プレスリリース C型肝炎ウイルス排除後の肝発癌に関わる遺伝要因(体質)を発見
プレスリリース
公立大学法人名古屋市立大学
国立大学法人東京大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
近年、C型肝炎ウイルス(HCV)感染症に対する治療法は劇的に進歩し、従来使用されてきたインターフェロンを用いない直接作用型抗ウイルス薬の組み合わせにより著効率は90%を超え、難治であった肝硬変患者においても同等の治療効果が得られるようになりました。ウイルス排除により、肝発癌リスクは減少しますが、完全にリスクが消失することはないため(5年累積肝発癌率2.3~8.8%)、ウイルス排除後の発癌の予測・予防が重要な課題となっていました。
この度、名古屋市立大学大学院医学研究科の田中靖人教授、松浦健太郎研究員は、東京大学大学院医学系研究科の徳永勝士教授との共同研究により、HCV排除後の肝発癌に関わる遺伝要因を世界で初めて発見することに成功しました。我々が発見した「TLL1(トロイド様遺伝子1)」という遺伝子型を測定することによって、HCV排除後の肝発癌リスクの高い患者群を絞り込むことが可能となり、肝癌の早期発見・治療につながるものと考えられます。また、さらなる研究によりHCV排除後やその他の疾患(B型肝炎、非アルコール性脂肪性肝炎、糖尿病など)を原因とする肝発癌のメカニズムの解明、新規の治療法の開発も期待できます。
研究成果は、米国科学誌「Gastroenterology(ガストロエンテロロジ―)」電子版に2017年2月3日午後3時(米国東部時間)[日本時間2月4日午前5時]に掲載されました。
ポイント
- 近年、C型肝炎に対する治療法は劇的に進歩し、ほとんどの患者においてウイルスが排除できるようになりましたが、ウイルス排除後も肝癌になりやすい人を見分けることが重要です。
- 本研究では、ゲノムワイド関連解析により、C型肝炎ウイルス排除後の肝癌発症に強く関連するTLL1遺伝子内に位置する一塩基多型(SNP)を世界で初めて発見しました。
- このTLL1 SNPの遺伝子型を測定することによって、C型肝炎ウイルス排除後の肝発癌リスクの高い患者群を絞り込むことが可能となり、肝癌の早期発見・治療につながることが期待できます。
研究成果の概要
名古屋市立大学大学院医学研究科の田中靖人教授、松浦健太郎研究員は、東京大学大学院医学系研究科の徳永勝士教授、東北大学東北メディカル・メガバンク機構他、全国の研究機関および大学病院・基幹病院との共同研究により、C型肝炎ウイルス(HCV)排除後の肝発癌に関わる遺伝要因を世界で初めて発見することに成功しました1)。研究グループは、抗ウイルス療法によりHCVを排除した943名の患者(肝発癌例vs.非発癌例)の血液検体・臨床情報を全国の共同研究施設より収集し、ゲノムワイド関連解析法(GWAS:genome-wide association study)を用いて全遺伝子にわたって約60万カ所の塩基配列の違いを解析しました。その結果、4番染色体に位置し、TLL1遺伝子内に存在する一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)が肝発癌に強く関連することを見出しました(リスク比=2.37, P=2.66×10-8)。
さらに、詳細に臨床データを解析したところ、このTLL1 SNPの遺伝子型と従来報告されている危険因子を組み合わせることにより、より明確に肝発癌を予測するモデルを構築することに成功しました。この遺伝子は、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-alcoholic steatohepatitis)から肝線維化・肝癌を引き起こすモデル動物で誘導され、実際のC型慢性肝炎患者でも肝線維化進展に伴って上昇することが明らかとなりました。すなわち、TLL1は肝星細胞活性化あるいは肝線維化進展に伴って強く誘導され、従来、肝癌は肝線維化の進展した状態(肝硬変)から発症しやすいことが知られていることから、TLL1遺伝子は主に肝線維化進展を介して肝発癌に寄与している可能性が示唆されました(図1)。
本研究の成果により、臨床面においては、今回同定したTLL1遺伝子型を測定することによって、HCV排除後の肝発癌リスクの高い患者群を絞り込むことが可能となり、肝癌の早期発見・早期治療につながるものと考えられます(図2)。また、さらなる研究により、HCV排除後やその他の疾患(B型肝炎、NASH、糖尿病など)を原因とする肝発癌のメカニズムの解明、新規の治療法の開発も期待されます。


なお、TLL1遺伝子型の分布は国際HapMapプロジェクトのデータにもとづく
文献
2) Hiramatsu N, et al. Hepatol Res. 2015;45:152-61, Review.
研究助成
論文タイトル
「ゲノムワイド関連解析によるC型肝炎ウイルス排除後の肝発癌に関わるTLL1遺伝子の同定」
著者
掲載学術誌
共同研究/協力施設
- 研究機関:
- 名古屋市立大学1, 東京大学2, 国立遺伝学研究所3, 東北大学東北メディカル・メガバンク機構4.
- 大学病院・基幹病院:
- 北海道大学5, 山形大学6, 東北大学7, 東京医科歯科大学8, 武蔵野赤十字病院9,おおたかの森病院10, 山梨大学11, 順天堂大学医学部附属静岡病院12, 金沢大学13, 信州大学14, 岐阜大学15, 岐阜県総合医療センター16, 岐阜市民病院17, 大垣市民病院18, 名古屋第二赤十字病院19,京都府立医科大学20, 奈良県立医科大学21, 大阪市立大学22 兵庫医科大学23, 川崎医科大学24, 山口大学25, 徳島大学26, 香川県立中央病院27, 愛媛大学28, 九州大学29, 製鉄記念八幡病院30, 久留米大学31, 長崎医療センター32
お問い合わせ先
研究全般に関するお問い合わせ先
名古屋市立大学大学院医学研究科教授 田中靖人
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
Tel:052-853-8191 Fax:052-842-0021
E-mail:ytanaka“AT”med.nagoya-cu.ac.jp
東京大学大学院医学系研究科
教授 徳永勝士
〒113-0033 東京都文京区本郷7-3-1
Tel:03-5841-3692 Fax:03-5802-2907
E-mail:tokunaga“AT”m.u-tokyo.ac.jp
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(肝炎等克服実用化研究事業 担当)
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-7-1
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E-mail:hepatitis“AT”amed.go.jp
※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成29年2月6日
最終更新日 平成29年2月6日