プレスリリース 宮城県民3万人の口腔内の健康状態―東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査より94.1%の参加者に口腔内の問題があることが判明―

プレスリリース

国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

  • 東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査の一環として2013年から2017年に、総計33,037人に対して口腔内検査を行った。
  • 口腔内検査の参加者全体の94.1%にあたる31,087人に、むし歯や歯周病、口腔粘膜の異常などの口腔内の問題が発見された。
  • 成人の35.9%にあたる11,696人に、むし歯が1本以上見つかった。
  • また、成人の90.0%にあたる29,348人には、歯周病やその前兆が見つかった。
  • 本邦において、3万人を超える大規模な口腔内調査の結果で、ゲノム解析情報や健康調査情報などの情報と紐づけられ多角的な解析が可能なものは他に類を見ず、今後幅広く役立つものと期待される。

概要

東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査*1の一環として、宮城県内7カ所の地域支援センターにて実施された口腔内検査の総計33,037人分について結果をまとめました。

東北メディカル・メガバンク計画におけるコホート調査は、東日本大震災後の被災地域を中心に住民の健康状態を調査し、またバイオバンク*2を構築し病気に遺伝要因・環境要因がどのように関わっているかを解析し、未来の医学へ貢献することを目的として実施されています。コホート調査では、参加者全員に血液検査やアンケート調査を行っていますが、多くの方々に口腔内検査への協力をお願いしています。口腔内の状態はむし歯や歯周病などそれ自体としても健康上の問題であるのみならず、全身疾患と大きな関係を持つことが近年明らかになってきており注目されていると共に、震災後の劣悪な環境が口腔内の状態悪化に影響している可能性も示唆されてきました。宮城県では東日本大震災の影響を調べる目的で、津波被害が甚大であった一部地域に限って一般住民を対象とした歯科検診が実施されていました。

一方、本調査は、宮城県全域ですべての年齢層の一般住民を対象としており(全宮城県民の1.4%相当が口腔内検査に参加)、震災後に実施された詳細な歯科検診では、初めての大規模な調査となっています。さらに、本調査に参加した一般地域住民は平成29年には3万人を超え、厚生労働省が5年毎に全国規模で実施している歯科疾患実態調査(平成28年度では3,820人)と比べて遥かに上回る規模のものです。

東北メディカル・メガバンク計画のコホート調査が、目標としてきた15万人の登録に達し、平成29年度から主に参加者に対する2度目の調査(詳細二次調査)を行うフェーズに入ってきたのを機に、平成29年6月までに本コホート調査で1度目の口腔内検査を行った総計33,037人分について調査結果をまとめました。

本調査の主な結果は、以下のとおりです。

  • 全体の94.1%にあたる31,087人に、むし歯や歯周病、口腔粘膜の異常などの口腔内の問題が発見された。
  • 成人全体の35.9%にあたる11,696人に、むし歯が1本以上見つかった。
  • 成人全体の90.0%にあたる29,348人に、歯周病やその前兆が見つかった。
  • 毎日歯磨きをする人は、全体で98.5%(男性:96.8%、女性:99.4%)と、調査対象のほぼ全員が毎日歯磨きをしていると答えた。しかし、男性では、毎日歯磨きするもののその頻度は女性の歯磨き頻度に比較して有意に少なかった(p<0.05, χ2-検定)。

今回、口腔内検査を受けた参加者のほとんどに、その口腔内には何らかの疾患疑いが見つかりました。従来、歯科疾患は国民病とも言われ、歯科医院への通院経験を持つ日本国民は96.2%以上に及び、また、常に14.1%の人が歯科医院に通院中であると推定されています。そのため、ひと度、大規模災害が発生し、歯科治療を受けることが困難になると、その影響は甚大となります。今回の宮城県民の口腔内状況を大規模に明らかにした調査結果は他に類を見ず、今後の歯科保健計画あるいは大規模災害対応への基礎資料となると考えています。

