プレスリリース 震災による家屋被害が生活習慣・検査データに影響を与えている可能性ー東北メディカル・メガバンク計画地域住民コホート調査の解析からー

平成30年2月8日プレスリリース

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査*1参加者の調査データについて分析した結果、東日本大震災後の生活習慣について現時点において次のことが明らかになった。

  • 震災による家屋の被害の程度が大きい者ほど、震災後の生活において平均歩数が少ない。
  • 震災による家屋の被害の程度が大きい者ほど、メタボリック症候群の構成要素である、腹囲増大、高血糖、高脂質、高血圧に該当する者が多い傾向がある。
  • 家屋被害と関わらず、自宅から最寄り駅までの距離が遠い者ほどBody Mass Index(BMI*2)が高値の傾向がある。

被災の状況が生活習慣等に影響を及ぼしつつあることが明らかになり、また、居住地と生活習慣に関連があることも示唆された。本成果は、今後の被災者への生活指導を含む健康施策の立案と実行にあたり有益なものと考えられる。

*これらの研究成果は2018年2月1日~3日に開催された“第28回 日本疫学会学術総会”にて発表されました。

概要

東日本大震災後、避難生活などによる生活環境の変化に伴う身体活動量の減少が指摘されています。また、メタボリック症候群や心理的苦痛、抑うつ症状等において震災の影響が明らかになりつつあります。

東北大学東北メディカル・メガバンク機構個別化予防・疫学分野の寳澤篤教授らのグループは、東日本大震災による家屋の被害の程度とその影響に着目し、2013年から2016年に得た地域住民コホート調査参加者のデータ解析をもとに、被害の大きさが生活習慣や心身の健康状態に影響を及ぼしていること、そして、健康の指標として度々扱われるBMI値と交通機関へのアクセスに関連がある可能性を明らかにしました。

数年を過ぎてなお震災の影響が表れていることが研究結果として示され、未だ被災者への健康施策が重要であること、今後引き続き様々な影響について調査することの必要性が示されました。また、より影響が顕著である層が明らかになったことにより、効果的かつ効率的な対策への指針となると考えます。

詳細

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として計画され、宮城県では東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、岩手県では岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が事業主体となり、長期健康調査(地域住民コホート調査、三世代コホート調査)を実施しています。地域住民コホート調査は宮城県と岩手県の20歳以上の方を対象としており、平成27年度末までに参加募集を完了し、現在84,073人が追跡調査、詳細二次調査に参加しています。

今回は、この地域住民コホート調査参加者に対して、東日本大震災による家屋の被害の程度の違いによってどういった影響があるのか、「平均歩数」「メタボリック症候群の構成要素」そして「自宅周辺の環境とBMI値」について調査した結果となります。

*なお、参加者の回答等や回収等の状況や、調査を実施する両大学の項目設定の微細な違い等を反映して、以下の各項目の対象者数がそれぞれ異なることをご留意ください。

平均歩数について

対象者
対象は、宮城県内7箇所に設置したToMMoの地域支援センターにて実施した各種検査の1つである歩数計測を行った20歳以上の者です。調査期間は2013年10月から2016年3月です。2017年4月11日の時点で同意中の調査参加者17,773人のうち、歩数計測データが得られた13,062人を分析対象としています。
解析方法
対象者に歩数計を貸出して14日間の歩数計測を実施しました。また、家屋の被害の程度は自記式質問紙により調査しました。
今回、対象者の平均歩数、歩数計装着日数を算出し、また、疫学的手法にて、平均歩数と家屋の被害状況、年齢、性別、調査参加年度、調査参加月を関連付けて解析しました。


本調査にて使用した歩数計(Omron Healthcare HJ-205IT)

解析結果
14日間の歩数計測のうち初日を除いた13日間のうち10日間以上歩数計を装着した者は94%でした。全対象者における13日間の平均歩数(以下、平均歩数)は6,097歩(標準偏差=2,779歩)で、男性6,714歩、女性5,836歩でした。家屋の被害の程度と平均歩数の関連は、「全壊・大規模半壊の者(最小二乗平均*3歩数5,796歩)」は、「損壊なし・被災地に居住していない者(6,140歩)」、「半壊・一部損壊の者(6,161歩)」に比べて、有意に平均歩数が少ないという結果となりました。
今後の展開
本分析結果から、調査時点において東日本大震災による家屋の被害の程度が大きい者ではその程度が小さい者に比し平均歩数が少なかったことがわかりました。我々の研究グループが報告した、家屋の被害が大きい者でメタボリック症候群の該当者が増加しているという研究結果*4は、歩数の低下がその原因の1つとなる可能性があります。東日本大震災後、避難生活等で生活習慣が変化した者に対して歩数を増やす取組が重要と考えられます。

