プレスリリース ネフロン前駆細胞から腎臓再生成功―臨床応用に向けた最終段階へ―

平成29年11月23日プレスリリース

東京慈恵会医科大学
バイオス株式会社
日本医療研究開発機構

研究成果のポイント

  • 既存ネフロン前駆細胞を薬剤誘導システムにより除去することにより、外来性の前駆細胞から腎機能を持った成熟腎臓を再生することに成功。
  • 再生腎臓への3ステップ(➀iPS細胞からネフロン前駆細胞樹立、➁ネフロン前駆細胞から再生腎臓樹立、➂尿排泄経路の構築)のうちの第2ステップが完遂したことで、臨床応用が一気に現実化する。

東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科の横尾隆教授、山中修一郎助教らの研究グループは、薬剤誘導型ネフロン前駆細胞除去システムを開発し腎臓発生ニッチ内の既存ネフロン前駆細胞を外来性に置き換えることにより100%外来性前駆細胞由来腎臓の再生に成功しました。

本研究成果は、Nature Communications電子版(日本時間2017年11月23日19時)にて発表されます。

本研究はバイオス株式会社共同研究「幹細胞由来腎臓再生による次世代腎不全治療法開発」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の腎疾患実用化研究事業からの支援を受けて行われました。

研究の背景

現在わが国では、腎機能が廃絶する腎不全に陥っても透析または移植により生命維持が可能です。特にドナー不足の現状ではほとんどの腎不全患者が透析に依存した生活を送ることになります。この透析患者は高齢化や糖尿病の蔓延により爆発的に増えており、現在33万人が透析を行なっています。透析患者は食事や生活の制限を強いられ著しいQOL(生活の質)の低下が余儀なくされます。また透析関連医療費は一人当たり年間約500万円を超え、その年間総額は1.4兆円以上にのぼり、国庫に大きな負担をかけています。一方海外に目を向けると、高額な透析が受けられない貧しい国々で200万人以上の人々が腎不全でなくなっており新たな国際問題に発展しています。この様な現状から、慈恵医大腎臓再生グループでは、以前から腎臓を臓器としてまるまる『再生』する腎臓再生に取り組んできました。

研究の経緯

腎臓再生には、➀患者由来のiPS細胞からネフロン前駆細胞(腎臓の芽)を作る、➁ネフロン前駆細胞から尿を作る臓器を体内に作る、➂尿を体外に排泄させる経路を作る、の3ステップがあると考えられます(下図参照)。ステップ➀についてはiPS細胞研究が進んでいる日本では多くの研究者が効果的な方法を編み出してきました。しかし、ステップ➁➂についてはほとんど研究が進んでいませんでした。当グループでは15年以上前からこの二つのステップについて研究を進めてきました。すでにステップ➂については効果的なシステムを開発し2015年に報告しております(引用1)。したがってステップ➁が残っている状況でした。これまで当グループは、ヒトの骨髄由来幹細胞とラットの胎仔を用いて、ラットの体内で尿を産生するヒト細胞由来の腎臓を作ることに成功しました(引用2、3)。しかし、ヒトを対象とした臨床応用には十分対応できずシステムの改良が必要と考え、研究を進めていました。

図1

研究の内容

人は一つの受精卵が分化してできるので、腎臓も受精卵から出来ています。発生の段階で受精卵は腎臓前駆細胞に分化するだけでなく、この前駆細胞がうまく腎臓に分化できるような場(ニッチ)も作ります。このニッチの中の前駆細胞は腎臓の芽となりやがて成熟した腎臓になります。このニッチに外来の前駆細胞を注入することにより腎臓まで分化できないか検討しました。その結果できることが確認されたのですが、もともとニッチ内には既存の前駆細胞がいるため、2系統の前駆細胞からできたキメラ腎臓ができてしまいます。そこで遺伝子操作により薬剤存在下で既存の前駆細胞を除去することにより外来性の前駆細胞のみニッチ内で成熟できるシステムを開発したところ、100%外来性のネフロン前駆細胞由来のネフロンを樹立することに成功しました(下図参照)。さらにこれを生体内に移植することにより血管を誘導することが可能となり、腎機能獲得も確認できました。また、倫理的にヒト胎仔のニッチを使用することはできませんので、ヒト臨床を想定し異種間でもシステムが作動するか確認したところラットーマウス間で腎臓再生が可能となることがわかりました。

図2

本技術は、異種胎仔のニッチを使用することにより外来性のネフロン前駆細胞より成熟腎機能を獲得した臓器まで分化できることが示され、上記のステップ➁が完成したことを意味します。

今後の展望

本研究の成功により我々の設定していた3つのステップ全てが揃ったことになります。最終段階としては、これらの3つをすべてヒト環境下で完遂することになります。つまり今回の成功はラットとマウスでの実験に基づきますので、ヒトiPS細胞由来ネフロン前駆細胞でも証明する必要があります。その上で、いよいよヒト臨床試験へのステップに進めると考えています。

将来の産業化

バイオス株式会社は、一連の優れた研究成果に基づき、腎臓再生の産業化を実現するために設立された再生医療ベンチャーです。引き続き、我が国そして世界の腎不全で苦しむ患者に貢献すべく、将来の産業化に向け積極的に活動して参ります。

用語解説

(注1)ネフロン前駆細胞
腎臓の構成部位である糸球体から近位尿細管、遠位尿細管まで分化する能力を持った腎臓前駆細胞の一種で、腎臓の“芽”のような存在である。近年iPS細胞からの分化誘導法が複数の研究グループから報告されており、患者由来腎臓再生の可能性が高まった。
(注2)ニッチ
前駆細胞が存在する“場”のこと。母体内で発生中では、受精卵から分化した各臓器の幹細胞はニッチ内でさらに分化(成長)し各臓器の系譜に成長していく。つまり発生中のニッチは臓器の“赤ん坊”を育てる“保育所”のような場所。
(注3)後腎
ヒト胎児は発生中に前腎、中腎、後腎を持つが、生まれるときにもつ腎臓(永久腎)は後腎から分化している。つまり腎臓の“子供”のような未熟腎臓のこと。後腎まで分化するとニッチの外に出ても自ら成長して成熟腎臓まで成長(分化)できるようになる。この能力を自己組織化能という。

引用文献

(引用1)
Yokote, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2015:.112(42): 12980-12985.
(引用2)
Yokoo T, et al. Proc Natl Acad Sci USA 2005: 102 (9): 3296-3300.
(引用3)
Yokoo T, et al. J Am Soc Nephrol 2006: 17 (4): 1026-1034.

お問い合わせ先

当該研究内容の問い合わせ

東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科
教授 横尾 隆(ヨコオ タカシ)
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
TEL:03-3433-1111 FAX:03-3436-2729
E-mail:tyokoo“AT”jikei.ac.jp

本プロジェクトの特許、産業化についての問い合わせ

バイオス株式会社
代表取締役 林 明男(ハヤシ アキオ)
担当 藤城
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前5-38-6パシフィック神宮前3F
TEL:03-6427-4869 FAX:03-6419-7372
E-mail:contact“AT”bios-co.jp 

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最終更新日 平成29年11月23日