プレスリリース 東北メディカル・メガバンク機構、疾病罹患・生理機能低下と腸内細菌叢との関連性を明らかにする共同研究を開始

プレスリリース

東北大学東北メディカル・メガバンク機構
株式会社ヤクルト本社
国立研究開発法人日本医療研究開発機構

発表のポイント

国立大学法人東北大学東北メディカル・メガバンク機構(機構長 山本 雅之、以下、ToMMo)と株式会社ヤクルト本社(社長 根岸 孝成、以下、ヤクルト)は、腸内細菌叢1を標的とした新規の疾病予防法や治療法の創出、予防医学に基づく乳酸菌飲料および発酵乳の生理的意義を明らかにすることを目的とした共同研究を開始しましたのでお知らせします。

本研究では、東北メディカル・メガバンク計画2が実施するコホート調査3の参加者を対象に、腸内細菌叢の解析調査を2018年4月1日から開始しました。対象者は、ToMMo地域支援白石センターにおける地域住民コホート調査または三世代コホート調査の詳細二次調査4の成人参加者約2,500人であり、同意を得られれば、腸内細菌叢解析のための便サンプルの提供を依頼します。腸内細菌叢の解析結果を東北メディカル・メガバンク計画がもつ疾病罹患・生理機能情報、生活習慣情報と合わせて解析することにより、腸内細菌叢と種々の健康指標の関連を調べ、腸内細菌叢を標的とした新規の疾患予防法や治療法の創出、予防医学に基づく乳酸菌摂取の生理的意義を明らかにすることを目標としています。さらに、遺伝情報やオミックス情報5などを含めた総合的な解析を行うことにより、東北メディカル・メガバンク計画が目指す「個別化予防」の基盤構築にも貢献します。

この共同研究は2020年度末までの期間を予定しており、得られたデータは、東北メディカル・メガバンク計画のバイオバンク6に格納され、データ整理完了後、一定の期間を経て、全国の研究者に分譲され、個別化医療・個別化予防の研究に有効活用される予定です。

なお、本研究の詳細は以下のとおりです。

共同研究の詳細

1.目的および背景

ヒトの腸内にはおよそ1000種類、約100兆個の細菌が生息し、その存在は、宿主の免疫系、内分泌系および神経系など、ヒトの生理機能に影響を及ぼすことにより、ヒトの健康と密接に関わっていることが明らかとなっています。

腸内細菌叢の構成はヒトにより異なりますが、がん、炎症性腸疾患、アレルギー疾患のみならず、肥満や精神疾患などの種々の疾病罹患者において、腸内細菌叢のバランスの乱れが観察されます。また、抗菌薬の投与が病因とされるClostridium difficile感染症では、糞便微生物移植療法(健常人の糞便を患者に投与する方法)により人為的に腸内細菌叢のバランスを操作する治療法が優れた治療実績を挙げており、疾病や生理機能と腸内細菌叢との関わりを示唆する多くの研究成果が報告されています。

しかし、これまでの腸内細菌叢解析は、生理機能検査が基準値の範囲外の者や疾病罹患者と健常人との比較対象研究が中心であるため、腸内細菌叢と疾病等の関連は推察できますが、その因果関係を示すには至っていません。

東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として2011年度に開始され、2015年度からは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。本計画では、宮城県および岩手県に在住する約15万人の一般住民を対象とした長期的かつ多面的な調査を実施する大規模コホート調査を実施しています。

本共同研究において、疾病発症や生理機能低下に至る過程における腸内細菌叢を解析することにより、がんを含む生活習慣病や炎症性腸疾患の発症に繋がる腸内細菌叢の変化を見出すことが可能となります。また、本共同研究に先行して既に実施されている乳酸菌飲料および発酵乳の摂取状況の調査結果とコホート調査で得られる情報を組み合わせて解析することにより、乳酸菌の摂取が健康に及ぼす影響が明確になります。これらの結果と腸内細菌叢の解析結果を照らし合わせることにより、不明な点の多い乳酸菌摂取の意義を示す科学的エビデンスの取得が期待できます。さらには、東北メディカル・メガバンク計画で解析を検討している口腔内細菌叢*7との照合により、腸内細菌叢と口腔内細菌叢との関連やそれらが健康に及ぼす影響について解析することも可能となります。

