プレスリリース ラミニンE8を用いたヒト骨格筋サテライト細胞未分化維持培養法-筋疾患への細胞治療、創薬展開を見据えて-

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 骨格筋におけるラミニンα2、α3、α4、α5鎖の発現を忠実に模倣したヒト骨格筋サテライト細胞の培養法を開発しました。
  • 従来、未分化な状態を維持しながら培養することが困難だったサテライト細胞の未分化維持培養が可能となりました。
  • 培養したサテライト細胞を免疫抑制マウスに移植すると成熟した骨格筋として生着しました。
  • 細胞治療を目指した培養、患者様由来サテライト細胞を用いた創薬スクリーニングに応用されることが期待されます。

東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科分子生命情報解析学分野の赤澤智宏教授、大阪大学蛋白質研究所の関口清俊教授らの研究グループは、ヒト骨格筋の内在性幹細胞であるサテライト細胞の未分化維持培養法を開発しました。この研究は、日本医療研究開発機構(AMED)再生医療実用化研究事業「再生医療支援人材育成コンソーシアム構築」(研究開発代表者 赤澤智宏、平成25年~平成28年)の支援を受けた人材(筆頭著者 大学院生石井佳菜)、文部科学省「科学技術人材育成のコンソーシアムの構築事業」(平成25年~)、文部科学省科学研究費補助金(平成22年~)で実施したものです。その研究成果は、国際科学誌Stem Cell Reports(ステムセルリポーツ)に、2018年1月11日午前12時(米国東部時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

骨格筋の内在性組織幹細胞である筋サテライト細胞は、健康な状態では細胞分裂を停止しており、休眠状態にあります。筋繊維に過負荷や損傷、進展刺激、疾患因子などが加わることによってサテライト細胞は活性化され、損傷骨格筋を再生することが知られています。この高い筋再生能力を持ったサテライト細胞を移植することによって、筋を修復する再生医療が難治性筋疾患に対する治療法の1つとして想定されています。しかし、サテライト細胞を生体外に取り出すと速やかに筋分化が進んでしまい、移植をしても生着しません。移植に必要な骨格筋幹細胞を培養し、十分な量を確保することは困難でした。そこで、サテライト細胞の未分化性を維持させたままの培養法が必要とされています。


(図)ラミニン211/331/411/511-E8を用いて培養したヒト筋サテライト細胞は細胞移植後に筋繊維を再生した

研究成果の概要

筋繊維周囲の基底膜にラミニンα2鎖が発現していることは以前から知られていました。研究グループは、骨格筋に発現している他のラミニンサブユニットの発現を詳細に解析しました。その結果、サテライト細胞周囲にラミニンα3、α4、α5鎖が特異的に発現していることを見出しました。そこで、大阪大学で開発したラミニン活性の最小単位であるE8フラグメントを用いて、骨格筋における組織発現を正確に模倣して培養皿上で再現し培養したところ、サテライト細胞が未分化状態を維持しながら分裂増殖することがわかりました。従来、ラミニンE8は培養皿をコーティングして用いられていましたが、液相で直接反応させることが細胞の未分化性の維持に働いていると考えられます(特許申請中)。


(図)骨格筋におけるラミニン発現を模倣した処理方法

 

この培養法で増やしたヒトサテライト細胞を免疫不全マウスに移植し、成熟した筋繊維として定着すること、更に、免疫不全筋ジストロフィーマウス(NSG-mdx mouse)に移植し組織再生に寄与することを確認しました。

研究成果の意義

本成果において、ラミニンE8フラグメントを用いたヒト骨格筋サテライト細胞の新しい培養法が確立されました。筋ジストロフィー症、サルコペニアなどは根本的な治療法が確立されておりません。本研究成果を用いることで、未だ実現まで距離のあるiPS細胞を用いた筋疾患治療に先行するサテライト細胞を用いた細胞移植治療や、患者様由来のサテライト細胞を用いた創薬スクリーニングに応用することが期待されます。

論文情報

掲載誌:
Stem Cell Reports
論文タイトル:
Recapitulation of Extracellular Laminin Environment Maintains Stemness of Satellite Cells in vitro.

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学 大学院保健衛生学研究科
分子生命情報解析学分野  赤澤 智宏(あかざわ ちひろ)
TEL:03-5803-5362
E-mail:c.akazawa.bb"AT"tmd.ac.jp

報道に関すること

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掲載日 平成30年1月12日

最終更新日 平成30年1月12日