背景

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として計画され、宮城県では東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)、岩手県では岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)が事業主体となっています。同計画の一部として、15万人の参加を目標とした長期健康調査(地域住民コホート調査: 8万人、三世代コホート調査: 7万人)が実施され、平成28年度まで両コホート調査とも参加募集は完了し、地域住民コホート調査には84,073人、三世代コホート調査には73,032人が参加しています。

震災後に口腔内の健康状態の悪化が懸念されることから、歯科医師による口腔内検査を検査項目の一つに加え、口の中の健康状態や虫歯、歯周病の検査を行いました。今回は、平成25年10月28日から平成29年6月30日までの期間において、当機構が宮城県内7カ所に設置した地域支援センターで参加した33,037人分の口腔内検査の結果をまとめました。

対象

対象:
33,037人(地域住民コホート調査または三世代コホート調査に参加した宮城県在住者(約12万人)のうち、県内の地域支援センターでの詳細健康調査に参加した方)
男性:11,424人(34.6.%)、平均年齢(±標準偏差)51.4±17.5歳
女性:21,613人(65.4%)、平均年齢(±標準偏差)51.2±15.8歳
平均年齢(±標準偏差)51.3±16.4歳
調査時期:
平成25年10月28日~平成29年6月30日

調査項目

◆口腔内検査
  1. 歯科検診
①歯と歯周組織の状態
②軟組織・硬組織の状態
③咬合接触
④口腔清掃状態
  1. 問診:歯科保健行動等
  2. 口腔内細菌採取:唾液、歯垢、舌苔
◆健康と生活習慣に関する調査票に収載された歯科関係の質問項目

主な結果

本調査から、以下のことが明らかになりました。

■受診勧奨率
口腔内検査後には、参加者それぞれに口腔内の状況を郵送でお知らせしています。その上で、口腔内に何らかの疾患(う蝕、歯周病およびその前兆症状、欠損歯の放置、口腔粘膜の異常、顎関節の異常)が見つかった場合には、対象者の口腔の健康管理を目的に、かかりつけ歯科医院などの地域医療機関への速やかな受診を促がすこととしています(歯科受診勧奨)。歯科領域の問題で受診勧奨された参加者は、全体の94.1%(男性:94.9%、女性:93.7%)でした。すなわち、口腔内検査を受けた参加者のほとんどが口腔内に何らかの問題を有し、受診勧奨されたことになります。
受診勧奨 男性 女性 全体
必要 10,844(94.9%) 20,243(93.7%) 31,087(94.1%)
不要 565 1,349 1,914
未判定 15 21 36
総計 11,424 21,613 33,037
■むし歯が1本以上見つかった人の割合
むし歯が1本以上見つかった人の割合は、成人全体の35.9%(男性:43.0%、女性:32.1%)であり(子どもでは、全体:26.5%、男性:29.8%、女性:23.2%)、むし歯が検出された人の65%は、見つかったむし歯の数は2本以下でした。むし歯が1本以上見つかった人のうち、治療が完了していないむし歯の本数は、1人当たり平均(±標準偏差)1.0(±2.1)本(男性:1.4(±2.6)本、女性:0.8(±1.8)本)と、男性が女性よりもやや多くむし歯を有していることが分かりました。(図1)
むし歯(成人) 男性 女性 全体
あり 4,818(43.0%) 6,878(32.1%) 11,696(35.9%)
なし 6,390 14,510 20,900
未判定 8 14 22
総計 11,216 21,402 32,618
むし歯(未成年) 男性 女性 全体
あり 62(29.8%) 49(23.2%) 111(26.5%)
なし 137 153 290
未判定 9 9 18
総計 208 211 419

図1:むし歯が1本以上見つかった人の年齢層毎の割合
■歯周病やその前兆が見つかった人の割合
歯周病やその前兆が見つかってその治療を奨められた人の割合は、成人全体の90.0%(男性:92.8%、女性:88.5%)でした。(図2)中等度以上の歯周病(歯周ポケット4mm以上)が見つかった人は66.2%、重度歯周病(歯周ポケット6mm以上)は、17.3%でした。(図3)本調査では、厚生労働省の歯科疾患実態調査よりもやや高い歯周病の有病率が得られました。本調査では全歯種(最大32本)を対象に歯周病検査をしているのに対し、歯科疾患実態調査では特定の歯種(10歯種)を診査対象としていることに起因すると考えられます。
歯周病(成人) 男性 女性 全体
あり 10,404(92.8%) 18,944(88.6%) 29,348(90.0%)
なし 767 2,401 3,168
未判定 45 57 102
総計 11,216 21,402 32,618