2.データ収集方法

(1)本研究は、ToMMo地域支援白石センターにおいて地域住民コホート調査及び三世代 コホート調査の詳細二次調査に参加する20歳以上の男女を対象とします。

(2)地域住民コホート調査および三世代コホート調査のために地域支援白石センターへの来所を予約された方に採便キットならびに採便時状況調査票を郵送し、自宅において採便・調査票記入後、地域支援白石センター来所時に回収します。

3.研究の特徴

これまで腸内細菌叢解析と疾病罹患、生理機能低下に関する研究は、生理機能検査が基準値の範囲外の者や疾病罹患者と健常人との比較対象研究が中心でした。具体的には、がん、炎症性腸疾患、アレルギー疾患のみならず、肥満や精神疾患などの種々の疾病罹患者において、健常人に比べ腸内細菌叢のバランスの乱れが観察されています。これらの研究により、腸内細菌叢と疾病等の関連は推察できますが、その因果関係を示すには至っていません。本課題を解決するためには、コホート対象の詳細な生理機能の解析と腸内細菌叢解析データの大規模な調査が必要となります。そのために東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査および三世代コホート調査において、腸内細菌叢と疾病罹患および生理機能との関連性を調査することにいたしました。

これにより、既に実施したベースライン調査*8における疾病罹患情報、生理機能情報と腸内細菌叢との関連性の横断解析が可能となります。また、東北メディカル・メガバンク計画で解析する口腔内細菌叢との照合により、腸内細菌叢と口腔内細菌叢との関連やそれらが健康に及ぼす影響を検証することができます。さらに、追跡期間中に新たな疾病や生理機能低下が見られた対象者の腸内細菌叢に着目することにより、疾病罹患や生理機能低下に至る過程における腸内細菌叢を解析することも可能となります。これらの解析により、腸内細菌叢を標的とした新規の疾患予防法や治療法の創出、予防医学に基づく乳酸菌摂取の生理的意義を明らかにできることが期待され、今後の日本人の健康維持に貢献できる科学的エビデンスを創出することができると考えています。

<共同研究の概要>
共同研究の概要

4.研究の役割分担について

ToMMo
  • 地域住民コホート調査及び三世代コホート調査のために地域支援白石センターに来所予約された方へ向けた採便キットならびに採便時状況調査票の送付
  • 採便キットならびに調査票の回収およびデータの集計、管理
  • 収集されたデータと、東北メディカル・メガバンク計画で取得したデータを合わせた解析の実施
ヤクルト
  • 本調査に掛かる費用の負担
  • 腸内細菌叢解析
  • 収集されたデータと、東北メディカル・メガバンク計画で取得したデータを合わせた解析の実施

5.実施期間及び場所

共同研究の期間:
2018年4月1日~2021年3月31日

※現在の東北メディカル・メガバンク計画の実施期間に合わせて研究期間を設定していますが、最長で2028年3月31日までの研究計画であり、今後継続に係る検討、調整を行います。

実施場所:
東北大学 東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)
株式会社ヤクルト本社 中央研究所

6.今後の展開

(1)スケジュール
2018年4月1日(日)より、東北メディカル・メガバンク計画の地域住民コホート調査または三世代コホート調査のために地域支援白石センターへの来所を予約された方に向けて、採便キットならびに採便時状況調査票の発送を開始しています。
(2)期待される将来の社会的価値
本研究で得られる知見は、予防医学に基づく乳酸菌摂取の生理的意義の明確化に繋がり、研究対象者のみならず広く国民の健康維持に貢献することが期待されます。また、腸内細菌叢や口腔内細菌叢を標的とした疾病予防や治療法の創出に利用できることも期待されます。