なお、平成24年度、東北大学大学院医学系研究科で実施している宮城県石巻市の雄勝地区・牡鹿地区の住民を対象とした「被災者健康調査」の一環として、運動教室を実施し、運動教室に参加した者では、主観的健康感や外出頻度は有意に改善しました。被災地における運動介入は、健康感の改善に有効な対策であることが示唆されています(遠又靖丈他.日本公衆衛生雑誌 62 巻(2015)2 号)。運動教室の実施により、被災者の閉じこもり予防に効果が得られる可能性があり、地域における運動に特化した取組が課題となります。

メタボリック症候群の構成要素について

対象者
対象は宮城県・岩手県の両自治体が実施する特定健康診査に参加した20~74歳男女で国民健康保険加入者および一部の社会保険被扶養者です。2016年9月21日時点で同意中の調査参加者67,952人(宮城県41,025人、岩手県26,927人)のうち、採血・採尿を実施し、調査票返却があり、かつ、国民健康保険加入者で腹囲の測定値があるメタボリック症候群の判定可能な62,750人(宮城県36,937人、岩手県25,813人)を対象としました。
解析方法
  • 性別
  • メタボリック症候群の構成要素(腹囲基準値以上/高血糖、高脂質、高血圧のそれぞれの有無)
  • 家屋の損壊程度(被災地に未居住・損壊なし、全壊、大規模半壊、半壊、一部損壊、不明)を中心に、心理社会的要因/生活習慣/年齢/居住県/学歴/婚姻状況/同居人数/調査参加年度を関連付けて解析しました。
解析結果
両県の男性23,484人において、高血糖、高脂質、高血圧、腹囲基準値以上該当者は順に6,110人(26.0%)、9,422人(40.1%)、14,826人(63.1%)、11,349人(48.3%)であり、両県の女性39,266人においては、6,534人(16.6%)、11,625人(29.6%)、19,017人(48.4%)、6,791人(17.3%)でした。 家屋の被害の程度とメタボリック症候群の構成要素の関連は、男性において、「被災地に未居住・損壊なし」者に比し「全壊」者で、血圧(調整オッズ比*5 [95%信頼区間]=1.19[1.07-1.32])、腹囲(1.24[1.13-1.37])の有病率オッズ比が有意に高く、「大規模半壊」者で、脂質(1.31[1.13-1.52])、腹囲(1.29[1.11-1.50])の有病率オッズ比が有意に高いことがわかりました。 一方、女性については、「全壊」者で、脂質(1.11[1.02-1.20])の有症者オッズ比が有意に高く、「大規模半壊」者で、血糖(1.20[1.03-1.40])、脂質(1.25[1.11-1.42])、腹囲(1.25[1.09-1.45])の有病率オッズ比が有意に高いことがわかりました。
  高血糖 高脂質 高血圧 腹囲基準値以上
男性(23,484人) 6,110人(26.0%) 9,422人(40.1%)★ 14,826人(63.1%)♦ 11,349人(48.3%)♦★
女性(39,266人) 6,534(16.6%)★ 11,625人(29.6%)♦★ 19,017人(48.4%) 6,791人(17.3%)
◆ :「全壊」者で有病率オッズ比が有意に高い
★ :「大規模半壊」者で有病率オッズ比が有意に高い
今後の展開
本分析結果から、家屋の被害の程度が大きい者ではその程度が小さい者に比しメタボリック症候群の構成要素(腹囲基準値以上、高血糖、高脂質、高血圧)の有病リスクも高くなりました。本分析は断面調査であり、因果性の確認まではできないものの、震災被害によるメンタルヘルス不調・歩行数低下がメタボリック症候群の構成要素を悪化させている可能性が示されました。引き続き被災者に対する支援を継続するとともに、歩きやすい環境づくり構築を目指す必要があると考えられます。また、これら被害の大きかったものでさらに検査データが悪化するのか、ひいては動脈硬化の進展が早まるのかなどの追跡情報が必須です。現在実施している詳細二次調査の結果分析を急ぎ、震災からの二次健康被害抑制に向けて今後も努力していきます。

