プレスリリース 卵子提供、代理懐胎など第三者を介する生殖補助医療と出自を知る権利に対する国内の意識調査について

平成30年11月1日プレスリリース

東京大学
日本医療研究開発機構

発表者

平田 哲也(東京大学医学部附属病院 女性外科 講師)
大須賀 穣(東京大学医学部附属病院 女性外科 教授)

発表のポイント

  • 卵子提供、胚提供、代理懐胎などの「第三者を介する生殖補助医療」および「出自を知る権利」に関する意識調査を2500名に対して行いました。
  • 「第三者を介する生殖補助医療」や「出自を知る権利」に対する意識は、肯定的な意見が否定的な意見を上回っていますが、その差は、回答者の性別、年齢、不妊経験の有無などに影響を受けていることがわかりました。
  • ほとんどすべての質問において30%以上の人が「わからない」と答えていることから、社会的合意を得ていくには、知識の提供と議論の活発化が必要です。そして、法整備やルール作りの際には、これらの議論を踏まえることが必要となります。

発表概要

東京大学医学部附属病院 女性外科の平田哲也講師、大須賀穣教授らは、「第三者を介する生殖補助医療」「出自を知る権利」に対する国内の意識調査をWebアンケートで行いました。第三者が関わる生殖補助医療に関する課題に向き合う法整備、ルール作りが行われていない現状を踏まえ、今後の法制化の可能性も視野に入れて意識調査を行いました。「第三者を介する生殖補助医療」や「出自を知る権利」に対する意識は、肯定的な意見が否定的な意見を上回っていますが、その差は性別、年齢、不妊経験の有無などに影響を受けていることもわかりました。 

一方で、ほとんどすべての質問において30%以上の人が「わからない」と答えていることから、社会的合意を得るためには、これらの問題の知識を提供し、議論を活発化させる必要があると考えられます。本研究成果は、これらの結果も踏まえて、早期の第三者が関わる生殖補助医療に関する課題に向き合う早期の法整備やルール作りにつながることが期待されます。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「成育疾患克服等総合研究事業」の「生殖補助医療により出生した児の長期予後と技術の標準化に関する研究(研究開発代表者:苛原稔)」及び「生殖補助医療の技術の標準化と出生児の安全性に関する研究(研究開発代表者:苛原稔)」により実施され、日本時間11月1日に米国の科学雑誌PLOS ONEにて発表されます。

発表内容

研究の背景

不妊症は、カップルの1~2割に見られ、晩婚化に伴い、不妊に直面する夫婦は増加しています。近年、生殖補助医療が進歩し、わが国でも出生児20人に1人(2015年)が体外受精で生まれています。生殖補助医療により、難治性の不妊症に対して、妻以外の第三者の卵子、子宮で妊娠をすることが可能となりましたが、倫理的な問題も出てきました。現在国内では、このような第三者を介する生殖補助医療に関しては、学会の自主規制により行われており、法的な規制や公的ルールは存在しません。また、現在このような治療を日本で行うことは事実上困難となっていることから、海外に渡航をして治療を行う患者さんも少なくありません。そこで、第三者の卵子、子宮による生殖医療を国内で行うことについての可否や、仮に行うこととした場合には、適切に行っていくにはどのような形で進めていくかについて、社会的合意形成が必要と考え、生殖補助医療に対する国内の意識調査を行いました。

研究手法と成果

今回、無作為に大規模なデータ収集を行うために、選択式のwebアンケートの形式で配信し、アンケート内容を説明したうえで回答することに同意された20歳~59歳の男女2500人(20代、30代、40代、50代の各年代男女等分割、各グループ312人もしくは313人)より回答を得ました。また、アンケートへの回答は、「第三者を介する生殖補助医療」についての詳しい説明を読んだ後に選択してもらうこととしました。調査は、東京大学医学部の倫理審査委員会の承認を得たうえで2014年2月に行いました。

