プレスリリース ヒトiPS細胞からミニ肝臓の大量製造に成功-再生医療への応用を大幅に加速-
プレスリリース
横浜市立大学
日本医療研究開発機構
株式会社ヘリオス
株式会社クラレ
味の素株式会社
株式会社ニコン
カールツァイスマイクロスコピー株式会社
横浜市立大学 学術院医学群 臓器再生医学 武部貴則准教授、谷口英樹教授らの研究グループは、複数の企業との産学連携体制のもと、iPS細胞からヒトのミニ肝臓(iPSC肝芽)を、大量製造する手法の開発に成功しました。京都大学iPS細胞研究所・山中伸弥教授らの樹立した、日本人への免疫適合性の高いHLA型をもつHLAホモドナーiPS細胞(研究用)から、ミニ肝臓作製に必要な3種類の全ての細胞および小型化したミニ肝臓を、高い品質を担保して製造することが可能となりました。
さらに、大量製造されたミニ肝臓は、移植により、重篤な肝疾患を発症する免疫不全マウスの生存を大幅に改善することを実証しました。
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業」、文部科学省「科学研究費補助金(若手研究A)」の支援を受けて行われ、横浜市立大学拠点(再生医療実現拠点NWプログラム 疾患・組織別実用化研究拠点(拠点B))が推進する「肝疾患に対する再生医療の開発」を促進することが期待されます。
研究成果のポイント
- HLAホモドナーiPS細胞(研究用)からミニ肝臓作製に必要な3種類の全ての細胞の作製に成功。
- 特殊な培養プレートの開発により小型化した良質なミニ肝臓を大量製造。
- 従来よりも100倍以上のスケールアップが可能に!
研究の背景
現在、末期臓器不全症に対しては、臓器移植による臓器置換が有効な治療法として実施されていますが、年々増大する臓器移植のニーズに対し、ドナー臓器の供給は絶対的に不足しており、年間数千~万人もの方々が肝臓移植を待つ間にお亡くなりになっているという深刻な現状があります。したがって、臓器移植に代わる治療法として、新たな再生医療技術を開発していくことは、多くの患者救済のために必須です。
これまでに横浜市大の研究グループは、ヒトiPS細胞を用いて異なった3種類の細胞から血管網を有した肝臓の原基(ミニ肝臓)を創出する画期的な基盤技術を確立してきました(Nature, 2013; Nature, 2017)。一方、本技術を用いた再生医療を実現するためには、すべての細胞材料をiPS細胞から調製する必要があること、大量のミニ肝臓の一期的製造を実現すること、高い品質・均質性を担保する手法を確立すること、肝疾患動物モデルを用いて高い治療有効性を実証することなど、さまざまな課題を克服していく必要がありました。
本研究では、複数の企業との産学連携研究体制のもと、iPS細胞からヒトのミニ肝臓を大量製造する手法の開発に成功しました。京都大学iPS細胞研究所が樹立した免疫原性の低いHLAホモドナーiPS細胞(研究用)から、ミニ肝臓作製に必要な3種類の全ての細胞および、小型化したミニ肝臓を高い品質を担保して製造することが可能となりました。さらに、大量製造されたミニ肝臓は移植により、重篤な肝疾患を発症する免疫不全マウスの生存を大幅に改善することを実証しました。
研究の内容
従来の手法では、ヒトのミニ肝臓の作製に必要な血管系前駆細胞や間葉系前駆細胞は、分娩時に得られる臍帯および骨髄より分離することが必要でした。しかし、今後の製造工程の標準化や拡張性という観点を考慮すると、全ての細胞材料(現時点では3種類)をヒトiPS細胞(iPSC)から分化誘導して使用することが最も望ましいと考えられます。そこで、京都大学iPS細胞研究所が樹立した、日本人への免疫適合性の高いHLA型をもつ、HLAホモドナーに由来するヒトiPS細胞(研究用)からの誘導方法を検討し、肝臓系前駆細胞に加えて、血管系前駆細胞および間葉系前駆細胞を作製する最適な手法を確立しました(図1左)。各細胞に特徴的なマーカー発現等を用いて得られた細胞を評価したところ、高い効率で分化誘導が可能であることが確認され、さらに、得られた細胞からヒトミニ肝臓の作製を試みたところ、三次元的なヒトのミニ肝臓(All-iPSCミニ肝臓)の作製が可能であることが確認されました(図1右)。興味深いことに、従来のヒト臍帯由来血管系細胞および間葉系前駆細胞を用いて作製した場合と比べて、高い機能を安定的に示すことが示されました。
図1 All-ipsc ミニ肝臓作成法の確立