用語説明

*1.腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)
ヒトの腸内にはおよそ1000種類、約100兆個もの細菌が存在し、複雑な微生物生態系が形成されています。これは、腸内細菌叢と呼ばれ、ヒトの健康に大きな影響を及ぼしていることが知られています。近年、腸内菌叢研究は世界的にも急速に進展し、腸内菌叢の宿主の健康に対する影響は、腸管の疾病にとどまらず、がんなどの生活習慣病や、精神面にも及ぶことが明らかにされつつあります。
*2.東北メディカル・メガバンク計画
東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。東北大学東北メディカル・メガバンク機構と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、2013年より合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査等を実施して、試料・情報を収集したバイオバンクを整備しています。
*3.コホート調査
ある特定の人々の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因・遺伝的要因などと疾病発症の関係を解明するための調査のこと。
*4.詳細二次調査
2016年度までにコホート調査に参加した方にお願いする、2回目にあたる健康調査で、最初に調査に参加いただいた時点から健康状態がどう変化したかを把握・分析します。調査内容は生活習慣や食習慣に関するアンケート、血液・尿検査、生理学的検査などです。参加者は2回目の調査から加わる新しい検査等により、さらに詳しく健康状態を知ることができます。本調査はすでに2017年6月1日(木)から開始しています。
*5.オミックス情報
病気に対するリスクを反映して血液中や尿中の量が変化するような物質を、疾患バイオマーカーと呼びます。この様な物質を測定することにより、病気の予防や早期発見に役立てることができます。コホート調査の参加者から頂いた血液や尿を試料として、タンパク質や低分子化合物などの網羅的測定を行うことにより、有用な疾患バイオマーカーが見つかることが期待されます。このような網羅的測定、およびその比較解析は「オミックス解析」と呼ばれ、先進的な個別化予防・個別化医療の実現とともに、病気の原因解明や治療法開発のためにも大変重要とされています。
*6.バイオバンク
解析研究に用いることを目的とし、試料・情報を収集して長期間保存し、解析を行う研究機関に分譲するシステムのこと。
*7.口腔内細菌叢
口腔内に存在する細菌の生態系。腸内同様に、ヒトの口腔内には多種多数の細菌が存在し、複雑な微生物生態系が形成されており、ヒトの健康に大きな影響を及ぼしていると考えられています。
*8.ベースライン調査
2013年5月より20歳以上の成人を対象とした地域住民コホート、妊婦を起点とした三世代を対象とした三世代コホートの2つのコホートを実施、いずれも生活習慣を中心にした調査票情報、採血調査等のデータを収集しています。宮城県内7か所にある各地域支援センターでの詳細検査に協力いただいた参加者は頸動脈エコー、呼吸機能検査等も実施しています。

問い合わせ先

研究に関すること

株式会社ヤクルト本社
広報室
担当 入口 浩一(いりぐち こういち)村山 大樹(むらやま ひろき)丸山 英輝(まるやま ひでき)
電話番号:03-3574-8920

東北大学 東北メディカル・メガバンク機構
予防医学・疫学部門
担当 寳澤 篤(ほうざわ あつし)
電話番号:022-274-5991
Eメール:hozawa"AT"megabank.tohoku.ac.jp

報道に関すること

東北メディカル・メガバンク機構
広報・企画部門
長神 風二(ながみ ふうじ)
電話番号:022-717-7902
FAX番号:022-717-7923
Eメール:f-nagami"AT"med.tohoku.ac.jp

AMED事業に関すること

国立研究開発法人日本医療研究開発機構
基盤研究事業部 バイオバンク課
電話番号:03-6870-2228
Eメール:tohoku-mm"AT"amed.go.jp

※E-mailは上記アドレス“AT”の部分を@に変えてください。

掲載日 平成30年4月12日

最終更新日 平成30年4月12日