可能になると期待されます。

成果の意義

本研究成果は、再生医療の実現化に向けて大きな課題となっている移植幹細胞の生体内挙動、組織・臓器への生着をイメージング・診断できる新しい技術として、再生医療の実現・加速に大きく貢献できると期待されます。本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)における再生医療実現拠点ネットワークプログラムの成果であり、臨床応用に向けた開発を進める機関(疾患・組織別実用化研究拠点、再生医療の実現化ハイウェイ課題等)の先生方にも直ちに利用・実証頂ける体制が構築されており、再生医療の更なる発展・進展に貢献できる成果として期待されます。

用語説明

量子ドット:
主に、半導体材料からなるナノ粒子で、電子がナノ空間に三次元全ての方向から閉じ込められた状態のもの。光(励起光)を照射すると、強い蛍光を示す。粒径により蛍光の波長を制御できる特長を有する。
幹細胞:
組織・臓器に存在する細胞に変化(分化)する前の未分化細胞やiPS細胞。

論文名

Labeling and in vivo visualization of transplanted adipose tissue-derived stem cells with safe cadmium-free aqueous ZnS coating of ZnS-AgInS2 nanoparticle

カドミウムを含有しない安全な量子ドットZZCによる移植幹細胞in vivo蛍光イメージング

Yusuke Ogihara, Hiroshi Yukawa, Tatsuya Kameyama, Hiroyasu Nishi, Daisuke Onoshima, Tetsuya Ishikawa, Tsukasa Torimoto, and Yoshinobu Baba

Scientific Reports, 2016, in press. (Nature Publishing Group)

説明図

説明図・1枚目(説明は図の下に記載)図1. 開発した量子ドットZnS-ZAIS-COOH(ZZC)の蛍光特性
説明図・2枚目(説明は図の下に記載)図2. ZZCによるマウス臓器(肺:左、肝臓:右)内の移植幹細胞イメージング
上図:矢印がZZCで標識した幹細胞
下図:緑色が血管、赤色が標識細胞

お問い合わせ

研究に関すること

名古屋大学大学院工学研究科
湯川 博・特任講師
TEL:052-789-5654 FAX:052-789-5117
E-mail:h.yukawa“AT”nanobio.nagoya-u.ac.jp

報道担当

名古屋大学総務部広報渉外課
TEL:052-789-2699  FAX:052-788-6272
E-mail:kouho“AT”adm.nagoya-u.ac.jp

AMED再生医療実現拠点ネットワークプログラムに関すること

日本医療研究開発機構 戦略推進部 再生医療研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
TEL: 03-6870-2220
E-mail:saisei”AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成29年1月6日

最終更新日 平成29年1月6日