プレスリリース 腎性尿崩症の新たな発症メカニズムを発見―胎児・乳児期の環境ストレスは腎性尿崩症を引き起こす―
プレスリリース
国立大学法人東北大学大学院 医学系研究科
国立大学法人東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
国立大学法人東北大学大学院 薬学研究科
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
研究概要
東北大学大学院医学系研究科の鈴木隆史講師(医化学分野)、山本雅之教授(医化学分野・東北メディカル・メガバンク機構 機構長)らは、腎臓の発生期における遺伝子発現の制御因子(転写因子と呼びます)Nrf2の過剰な活性化が腎性尿崩症※を引き起こすことを発見しました。
これまでの研究で、全身で常にNrf2を高レベルで発現する遺伝子改変マウスを作製すると、マウスは食道閉塞による母乳摂取不全のため生後間もなく死亡してしまうことがわかっていました。そこで今回、従来は生後すぐに死亡してしまっていた、全身で常にNrf2を高レベル発現するマウスにおいて、食道におけるNrf2発現だけを特異的に抑制して、その時点での死亡を回避したマウスを作出しました。そうしたところ、このマウスは期待通り成獣まで生存が可能になり、食道以外の全身でのNrf2高レベル発現の影響を調べることが可能になりました。
本研究では、このように複数の作用点を持つ転写因子を欠失したマウスが最初の作用点で致死になってしまった際に、従来不可能であった次の作用点を発見する手法を新たに開発しました。この新たに作出したマウスをNEKOマウスと命名し、詳しく調べたところ、腎臓におけるKeap1欠失とそれが惹起するNrf2の過剰活性化が、腎性尿崩症を引き起こすことを発見しました。さらに、この腎性尿崩症の発症には腎臓の発生期におけるNrf2の過剰活性化が重要であることがわかりました。本研究の成果から、腎臓が形成される時期の過剰な環境ストレスへの暴露は腎性尿崩症を引き起こすリスクがあることが示唆されます。
この成果は2017年2月24日(日本時間24日午後7時)以降に英国科学雑誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されます。
本研究の背景
本研究の成果
今後の展望
また、Nrf2は酸化ストレスなどに対する生体保護に働くため、Nrf2活性化剤は腎臓を含む様々な臓器を対象に、疾患の予防や治療に応用されることが期待されています。本研究の知見は、妊婦・乳幼児がNrf2活性化剤を服用すると後天的な腎性尿崩症を発症するリスクがあることを示唆していますので、この知見は今後のNrf2活性化剤の開発において役立つことが期待されます。
研究について
用語解説
- ※腎性尿崩症:
- 腎臓の腎尿細管細胞の抗利尿ホルモンに対する反応の障害により尿の濃縮ができず、大量の希釈尿の排泄に至る疾患。
論文名
Hyperactivation of Nrf2 in early tubular development induces nephrogenic diabetes insipidus
「尿細管発生初期におけるNrf2の過剰な活性化は腎性尿崩症を引き起こす」
掲載予定誌: Nature Communications
研究施設と研究者
本研究は、東北大学に所属する10名の研究者による、共同研究として実施されました。
- 東北大学大学院医学系研究科 医化学分野
鈴木隆史(講師)、関詩織(大学生)、平本圭一郎(大学院生)、長沼絵理子(技術補助員)、小林枝里(助教)、山岡彩香(大学院生)、Liam Baird(助教)、山本雅之(教授) - 東北大学大学院薬学系研究科 臨床薬学分野
高橋信行(准教授)、佐藤博(教授) - 東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
山本雅之(機構長)
お問い合わせ先
研究に関すること
東北大学大学院医学系研究科 医化学分野
東北メディカル・メガバンク機構長
教授 山本 雅之(やまもと まさゆき)
電話番号:022-717-8084
Eメール:masiyamamoto”AT”med.tohoku.ac.jp
報道に関すること
東北大学東北メディカル・メガバンク機構
広報戦略室
大学院医学系研究科 医学部広報室
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
FAX番号:022-717-7923
Eメール:f-nagami”AT”med.tohoku.ac.jp
AMEDに関すること
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 研究企画課
電話番号:03-6870-2224
FAX番号:03-6870-2243
Eメール:kenkyuk-ask”AT”amed.go.jp
※Eメールは上記アドレス”AT”の部分を@に変えてください。
掲載日 平成29年2月24日
最終更新日 平成29年2月24日