プレスリリース レンチウイルスベクターの産生を飛躍的に増大させる方法を開発―遺伝子治療用ベクターへの応用に期待―

プレスリリース

国立大学法人 東京医科歯科大学
国立研究開発法人 日本医療研究開発機構

ポイント

  • レンチウイルスベクターは遺伝子治療に広く使われることが期待されていますが、接着細胞を使って一過性遺伝子導入によりウイルス粒子を作製しなければならず、大量生産のための技術開発とコストダウンが課題とされています。
  • 追加遺伝子(Taxなど)を発現させて、細胞に導入した遺伝子からの転写を促進することにより、大幅なウイルス粒子産生増大を実現する方法を開発しました。
  • レンチウイルスベクターの安全性確保にも配慮し、今後医療用あるいは前臨床試験用レンチウイルスベクターの大量製造に寄与することが期待されます。

概要

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科ウイルス制御学分野の山岡昇司教授と芳田剛助教の研究グループは、遺伝子治療等に使われるレンチウイルスベクターの産生を飛躍的に増大させる方法の開発に成功しました。この研究は文部科学省科学研究費補助金(26860302, 18K07143)、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業(JP16fk0108315)ならびに日本白血病研究基金の支援のもとでおこなわれたもので、その研究成果は、国際科学誌Scientific Reportsに、2018年10月11日午前9時(グリニッジ標準時間)にオンライン版で発表されます。

図1

研究の背景

レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の有害な遺伝子をすべて除去した後に発現させたい遺伝子等を組み込んで作製します。近年は分子生物学実験における遺伝子導入のみならず、ヒトの遺伝性疾患に対する遺伝子治療や癌の免疫療法などへの応用が期待される有力な手段として開発が進められています。レンチウイルスベクターは通常、293Tあるいはその派生細胞株にウイルスを構成するためのタンパク質と遺伝子を発現するプラスミド遺伝子を一過性に導入することで作製されます。使用する細胞株が接着細胞であることと一過性遺伝子導入に依存しなければならないことが、医療や前臨床試験等に必要な大量のレンチウイルスベクターを安価に製造する上で大きな障壁となっていました。放出されたウイルス粒子の濃縮や精製のための技術は様々に開発されてきたものの、細胞からのウイルス産生自体を向上させる技術開発は充分ではありませんでした。研究グループは、これまでのヒトレトロウイルス研究の手法と成果をもとに、レンチウイルスベクターの産生を飛躍的に向上させる遺伝子を探索し、同時にその安全性についても検討しました。

研究成果の概要

レンチウイルスベクターを構成するためのプラスミドとともに、ヒトの内在性遺伝子産物SPSB1あるいはヒトT細胞白血病ウイルスの転写促進因子Taxを発現するプラスミドを同時に産生細胞に導入することにより、レンチウイルスベクター産生用遺伝子の転写を促進し、ウイルス粒子産生と標的細胞への遺伝子導入効率を飛躍的に増大させることに成功しました。

とりわけTaxを共発現させることでレンチウイルスベクターによるヒトT細胞株への遺伝子導入効率は10倍を超えて増大しましたが、濃縮・精製したレンチウイルス粒子内へのTaxの取り込みは認められず、安全性が確保されていることもわかりました。

図2
Tax発現プラスミドを細胞に導入することにより、放出されたレンチウイルス粒子量が飛躍的に増大する。
図3
Tax発現プラスミドを細胞に導入することにより、標的細胞への遺伝子導入効率が飛躍的に増大する。

研究成果の意義

細胞からのレンチウイルスベクター産生量を増大させる技術は、医療用あるいは前臨床試験用に必要な大量のレンチウイルスベクターの産生コスト削減に貢献することが期待されます。

論文情報

掲載誌:
Scientific Reports
論文タイトル:
Robust Enhancement of Lentivirus Production by Promoter Activation

研究者プロフィール

芳田剛
東京医科歯科大学
ウイルス制御学分野 助教
研究領域 ウイルス学

山岡昇司
東京医科歯科大学
ウイルス制御学分野 教授
研究領域 ウイルス学

問い合わせ先

研究に関すること

東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
ウイルス制御学分野 山岡昇司(ヤマオカショウジ)
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E-mail:shojmmb"AT"tmd.ac.jp

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掲載日 平成30年10月11日

最終更新日 平成30年10月11日