図2:歯周病やその前兆が見つかった人の年齢層毎の割合

図3:歯周組織の状態別の参加者の占める割合(成人)
■歯磨き習慣
毎日歯磨きをする人は、全体で98.5%(男性:96.8%、女性:99.4%)とほぼ全員が毎日歯磨きをしていると答えました。しかし、男性では、毎日歯磨きするものの、その頻度は女性の歯磨き頻度に比較して有意に少ないという結果でした。(p<0.05, χ2-検定)。(図4)
※歯磨き習慣は、口腔内検診ではなく歯科問診(アンケート)から算出
(全体:34,725人、男性:11,887人、女性:22,838人)
  男性 女性 全体
毎日歯磨きをする人 11,501(96.8%) 22,699(99.4%) 34,200(98.5%)

図4:歯磨きの頻度

今後の展開

調査について

今回の報告は、東北メディカル・メガバンク機構の地域支援センターを訪れたコホート調査参加者の方々の情報を整理した結果をまとめたものです。当計画のコホート調査における口腔内検査は、自ら地域支援センターでの調査を望み来所された方々のみを対象としています。一方で、特定健診会場や産科医院でコホート調査に参加された方々の多くは、口腔内検査を受けていません。

平成29年から、コホート調査に参加した方の健康状態を追跡する詳細二次調査を開始しています。地域住民コホート調査および三世代コホート調査に参加した方すべてを対象に、できるだけ多くの方に地域支援センターにお越しいただき、総計 8万人以上を目指して引き続き調査を実施しています。

対応について

個別の調査協力者に対しては結果の回付を行うとともに、口腔内検査時に歯科医師が簡単な相談を受けるなど、住民一人ひとりへの啓発に努めています。また、個々の協力者の検査結果において、特に異常値ありの場合には、地域の歯科医療機関への受診勧奨を行うとともに、重篤な問題があると考えられる臨床所見については、担当歯科医師から直接ご本人にお伝えして早期の受診を強く促しています。

地域ごとの結果等は、速やかに集計・分析し、その統計データを当該自治体に提供するなどして、地域の歯科保健対策に活かせるよう進めております。

歯科疾患は国民病ともいわれ、日本国民の96.2%以上が歯科医院への通院経験を持ち、14.1%は現在通院中とされています。東日本大震災時、避難所に限らず県内全域で、歯科疾患への対応が大変困難となりました。このような経験を踏まえ、今回の調査から明らかになった歯科関連に大きな問題を抱える方々の特性について、どのような方にどのような問題があるのかを検討してまいります。また、ご協力いただいた方にとどまらず、日頃からの大規模災害への備えなど、広く地域全体に貢献できるような情報を急ぎ発信してく予定です。

参考

東北メディカル・メガバンク計画について

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、平成25年より合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンクを整備しています。東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

用語解説

*1.コホート調査:
ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因・遺伝的要因などと疾病発症の関係を解明するための調査のこと。
*2.バイオバンク:
生体試料を収集・保管し、研究利用のために提供を行う。東北メディカル・メガバンク計画のバイオバンクは、コホート調査の参加者から血液・尿などの生体試料を集める。

お問い合わせ先

研究に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
地域口腔健康科学分野
坪井 明人(つぼい あきと) 
TEL:022-274-5985
E-mail:tsuboi"AT"m.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
長神 風二(ながみ ふうじ)
TEL:022-717-7908
FAX:022-717-7923
E-mail:f-nagami"AT"med.tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 バイオバンク課
TEL:03-6870-2228
E-mail:tohoku-mm"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

掲載日 平成30年3月9日

最終更新日 平成30年3月9日