プレスリリース 牛難治性疾病の制御に応用できる免疫チェックポイント阻害薬 (抗PD-L1抗体)の開発にはじめて成功

プレスリリース

国立大学法人北海道大学
国立大学法人東北大学
北海道立総合研究機構・農業研究本部畜産試験場
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  • 牛白血病ウイルスに感染したウシでは,免疫チェックポイント因子(Programmed cell death-1 [PD-1]やProgrammed death-ligand 1 [PD-L1])によって抗ウイルス免疫が抑えられていることを解明。
  • 免疫チェックポイント阻害薬(抗ウシPD-L1キメラ抗体)を開発し,PD-1とPD-L1の結合を阻害すると抗ウイルス免疫が回復することを生体外試験(in vitro)で確認。
  • 開発した抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシへ接種すると,生体内(in vivo)で抗ウイルス免疫を増強し,ウイルス量を減少させることに成功。
  • 牛白血病をはじめとした牛難治性疾病に対する新規制御法として期待。

研究成果の概要

家畜の伝染病においてワクチンが樹立されている疾患はごくわずかです。牛難治性疾患に対するワクチン開発においては,接種した動物で期待された効果が認められない事象は非常に多く,新たな戦略が求められています。これまでの今内准教授らの研究によって,様々な牛難治性疾病で複数の免疫チェックポイント因子が免疫細胞を疲弊化させ,病態を進行させていることを明らかにしてきました。一方,この免疫の疲弊化は可逆的であり,その免疫抑制機序を遮断することで抗病原体機能を回復できることも報告してきました。本研究では,昨今,国内で増加傾向にある牛白血病をモデルに免疫を再活性化(免疫賦活)し,ウイルス量を減らすことができる免疫チェックポイント阻害薬(抗ウシPD-L1キメラ抗体)の開発に成功しました。本開発技術は,牛白血病をはじめとした牛難治性疾病の新規制御法として応用が期待できる成果と考えられます。

本研究の一部は,文部科学省科学研究費助成事業,農林水産省・農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業,国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター革新的技術開発・緊急展開事業及び国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業(創薬等支援技術基盤プラットフォーム事業)によって行われた,ウシでははじめての技術開発です。

論文発表の概要

研究論文名:
In vitro and in vivo antivirus activity of an anti-programmed death-ligand 1 (PD-L1) rat-bovine chimeric antibody against bovine leukemia virus infection(牛白血病に対する抗ウシPD-L1キメラ抗体の抗ウイルス効果)
著者:
西森 朝美1,今内 覚1,岡川 朋弘1,前川 直也1,池渕 良洋1,後藤 伸也1,佐治木 大和1,鈴木 定彦2,小原 潤子3,小笠原 諭4,加藤 幸成4,村田 史郎1,大橋 和彦11北海道大学大学院獣医学研究院,2北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター,3北海道立総合研究機構農業研究本部畜産試験場,4東北大学大学院医学系研究科)
公表雑誌:
PLOS ONE
公表日:
日本時間 2017年4月27日(木)午前3時(米国東部時間 2017年4月26日(水)午後2時)

研究成果の概要

背景

農林水産省が指定する家畜の重要疾患である牛白血病は,白血球の増加や全身性の悪性リンパ肉腫を引き起こす疾病です。平成28年の牛白血病届出数は3,125頭で,家畜伝染病予防法が指定する99種の監視伝染病のうちウシの疾病では最多です。この発生数は届出伝染病に指定された平成10年の30倍以上の値であり,未だ増加に歯止めがかかっていません。牛白血病の主な原因はレトロウイルスである牛白血病ウイルスの感染によるものです。現在,既に日本のウシの約35%が牛白血病ウイルスに感染しており,感染牛の淘汰事業の実施は極めて困難な状況です。本病は北海道をはじめとした全国の酪農家にとって経済的損失の原因となっており,早急な対策を求める声は多いものの,ワクチンや有効な治療法が無いのが現状です。

研究手法

北海道大学大学院獣医学研究院では,生産者や臨床獣医師の依頼に応えて年間数千頭にわたる牛白血病の診断を行ってきました。一方で,臨床検体を用いて,牛白血病の病態発生機序の解明も同時に行ってきました。その結果,牛白血病の病態進行にはPD-L1などの免疫チェックポイント因子が深く関与すること,また,これらに対するモノクローナル抗体を作製してその免疫抑制機序を遮断すると,疲弊化した抗ウイルス免疫を再活性化できることを明らかにしました。今回は,人獣共通感染症リサーチセンター,並びに東北大学大学院医学系研究科の加藤幸成教授の研究グループとの共同研究により,ラット由来の抗ウシPD-L1モノクローナル抗体を改変して,抗体の一部だけを残してウシ化したキメラ抗体を樹立し,牛白血病ウイルスに感染したウシに対する効果を北海道新得町の北海道立総合研究機構農業研究本部畜産試験場にて検討しました。

研究成果

ウイルスの排除には細胞性免疫が重要であることが知られています。しかし,牛白血病ウイルスに感染するとリンパ球の機能が低下し,細胞性免疫の破綻が起こります。その結果,ウイルスの増殖を許して病態が悪化し,最終的には死に至ります。開発した抗ウシPD-L1キメラ抗体は,PD-1とPD-L1の結合を阻害する効果を持ち,牛白血病ウイルスに感染したウシから分離したリンパ球の抗ウイルス機能を回復しました。さらに本抗体を牛白血病ウイルスに感染したウシへ接種すると,生体内での抗ウイルス免疫を増強し,ウイルス量を減少させることに成功しました。

今後への期待

これまで家畜を対象としたバイオ医薬(抗体医薬など)の臨床応用例はなく,本研究成果は,今後の家畜に対する医薬品開発の先駆的技術となります。本開発技術を基盤として開発されるバイオ医薬(抗体医薬など)は,ワクチンの有無にかかわらず効果を発揮でき,また,使用後に出荷制限がある抗生剤やステロイド製剤などの使用量の低減や,代替医薬品として応用できる可能性もあります。今後,開発した抗体を用いて様々なウシの疾病に対する実証試験を行うほか,より強い効果を示す医薬品の開発を進めていく予定です。

参考図

説明図・1枚目(説明は本文中に記載)
A.今回開発したキメラ抗体の構造

説明図・2枚目(説明は本文中に記載)
B.開発抗体によるウィルス量の減少効果

お問い合わせ先

 内容に関するお問い合わせ先

北海道大学大学院獣医学研究院
准教授 今内 覚(こんない さとる)
TEL:011-706-5216  FAX:011-706-5217
E-mail:konnai“AT”vetmed.hokudai.ac.jp

東北大学未来科学技術共同研究センター/東北大学大学院医学系研究科
教授 加藤 幸成(かとう ゆきなり)
E-mail:yukinarikato“AT”med.tohoku.ac.jp

機構畜産試験場
研究主査 小原 潤子(こはら じゅんこ)
E-mail:kohara-junko“AT”hro.or.jp

AMED事業に関するお問い合わせ先

AMED 戦略推進部 医薬品研究課
TEL:03-6870-2219
E-mail:20-DDLSG-16“AT”amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。 

掲載日 平成29年4月27日

最終更新日 平成29年4月27日