プレスリリース 腎組織の炎症を抑制することによる新規腎臓病治療薬の開発―転写因子阻害剤を用いた新しい腎臓病治療法―

プレスリリース

東北大学大学院医学系研究科
日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 腎臓病による透析患者数は年々増加し、新たな国民病といわれているが、有効な治療法は未だ確立されていない。
  • 抗がん剤ミトキサントロンが転写因子GATA2を阻害し腎臓病の症状改善をもたらすことを世界で初めて明らかにした。
  • 有効な治療法に乏しかった腎臓病の新規治療法として、応用されることが期待される。

概要

東北大学大学院医学系研究科の于 磊(う れい)博士研究員(医化学分野)、森口 尚(もりぐち たかし)前講師(医化学分野、現東北医科薬科大学 教授)、山本 雅之(やまもと まさゆき)教授(医化学分野、兼東北メディカル・メガバンク機構 機構長)、清水 律子(しみず りつこ)教授(分子血液学分野)らのグループは、慶応義塾大学医学部先端医科学研究所の佐谷秀行(さや ひでゆき)教授らとの共同研究により、抗がん剤の一つであるミトキサントロンが転写因子GATA2の活性を阻害することで腎臓病の症状を改善することを、世界で初めて明らかにしました。腎臓病に対する新規治療法として本研究成果が応用されることが期待されます。

今回の研究成果は、2017年8月14日に米国科学雑誌「Molecular and Cellular Biology」(オンライン版)に掲載されました。

研究内容

腎臓病の進行により透析にいたる患者数は年々増加しており、医療費の増加が大きな問題となっています。本邦の透析患者数は約32万人(2015年日本透析学会調べ)で、腎臓病は新たな国民病と言われるまでになっています。腎臓病の進行を防ぐためには、慢性的な炎症の際にコラーゲン等の繊維タンパク質の蓄積によって腎組織が硬くなってしまうこと(線維化)を抑止することが重要と考えられていますが、現時点では有効な治療法は確立されていません。この慢性炎症による腎臓病の進行には、障害された腎組織で産生される炎症を引き起こすタンパク質(炎症性サイトカイン注1)が関与していると考えられています。

本研究では、遺伝子発現を制御する転写因子GATA2が腎臓の特定の細胞(集合管上皮細胞注2)に存在し、腎臓病時に集合管上皮細胞からの炎症性サイトカインの産生を促進する機能があることを明らかにしました。また、集合管上皮細胞でのみ転写因子GATA2を欠失するマウス(G2CKOマウス)を作製したところ、G2CKOマウスでは腎臓病誘導時の腎臓線維化を起こしにくいことも明らかにしました。さらに、GATA因子阻害剤のハイスループットスクリーニンング注3で見いだしたミトキサントロンがGATA2の発現を抑制すること、また、急性腎不全モデルマウスの腎臓線維化を抑止することを見いだしました。

これらの結果は、集合管上皮細胞での炎症性サイトカイン放出にGATA2が関与していること、GATA2の機能を阻害すれば集合管上皮細胞からの炎症性サイトカイン放出を抑制でき、慢性的な炎症により引き起こされる腎臓線維化を抑止できることを示しています。本研究は、転写因子GATA2の機能を抑制することによって、腎臓病における腎組織の線維化を抑制できることを示した世界で初めての研究成果です(図)。本研究成果により、これまで有効な治療法に乏しかった腎臓病に対する新規治療法として、ミトキサントロンなどのGATA因子阻害剤が応用されると期待されます。

本研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構 (AMED) 創薬等ライフサイエンス研究支援基盤事業、小林がん学術振興会などの支援を受けて行われました。

用語説明

注1 炎症性サイトカイン:
生体内における様々な炎症症状を引き起こす原因因子として関与するサイトカイン。
注2 集合管上皮細胞:
近位尿細管および遠位尿細管に続き、尿排泄路の単層立方上皮を構成する細胞。
注3 ハイスループットスクリーニング:
実験操作の自動化により、短時間の内に多数の化合物を生化学的に評価し、目的の活性を持つ化合物を迅速に発見するシステム。
図:本研究のまとめ

GATA因子阻害剤は腎集合管からの炎症性サイトカイン産生を抑制し、腎臓病の症状を改善させる。

論文情報

論文題目:
Reducing inflammatory cytokine production from renal collecting duct cells by inhibiting GATA2 ameliorates acute kidney injury
「転写因子GATA2阻害による腎集合管からの炎症性サイトカイン産生抑制を介した腎臓病治療効果」
著者名:
Lei Yu, Takashi Moriguchi, Hiroshi Kaneko, Makiko Hayashi, Atsushi Hasegawa, Masahiro Nezu, Hideyuki Saya, Masayuki Yamamoto, and Ritsuko Shimizu
于 磊、森口 尚、金子 寛、林 真貴子、長谷川 敦史、祢津 昌広、佐谷 秀行、山本 雅之、清水 律子
掲載誌名:
Mol Cell Biol. 2017 Aug 14. pii: MCB.00211-17. doi: 10.1128/MCB.00211-17. [Epub ahead of print]

お問い合わせ先

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東北大学大学院医学系研究科分子血液学分野
教授 清水 律子
TEL:022-717-7952
E-mail:rshimizu“AT”med.tohoku.ac.jp

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掲載日 平成29年9月14日

最終更新日 平成29年9月14日