自宅周辺の環境とBMI値について

対象者
対象は宮城県内自治体が実施する特定健康診査に参加した20~74歳男女で国民健康保険加入者および一部の社会保険被扶養者です。2017年4月11日時点で同意中の調査参加者39,886人のうち、調査票返却があり、かつ住所、Body Mass Index(BMI)値、調査参加時のご自宅から各最寄り施設までの距離データが得られた35,799人を対象としました。
解析方法
地理情報システム(GIS*6:Geographic Information System)を用いて自宅から最寄りの「公園」「スーパーマーケット」「駅」までの各距離を算出し、それぞれ「1km未満」「1~2km未満」「2~20km未満」「20km以上」の4群に分類しました。1km未満群を基準として各距離の群でBMI高値(BMI25.0kg/m2)の者のオッズ比を疫学的手法にて調査しました。BMI高値、自宅から最寄りの各施設までの距離、年齢、性別、居住地域、喫煙状況、飲酒状況、教育歴、余暇の運動頻度を関連付けて解析しました。
解析結果
年齢とBMIの平均±標準偏差は、それぞれ59.9±11.5歳、23.4±3.5 kg/m2でした。BMI高値者は10,124人(28.3%)でした。生活習慣や社会経済的要因を考慮してもなお、自宅から最寄りの公園までの距離が1km未満群に比し、距離が遠いほどBMI高値者のオッズ比が有意に高いことがわかりました。同様に自宅から最寄りのスーパーマーケット、駅までの距離も遠いほどBMI高値者のオッズ比が有意に高いことがわかりました。
今後の展開
本分析結果から交通網を含む自宅周辺の環境がBMI高値に影響している可能性が示唆されました。しかし、交通手段や日常生活の行動範囲、食習慣等も両者の関連に影響を及ぼしている可能性が考えられたため、今後は上記の内容を含めた詳細な検討を実施予定です。健康状態に影響を与える近隣環境の因子を明らかにすることにより、疾病予防・健康増進に役立つ環境整備や対策立案につながる可能性が考えられます。

※本研究は東日本旅客鉄道株式会社による寄附講座 災害交通医療情報学寄附研究部門によるものです。

まとめ

今回の分析結果から、震災により大きな家屋被害を受けた者で歩数が低下し、メタボリック症候群の構成要素の有病率が高いという関連が見いだされました。この分析結果を踏まえ今後は、動脈硬化の進展や呼吸機能の悪化の早さに注目し、被災の程度の大きさと関連があるのか、現在実施している詳細二次調査で明らかにしていく予定です。

また今回、近隣の環境がBMIに影響を与えることを報告しました。これは町づくりによる県民の健康維持の可能性を示唆したものです。この結果は例えば、現在、宮城県が実施している「スマートみやぎ健民会議」の取組などの重要性を示すものであり、こういった組織・団体とも連携をとっていきたいと思っています。今後もコホート調査から得られた分析結果を県・市町村をはじめとする自治体・地域と共有し、いかにして県民の震災からの二次健康被害を軽減していくかについて検討を進めていきます。

参考

東北メディカル・メガバンク計画について
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、平成25年より合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンク*7を整備しています。東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語等説明

コホート調査:
ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因・遺伝的要因などと疾病発症の関係を解明するための調査のこと。
BMI:
肥満度を表す国際的な指標であり、[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出される。
最小二乗平均:
予測値に基づくy=ax+bの直線上の値と、実際の値との差の2乗和が最小となるような回帰直線から推定された平均値。
プレスリリース
「震災被災地の健康状態 ‐地域住民コホート調査より‐」(2017/2/1)
オッズ比:
関連の強さを示す値。関連がなければオッズ比は1となり、関連が強いほど大きな(あるいは小さな)値となる。
GIS:
地理的位置をもとに、位置に関する情報を持ったデータ(空間データ)を総合的に管理・加工し、可視化することにより高度な分析等を可能にする技術のこと。(国土交通省国土地理院 http://www.gsi.go.jp/GIS/whatisgis.html)
バイオバンク:
生体試料を収集・保管し、研究利用のために提供を行う。東北メディカル・メガバンク計画のバイオバンクは、コホート調査の参加者から血液・尿などの生体試料を集める。

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
個別化予防・疫学分野
教授 寳澤 篤(ほうざわ あつし)
電話番号:022-273-6212

報道に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7908
ファクス:022-717-7923
Eメール:f-nagami"AT"med.tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 バイオバンク課
電話番号:03-6870-2228
Eメール:tohoku-mm"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

最終更新日 平成30年2月8日