次に、大量製造工程の確立を目指し、ミニ肝臓2×104個(肝細胞1×108個相当)の一期的製造を目標に、株式会社クラレと連携し、新規の培養基材の開発を行い、微小サイズ(直径100-200μm程度)のミニ肝臓を、均質性を担保して大量に創出するため、表面微細加工技術を用いたマイクロウェルパターンが展開された特殊な培養プレートを開発しました(図2左)。
さらに、マイクロウェルにおける形状(辺縁部の傾斜度・深さなど)、3種の細胞の分化段階、細胞材料の調製・播種方法、細胞混合比率・量などを詳細に検討し、高品質なミニ肝臓を一括創出および、一斉回収することを実現する培養操作技術を開発することに成功しました(図2右)。
図2 ミニ肝臓の一期的大量製造
これらのミニ肝臓は、免疫不全マウス体内へ移植した結果、移植後数日で血管化された肝組織を再構成し(図3左)、ヒトアルブミン分泌や薬剤代謝機能などのヒト肝臓に特徴的な機能を発揮することを見出しました。さらに、亜急性肝不全をきたすモデルマウスへ大量のミニ肝臓を移植したところ、 製造バッチにかかわらず高い精度で治療効果を示すことが明らかとなりました(図3右)。
図3 重篤な肝不全マウスモデルに対するミニ肝臓移植の治療効果
今後の展開
現在、横浜市立大学ではiPS細胞由来のヒトミニ肝臓移植の安全性評価を目的とした臨床研究を目指して、iPS細胞を用いたヒト肝芽の大量製造工程の構築、GCTP(Good Cell and Tissue manufacturing Practice)プロトコールの作製、対象疾患のモデル動物の樹立などを推進しています。今回の研究で、現状で最も困難な解決課題であった1x108-10個の細胞数に相当する「大量」のヒトミニ肝臓を「適切な製造コスト」で「均質性を担保」して製造することが可能であることが示されました。 全世界における肝移植の待機患者数が少なく見積もっても年間2万人超という現状を考慮すると、我々の開発技術に基づく肝疾患に対する再生医療が実現化できれば、多くの患者を救済することの可能な革新的な医療技術となるとともに、大きな経済的効果をもたらすことの可能なライフサイエンス産業におけるイノベーション創出が期待されます。
※本研究は、『Cell Reports』に掲載されます。(米国東部時間12月5日正午付:日本時間12月6日午前2時付オンライン)
掲載論文
- Massive and Reproducible Production of Liver Buds Entirely from Human Pluripotent Stem Cells
- Takanori Takebe, Keisuke Sekine, Masaki Kimura, Emi Yoshizawa, Satoru Ayano, Masaru Koido, Shizuka Funayama, Noriko Nakanishi, Tomoko Hisai, Tatsuya Kobayashi, Toshiharu Kasai, Rina Kitada, Akira Mori, Hiroaki Ayabe, Yoko Ejiri, Naoki Amimoto, Yosuke Yamazaki, Shimpei Ogawa, Momotaro Ishikawa, Yasujiro Kiyota, Yasuhiko Sato, Kohei Nozawa, Satoshi Okamoto, Yasuharu Ueno, and Hideki Taniguchi
Cell Reports (2017), https://doi.org/10.1016/j.celrep.2017.11.005
連携先企業
株式会社クラレ
味の素株式会社
株式会社ニコン
カールツァイスマイクロスコピー株式会社
お問い合わせ先
本資料の内容に関するお問い合わせ
公立大学法人横浜市立大学 学術院医学群 臓器再生医学
武部 貴則、谷口 英樹
TEL&FAX:045-787-8963
E-mail:ttakebe"AT"yokohama-cu.ac.jp rtanigu"AT"yokohama-cu.ac.jp
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E-mail:sentan"AT"yokohama-cu.ac.jp
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関連リンク
掲載日 平成29年12月6日
最終更新日 平成29年12月6日