  1. 精子提供、卵子提供、胚提供(注1)に対して、全体で36.2%の人が社会的に「認めてよい」と考え、26.6%が「認めるべきでない」と答えました(図1)。男女ともに50代で「認めるべきでない」と答えた人が多くいました(男性:35.6%(50代)vs 20.8% (20代)、女性:34.3%(50代)vs 23.1%(20代))。また、男女ともに、不妊経験のない群に比較して、不妊経験のある群で「認めるべき」と答えた人が多くいました(男性:45.1% vs 35.5%、女性:44.9% vs 33.7%)。
  2. 代理懐胎(注2)については、40.9%が社会的に「認めるべき」と考え、21.8%が「認めるべきでない」と答えました(図1)。また、男女ともに、不妊の経験のある群では、不妊経験のない群に比較し、社会的に「認めるべき」と考える人の比率が有意に高い結果となりました(男性:50.8% vs 40.1%、女性:51.7% vs 38.1%)。
  3. 回答者自身が、他の方法で妊娠しないような不妊であったと仮定し、それぞれの第三者を介する生殖補助医療を行うことを選択するかどうかについて質問しました。いずれの方法も、「配偶者が希望すれば行いたい」と答えた人は、男性に多く、高齢になるにつれて少なくなりました。例えば、卵子提供については、20代男性の38.1%、50代女性の11.2%が、代理懐胎については、20代男性の41.7%、50代女性の12.8%が「配偶者が希望すれば行いたい」と答えました(図2)。
  4. 「出自を知る権利(注3)について、生まれてくる児に認めるべきかどうか」については、46.3%の人が認めるべきと考え、20.4%の人が認めるべきでないと答えました。50代では特に「認めるべきでない」と答える人が多くいました(男性:27.2%(50代)vs 14.7%(20代)、女性:29.5%(50代)vs 13.1%(20代))。また、男女ともに、不妊経験のある群は不妊経験のない群に比較して、「認めるべきでない」と答えた人が多くいました(男性:28.7% vs 20.0%;女性:29.7% vs 17.7%)(図3)。
  5. ほとんどすべての質問において、30~40%強の人が、「わからない」と答えました。

本研究の社会的意義

「第三者を介する生殖補助医療」や「出自を知る権利」に対する意識は、肯定的な意見が否定的な意見を上回っています。ただし、その差は性別、年齢、不妊経験の有無などに影響を受けていました。一方で、ほとんどすべての質問において30%以上の人が「わからない」と答えていることから、社会的合意を得るためには、これらの問題の知識を提供し、議論を活発化させる必要があると考えられます。本研究成果は、「第三者を介する生殖補助医療」に関する課題に向き合う早期の法整備やルール作りにつながることが期待されます。

発表雑誌

雑誌名:
PLOS ONE(オンライン版:米国東部夏時間10月31日)
論文タイトル:
A survey of public attitudes towards third-party reproduction in Japan in 2014
著者:
Naoko Yamamoto, Tetsuya Hirata*, Gentaro Izumi, Akari Nakazawa, Shinya Fukuda, Kazuaki Neriishi, Tomoko Arakawa, Masashi Takamura, Miyuki Harada, Yasushi Hirota, Kaori Koga, Osamu Wada-Hiraike, Tomoyuki Fujii, Yutaka Osuga
* 責任者(コレスポンディング・オーサー)
DOI番号:
10.1371/journal.pone.0198499
アブストラクトURL:
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0198499

用語解説

(注1)精子提供、卵子提供、胚提供
不妊症のためにそれ以外の方法で挙児を得ることができない場合に、夫婦以外の第三者から精子または卵子、または胚(受精卵)の提供を受け、それを用いて得られた受精卵を妻の子宮に入れて、妊娠、出産を目指す方法。精子提供の場合は、生まれてくる子供と夫に遺伝的なつながりはなく、卵子提供の場合には、生まれてくる子供と妻に遺伝的なつながりはない。また、胚提供の場合には、生まれてくる子供と夫婦に遺伝的なつながりはない。
(注2)代理懐胎
妻が子宮を先天的に持たない、もしくは病気で摘出後の場合に、夫の精子と妻の卵子を受精させて得られた受精卵を、妻以外の第三者の子宮に移植する。遺伝子としては、夫婦の遺伝子を受け継ぐが、法律上では、出産した第三者が母となる。
(注3)出自を知る権利
自分がどのようにして生まれてきたか、自分の遺伝的ルーツなどを知る権利のこと。第三者を介する生殖補助医療の場合に、遺伝上の親が誰かという事実を、生まれてきた子供に知らせるべきかどうかという倫理問題が生じる。生まれてくる子供の福祉のために、出自を知る権利を保障すべきという考えもある一方で、欧州では、出自を知る権利を保障することで、精子提供者が減少しているという現実もある。

添付資料


図1 第三者を介する生殖補助医療を社会的に認めてよいかどうかについての回答結果

図2 回答者自身が他の方法で妊娠できない場合と仮定した場合に、卵子提供を利用することを望みますか?についての回答結果
図3 第三者を介する生殖補助医療によって生まれた子供について、「出自を知る権利」を認めるべきかについての回答結果

問い合わせ先

研究内容に関するお問い合わせ先

東京大学医学部附属病院 女性外科
講師 平田 哲也(ひらた てつや)
TEL:03-5800-8657
E-mail:thira-tky”AT”umin.ac.jp

 取材に関するお問い合わせ先

東京大学医学部附属病院 パブリック・リレーションセンター
(担当:渡部、小岩井)
TEL:03-5800-9188(直通)
E-mail:pr”AT”adm.h.u-tokyo.ac.jp

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最終更新日 平成30年11月1日