プレスリリース 細菌感染時の白血球の分化を制御する仕組みを発見―造血幹細胞から自然免疫系の細胞を優先して作る機構―

プレスリリース

国立大学法人東北大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究概要

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野 五十嵐和彦(いがらしかずひこ)教授、同加齢医学研究所遺伝子導入研究分野 伊藤亜里(いとうあり)助教らのグループは、細菌感染時に、細菌を貪食して排除する白血球の一種であるマクロファージが造血幹細胞から優先的に作られる分子メカニズムを明らかにしました。白血球分化のバランス制御の仕組みを明らかにすることは、感染症や様々な免疫関連疾患のより深い理解につながることが期待されます。

本研究成果は、2017年3月7日正午(米国東部標準時、日本時間3月8日午前2時)Cell Reports誌(電子版)に掲載されます。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金および国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED-CRESTなどの支援を受けて行われました。

研究のポイント

  • 細菌感染時にマクロファージが優先的に作られることが知られているが、その仕組みは不明だった。
  • 造血幹細胞や多能性前駆細胞において、転写因子Bach2とC/EBPβはお互いに抑制し合い、白血球分化のバランスを調節している。
  • 細菌感染時に二つの転写因子のバランスが変化し、造血幹細胞や多能性前駆細胞がマクロファージに分化しやすくなることが明らかになった。

研究内容

私たちの体内では、血液を流れる白血球が病原体に対する防御を担っています。白血球は、感染初期に活性化され病原菌を貪食して排除するマクロファージと、感染の後期に抗体を産生して病原菌の動きを止めるリンパ球に大別できます(図1)。この二つの種類の細胞は、どちらも造血幹細胞から分化し、この細胞分化は遺伝子の発現を調節するタンパク質(転写因子)によって制御されています(図2)。これまでに、細菌感染に応答してマクロファージへの分化が優先的になり、最初の防御機構が働き出すことが知られていましたが、この時、造血幹細胞で何がおきているのか、不明な点が多く残っていました。

今回の研究により、造血幹細胞においてお互いに抑制し合う2つの転写因子注1(Bach2およびC/EBPβ)が働いており、細菌のリポ多糖に応答して分化がマクロファージ側に傾くことが明らかになりました。リポ多糖注2が造血幹細胞の表面にある受容体に結合すると、マクロファージで働く遺伝子群の発現を抑える転写因子Bach2の量が減り、逆にマクロファージ遺伝子の発現を促進する転写因子C/EBPβの量が増加しました。マクロファージへの分化は、マクロファージコロニー刺激因子注3(M-CSF)というタンパク質が、造血幹細胞表面に存在する受容体に結合して促進されます。このM-CSF受容体をつくる遺伝子の発現に対しても、Bach2は抑制に、C/EBPβは促進に、逆の方向に作用することも明らかになりました。さらに、 Bach2とC/EBPβは、互いの発現を抑制しあうシーソー関係にあることが明らかとなりました(図3)。Bach2遺伝子を破壊したマウスでは、リポ多糖(LPS)刺激によるマクロファージへの分化が野生型マウスよりも増強し、逆にリンパ球への分化は減少する傾向が認められました(図4)。

以上の結果より、Bach2とC/EBPβの相互抑制的な関係によって、マクロファージとリンパ球の分化のバランスが調節され、細菌に応答してBach2が減少し、C/EBPβが上昇することで、幹細胞や多能性前駆細胞の分化の方向がマクロファージに向かうと考えられます。

今回の発見は、細菌感染の際の白血球の分化の仕組みの一端を明らかにしたものです。白血球の分化バランスの制御の仕組みを明らかにすることは、感染症の重篤化や慢性炎症など、様々な免疫関連疾患の詳細な理解につながることが期待されます。

本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金および国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED-CRESTなどの支援を受けて行われました。

用語説明

注1.転写因子:
DNAに結合して遺伝子の発現を制御するタンパク質。遺伝子の活性化・不活性化のスイッチとして働く。
注2.リポ多糖(LPS):
細菌の構成成分である脂質と多糖が結合した分子。細菌由来の毒素であり、細胞に作用して様々な生物活性を引き起こす。
注3.マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF):
造血幹細胞を刺激して、マクロファージの分化を促進させる作用を持つタンパク質。

説明図・1枚目(説明は本文中に記載)図1. 自然免疫と獲得免疫の活性化
説明図・2枚目(説明は本文中に記載)図2. 造血幹細胞からの白血球の分化
説明図・3枚目(説明は本文中に記載)図3. マクロファージ分化促進の分子メカニズム

細菌感染時には、Bach2とC/EBPβバランスが変化し、M-CSF受容体の発現が高まり、マクロファージ分化が優先的に生じる
説明図・4枚目(説明は本文中に記載)図4.Bach2欠損マウスのマクロファージ・リンパ球分化におけるLPSへの応答
野生型とBach2欠損マウスにリポ多糖LPSを注射し、1週間後に骨髄の細胞の割合を調べた。野生型マウスでは、ミエロイド細胞(マクロファージ)分化が亢進し、B細胞への分化が減少傾向にあった。Bach2遺伝子欠損マウスではこの応答が増強した。

論文題目

Title:A Bach2-Cebp gene regulatory network for the commitment of multipotent hematopoietic progenitors
Authors:Ari Itoh-Nakadai, Mitsuyo Matsumoto, Hiroki Kato, Junichi Sasaki, Yukihiro Uehara, Yuki Sato, Risa Ebina-Shibuya, Mizuho Morooka, Ryo Funayama, Keiko Nakayama, Kyoko Ochiai, Akihiko Muto, and Kazuhiko Igarashi.

タイトル:「転写因子Bach2とCebpの転写ネットワークは多能性前駆細胞の運命を調節する」
著者:伊藤亜里、松本光代、加藤浩貴、佐々木純一、上原千弘、佐藤勇樹、渋谷里紗、諸岡瑞穂、舟山亮、中山啓子、落合恭子、武藤哲彦、五十嵐和彦

掲載誌:Cell Reports

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学大学院医学系研究科生物化学分野
教授 五十嵐 和彦(いがらし かずひこ)
電話番号:022-717-7596
Eメール:igarashi“at”med.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学大学院医学系研究科・医学部広報室
講師 稲田 仁(いなだ ひとし)
電話番号:022-717-7891
FAX番号:022-717-8187
Eメール:pr-office“at”med.tohoku.ac.jp

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※Eメールは上記アドレス“at”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成29年3月8日

最終更新日 平成29年3月8日