プレスリリース ほくろの消滅機序を世界で初めて解明

プレスリリース

関西医科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

本件のポイント

  • 母斑組織の死滅処理※でメラニン色素産生が停止し、残存するメラニン色素は体内で自然に吸収
  • 先進医療申請に必要な5例程度の新規臨床研究準備中
学校法人 関西医科大学(大阪府枚方市 理事長・山下敏夫、学長・友田幸一)形成外科学講座森本尚樹准教授らの研究チームは、ほくろ(色素性母斑)の色成分・メラニン色素が体内に吸収され、自然に消滅する条件を世界で初めて解明しました。

ほくろが黒いのはメラニン色素が存在するためですが、メラニン色素は生体内では長期間安定して存在し続けることができません。それでもほくろが消えずに残り続けるのはほくろの細胞である母斑細胞が色素の産生を助けているためであることが知られています。研究チームはこの母斑細胞に着目し、母斑細胞を死滅させれば自然と色素が体内に吸収され、ほくろを消すことができるという仮説を構築しました。そこでヒト母斑組織を高圧処理(別添資料※1参照)して死滅させたものとそうでないものを、それぞれ免疫不全マウスに移植した結果、未処理群は1年後も色素が残っていたのに対し、死滅処理群の色素は吸収され、消滅したことを確認(次ページ掲載写真参照)。母斑細胞さえ死滅させればほくろが自然に消滅することを、世界で初めて解明しました。

なお、その研究結果をまとめた論文が米国科学誌「PLOS ONE」に、11月1日(水)午後2時付(※日本時間11月2日午後4時)で掲載されました。

「Plos One」論文掲載概要

掲載誌:
PLOS ONE. 10.1371/journal.pone.0186958
論文タイトル:
Melanin pigments in the melanocytic nevus regress spontaneously after inactivation by high hydrostatic pressure
筆者:
Sakamoto M, Morimoto M, Jinno C, Mahara A, Ogino S, Suzuki S, Kusumoto K, Yamaoka T. 学校法人 関西医科大学 形成外科学講座 森本尚樹(責任著者)、楠本健司 国立循環器病研究センター研究所 生体医工学部 山岡哲二、馬原淳 国立大学法人 京都大学 大学院医学研究科形成外科 鈴木茂彦、神野千鶴、坂本道治、荻野秀一

また、同研究チームは平成28年度から先天性巨大色素性母斑の患者に対して母斑組織の高圧処理と再移植を行う再生医療臨床試験を実施し、予定の10症例の登録を終了。今回の研究成果を加え、厚生労働省が定める「先進医療B」の承認に必要な5例程度の新たな臨床研究を準備しています。

本研究の実験画像

図1枚目
免疫不全マウスに移植した、ヒト母斑組織の経過観察画像
上段:未処理群 A:移植前 B:移植3ヶ月後 C:同6ヶ月後 D:同12ヶ月後
下段:死滅処理群 E:移植前 F:移植3ヶ月後 G:同6ヶ月後 H:同12ヶ月後

 

図2枚目
比較群における明度(黒さ)の推移グラフ
「破線+△」=未処理群の明度、「実線+●」=死滅処理群の明度
未処理群の黒さにほぼ変化がないのに対し、死滅処理群は明らかに明度が上がっている=黒さが薄くなっていることを示している。

別添資料

本研究の手法と論文発表

  • ヒト母斑組織を高圧(死滅)処理し、母斑細胞を不活化した組織とそうでない組織を免疫不全マウスに移植
  • 死滅処理群と未処理群の経過を定期的に観察、色素の変化を計測
  • 研究成果をまとめた論文が11/1(水)※米国東部標準時間付けで米国科学誌「PLOS ONE」にアクセプトされ、掲載

※1本研究における高圧処理(母斑組織の不活化)

共同研究者の大阪工業大学藤里教授、国立循環器病研究センター研究所山岡部長らは、10,000気圧で組織から細胞を取り除く技術を開発しました。元々、高圧処理は古くから食品加工の分野で研究されてきた安全な処理技術です。例えば卵を7,000気圧で10分処理すると、圧力でタンパク質が変性するためゆで卵の様に固まります。これは、マリアナ海溝の7倍も深い海に相当する高い圧力です。一方、水はほんの少ししか縮まないため、水(生理食塩水)に浸して加圧すれば卵は割れません。また、6,000気圧を超えると細菌やウイルスなども死滅するため、高圧処理は殺菌法としても期待されている手法です。
今回の研究では、母斑組織を比較的低い2,000気圧で10分間処理します。これにより、皮膚の主要成分であるコラーゲンなどを損傷することなく自然のまま残し、母斑細胞などの細胞を完全に死滅させることに成功しました。過去の実験で、高圧処理した母斑からは母斑が再発しないこと、高圧処理済みの母斑を患者さんに移植するとうまく適合し、培養表皮を組み合わせることで患者さん自身の皮膚を再生できることを確認しています。

本研究の背景、これまでの流れと今後の予定

本研究は本学形成外科学講座森本尚樹准教授をリーダーとし、国立循環器病研究センター研究所、京都大学、大阪工業大学が共同で取り組んでいるものです。また、平成27年4月1日に設立された日本医療研究開発機構(AMED)の「革新的がん医療実用化研究事業」から支援を受けています。

なお本研究の端緒となった先行研究は、平成26年11月25日に施行された「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に基づく、第二種分野臨床研究として症例の登録を平成28年2月から開始し、予定していた症例数の登録が完了しました。今後、厚生労働省が定める「先進医療B」への承認に必要な、5例程度の新たな臨床研究について実施を準備しています。

お問い合わせ先

本件発表に関するお問い合わせ先

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〒573-1010 大阪府枚方市新町2丁目5番1号
広報戦略室担当:岡田、畑森、佐脇、大城
TEL:072-804-2128
FAX:072-804-2344
E-MAIL:kmuinfo"AT"hirakata.kmu.ac.jp

同形成外科学講座 担当:森本 尚樹(もりもと なおき)准教授
TEL:072-804-0101
FAX:072-804-2031
E-MAIL:morimotn"AT"hirakata.kmu.ac.jp
 

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厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課
〒100-8916 東京都千代田区霞が関1丁目2番2号
TEL:03-5253-1111
 

革新的がん医療実用化研究事業に関するお問い合わせ先

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)
戦略推進部 がん研究課
〒100-0004 東京都千代田区大手町1丁目7番1号
TEL:03-6870-2221
FAX:03-6870-2244
E-MAIL:cancer"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。
 

掲載日 平成29年11月2日

最終更新日 平成29年11月2日