プレスリリース 難治性がんに腫瘍抑制効果を示すマイクロRNAを同定 ―マイクロRNAを用いた抗がん核酸薬による新規がん治療戦略への期待―

プレスリリース

国立大学法人東京医科歯科大学
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

ポイント

  • 1,090種類のマイクロRNAを搭載したマイクロRNAライブラリーの機能的スクリーニングにより、強力な抗腫瘍効果をもつマイクロRNA(miR-3140)を同定しました。
  • miR-3140は、がん遺伝子として知られているBRD4EGFRを制御することで、多種のがん細胞増殖を抑制することを見出しました。
  • miR-3140BRD4-NUT融合遺伝子を抑制することで、難治性がんのNUT Midline Carcinomaへも抗腫瘍効果を発揮することがわかりました。
  • miR-3140の投与による、新規核酸抗がん薬開発への応用が期待できます。

概要

東京医科歯科大学・難治疾患研究所・分子細胞遺伝分野の玄泰行助教、村松智輝助教、稲澤譲治教授と大学院医歯学総合研究科顎顔面外科分野の外内えり奈大学院生らの研究グループは、機能的マイクロRNAライブラリースクリーニングにより、多様な難治性がんに対してもがん細胞増殖を抑制するマイクロRNAを同定しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(16K14630, 15K18401, 15K19040)、文部科学省新学術領域研究(15H05908)「がんシステムの新次元俯瞰と攻略」、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん医療創生研究事業」 (P-CREATE)「がんの特性を制御するマイクロRNAの探索と核酸抗がん薬DDSの開発」などの支援のもと遂行され、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reports(サイエンティフィック リポーツ)に、2018年3月14日午前10時(英国時間)にオンライン版で発表されます。

研究の背景

がん治療は、従来の古典的な抗がん剤だけでなく、特定のがん遺伝子を対象とした分子標的治療薬や、免疫チェックポイント阻害剤などが開発されたことで、治療成績が向上している一方で、これらの薬剤に対する抵抗性を生じることが、がんの難治性の一因となっています。こういった背景から、新たながん治療戦略として、マイクロRNAを用いた核酸抗がん薬の開発が行われつつあります。マイクロRNA(miRNA)とは、20-25塩基対程度のノンコーディングRNAであり、複数の標的遺伝子の翻訳や転写を抑制することが知られています。本研究では、1090種類のマイクロRNAを搭載したmiRNAライブラリーを用いた機能的miRNAライブラリースクリーニングを施行し(図1A)、抗がん核酸薬への応用を目標に強力な抗腫瘍効果を示す新規がん抑制型miRNAを同定することを目的として解析を行いました(図1B)。

図1

研究成果の概要

研究グループは、膵臓がん細胞株(Panc1)を用いて1090種類のmiRNAを形質導入したのち、細胞増殖抑制能を評価しました。強力にがん細胞増殖を抑制する新規miRNAを探索した結果、miR-3140を同定しました。その後、miR-3140導入サンプルの遺伝子発現変化、標的遺伝子予測データベースの結果をもとに、miR-3140の直接の標的遺伝子を探索したところ、エピジェネティックリーダーとして広く認知されているBRD4のコーディング領域に直接結合し、がんの増殖に関与するMYC、CCND2を含むBRD4経路を抑制することを明らかにしました(図2A)。BRD4は、自身の持つブロモドメインでヒストンのアセチル化部位を認識して結合することで、MYCを始めとしたがん遺伝子の転写を促進させることから、現在、BRD4を標的とする低分子化合物(BET阻害剤)による薬剤の開発が行われています。さらに、miR-3140は、BRD4-NUT融合遺伝子が主病因となって、がん化を促進する、難治性がんNUT Midline CarcinomaのTy-82細胞においても、BRD4-NUTを直接的に阻害することにより、細胞増殖を抑制することがわかりました(図2B)。また、miR-3140はBRD4以外の標的として、様々ながんで遺伝子変異が報告されているEGFRを抑制することを同定し、現在臨床で使用されているEGFR阻害剤に対する抵抗性を有しているEGFR変異陽性がん細胞に対しても、EGFRそのものを抑制することで細胞増殖を抑制することを明らかにしました。マウス皮下腫瘍モデルでの実験では、膵臓がん細胞由来の腫瘍周囲にmiR-3140を局所投与すると、miR-3140治療群で腫瘍体積の増加を抑制しました (図2C)。

図1

研究成果の意義

本研究では、機能的miRNAライブラリースクリーニングにより、BRD4やEGFRの制御を介してがん細胞増殖を抑制するmiR-3140を同定することができました。BRD4を標的とするBET阻害剤の臨床試験が現在、さかんに行われている一方、その薬剤耐性がすでに問題となりつつあります。今回同定したmiR-3140はBRD4そのものを抑制することや、複数のがん促進経路を同時に抑制することから、BET阻害剤に対する薬剤耐性を克服する可能性があります。また、変異型EGFRによるEGFR阻害剤耐性に対しても変異型EGFRそのものを抑制することでEGFR阻害剤抵抗性を克服する可能性があります。今後、ドラッグデリバリーシステムの開発と組み合わせることで、miR-3140を用いた核酸治療(核酸抗がん薬)は膵がん、NUT midline carcinomaを含む難治性がんに対する新たな治療戦略となる可能性があります。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
論文タイトル:
miR-3140 suppresses tumor cell growth by targeting BRD4 via its coding sequence and downregulates the BRD4-NUT fusion oncoprotein

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学難治疾患研究所
分子細胞遺伝分野 
稲澤 譲治(イナザワ ジョウジ)
玄 泰行(ゲン ヤスユキ)
村松 智輝(ムラマツ トモキ)
TEL:03-5803-5820 FAX:03-5803-0244
E-mail:johinaz.cgen"AT"mri.tmd.ac.jp

報道に関すること

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次世代がん医療創生研究事業担当
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E-mail:cancer"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス"AT"の部分を@に変えてください。

掲載日 平成30年3月14日

最終更新日 平成30年3月14日