プレスリリース DNAメチル化の網羅的解析によってエピゲノム多様性を解読―個別化予防・個別化医療に貢献可能―

プレスリリース

岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
日本医療研究開発機構

研究のポイント

岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)生体情報解析部門の清水厚志特命教授、八谷剛史特命准教授を中心とした研究チームは、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と共同で、日本人100人規模の2種類の血液細胞のDNAのメチル化を網羅的かつ高精度に解析することでエピゲノムの多様性を解読し、個人差の大きいDNAメチル化部分が疾患発症により大きく影響している可能性が高いことを初めて解明しました。この成果を国際科学雑誌 Genomic Medicine に2017年4月14日付(オンライン公開)で発表いたしました。

今後、東北メディカル・メガバンク計画において日本人のエピゲノム多様性情報の収集を継続するとともに、生活習慣・血液検査・疾患発症などとの関連性を調べることで、環境要因によるDNAメチル化の変化が生活習慣病・がん・うつなどの発症に及ぼす影響が解明され、これらの疾患の予防・早期診断・治療に大きく貢献することが期待されます。

概要

岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM、機構長 佐々木真理)では、東日本大震災の復興支援事業である東北メディカル・メガバンク計画の一環として、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED、理事長 末松誠)の支援の下、岩手県の被災地を中心とした大規模健康調査を行い、地域医療の復興に貢献するとともに、個別化医療等の次世代医療体制の構築を目指しています。

近年、遺伝子の配列を変えずに化学修飾によって働きを制御する「エピゲノム」が注目されています。エピゲノムの一つであるDNAメチル化*1は、細胞分化の主役である一方、喫煙・飲酒・ストレスなどの環境要因によって異常が生じ、生活習慣病・がん・うつなどの種々の疾患の誘因となっていることが明らかになってきました。

そこで、私たちは疾患とDNAメチル化との関連性を明らかにするため、当計画にご参加いただいている約100名の方から血液をご提供いただき、2種類の血液細胞(単球*2とCD4陽性Tリンパ球*3)から2,400万か所のDNAメチル化状態を測定し、細胞ごとに個人間の違い(エピゲノム多型)を明らかにしました(図1)。

続いて、私たちが発見したDNAメチル化の個人差が特に大きい部位(CDMV, common DNA methylation variation)と統合失調症や2型糖尿病などの既知のエピゲノム疾患マーカーとの関連性について調査した結果、従来の研究対象部位よりもCDMVの方が疾患マーカーとの関連が大きいことが判明しました(図2)。

図1:DNAメチル化によるエピゲノム多型
今回の全ゲノム・エピゲノム解析によって、DNAメチル化には個人差の少ない部分と大きな部分(CDMV)が存在することが明らかになりました。
図2:種々のDNAメチル化測定法と既知のエピゲノム疾患マーカーの関連

私たちの見出したCDMVは、従来の測定対象(HM450, EPIC, SureSelect, CpGiant, RRBS)と比し、既知のエピゲノム疾患マーカーと強く関連していることがわかります。

これまでに疾患と関わる数万の遺伝子配列の個人差(ゲノム多型)が同定されていますが、ゲノム多型のみでは疾患の発症について十分に説明することができませんでした。今回、エピゲノム多様性の大きな部位が疾患と関連する可能性が高いことが判明したことから、今後効率的なエピゲノム解析が可能となり、疾患発症機序の解明や発症予測の精度向上につながることが期待できます。

まとめと今後の展望

今回我々は日本人100人の2種類の血液細胞における全エピゲノム解読を行い、DNAメチル化の個人差の大きな部位(CDMV)が疾患と強い関連がある可能性が高いことを明らかにしました。東北メディカル・メガバンク計画では、平成29年度より詳細二次調査を開始します。生活習慣や健康状態、DNAメチル化の変化や関連を調査することで、生活習慣の改善がDNAメチル化に与える影響などを明らかにし、個別化予防の実現につなげていきたいと考えています。

これらの研究成果を広く利用していただくため、IMMのウェブサイトにおいてDNAメチル化の頻度や平均、分散の大きさなどを「3層オミックス参照パネル」として公開しております。また、本公開に合わせてこれらのデータを利用した共同研究の募集を開始いたします。詳細につきましては後日ウェブサイトにて発表いたします。

用語解説

*1 DNAメチル化
主にDNAのC(シトシン)塩基にメチル基(-CH3)が結合した状態を指し、第五の塩基と称されることもあります。
*2 単球
細菌やウイルス等の異物を内部に取り込み分解する細胞で、炎症などと深い関係があります。
*3 CD4陽性Tリンパ球
ヒトの免疫系の司令塔で、ヘルパーT細胞とも呼ばれます。単球やマクロファージから異物の情報を受け取り、B細胞に抗体を産生する指示を与えるなどの役割があります。

東北メディカル・メガバンク計画について

本計画は、東日本大震災の復興支援事業として、健康調査等を通じて被災地域の医療復興と地域医療のさらなる充実をめざすとともに、ゲノム・エピゲノムを含むバイオバンクの構築と解析を実施して東北発の次世代医療の実現につなげます。本計画の事業は、岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構と東北大学東北メディカル・メガバンク機構とが連携して実施しています。平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構からの支援を受けています。

論文題目

English Title :
Genome-wide identification of inter-individually variable DNA methylation sites improves the efficacy of epigenetic association studies
Authors :
Tsuyoshi Hachiya, Ryohei Furukawa, Yuh Shiwa, Hideki Ohmomo, Kanako Ono, Fumiki Katsuoka, Masao Nagasaki, Jun Yasuda, Nobuo Fuse, Kengo Kinoshita, Masayuki Yamamoto, Kozo Tanno, Mamoru Satoh, Ryujin Endo, Makoto Sasaki, Kiyomi Sakata, Seiichiro Kobayashi, Kuniaki Ogasawara, Jiro Hitomi, Kenji Sobue and Atsushi Shimizu
Journal Name :
Genomic Medicine
日本語タイトル:
全ゲノム規模の個人毎のDNAメチル化部位の変動部位の同定はエピゲノム関連解析の有効性を改善できる

お問い合わせ先

研究内容に関して

清水 厚志
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 生体情報解析部門 特命教授
TEL:019-651-5111(内線5472) E-mail:ashimizu“AT”iwate-med.ac.jp

報道に関して

遠藤 龍人
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構 広報・企画部門 部門長
TEL:019-651-5111(内線5509) E-mail:ryuendo“AT”iwate-med.ac.jp

長神 風二
東北大学東北メディカル・メガバンク機構 広報戦略室 室長
TEL:022-717-7908 E-mail:f-nagami“AT”med.tohoku.ac.jp

AMED事業に関して

国立研究開発法人日本医療研究開発機構 基盤研究事業部
TEL:03-6870-2228 E-mail:kiban-kenkyu“AT”amed.go.jp

※Emailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成29年4月21日

最終更新日 平成29年4月21日