プレスリリース 脳小血管病の新たな疾患責任遺伝子を発見

平成30年11月10日プレスリリース

横浜市立大学
日本医療研究開発機構

横浜市立大学附属病院遺伝子診療科・宮武聡子講師、横浜市立大学学術院医学群遺伝学教室・松本直通教授らは、チューリッヒ大学、浜松医科大学、聖隷三方原病院、豊橋市民病院、森之宮病院、東京大学、重井医学研究所などとの共同研究により、脳小血管病の新たな疾患責任遺伝子を発見しました。本疾患の診断や臨床診療へのさらなる貢献が期待されます。

研究成果のポイント

  • 全エクソーム解析*1で、常染色体劣性遺伝性を示す脳小血管病の新規原因遺伝子COLGALT1を同定した。
  • 本遺伝子変異によって、新生児期~小児期の孔脳症、脳出血、白質脳症を発症する。
  • COLGALT1遺伝子は、コラーゲンたんぱく質の翻訳後修飾*2を行う酵素であるコラーゲンβ(1-O)ガラクトシルトランスフェラーゼ1をコードし、コラーゲンの成熟化に関わる。本酵素の活性が低下することで、細胞内のⅣ型コラーゲンの産生、および細胞外分泌が減少する。Ⅳ型コラーゲンは脳内の血管の構成要素であるため、これが減少すると血管がもろくなり、脳卒中を引き起こしやすくなると考えられる。

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業「希少難病の高精度診断と病態解明のためのオミックス拠点の構築」の一環として実施されました。

研究の背景

脳小血管病は、脳梗塞、脳出血、白質脳症などをきたす、比較的頻度が高い疾患で、脳卒中全体の最大50%を占めるともいわれます。そのうち約5%は遺伝性と考えられており、若年発症、家族内発症などが特徴です。COL4A1/COL4A2遺伝子は、Ⅳ型コラーゲンのα1/2鎖をコードする遺伝子で、遺伝性脳小血管病の疾患責任遺伝子として知られ、孔脳症や脳出血、白質脳症などを引き起こします。COL4A1/COL4A2遺伝子の変異により、細胞外へのコラーゲン線維の分泌が低下します。Ⅳ型コラーゲンは脳内の血管の構成要素であるため、これが減少すると血管がもろくなり、脳卒中を引き起こしやすくなると考えられています。

ところが臨床的にCOL4A1/COL4A2関連疾患を疑われる症例で、遺伝子解析を行っても、変異が同定されるのは20‐30%程度であるため、別の責任遺伝子の存在が想定されていました。

研究の内容

宮武講師、松本教授らのグループは、 臨床的にCOL4A1/COL4A2関連疾患を疑われた2例に全エクソーム解析を行い、COLGALT1遺伝子の劣性変異を見だしました。2例はいずれも、新生児期~小児期に孔脳症、脳出血、白質脳症を発症していました。

COLGALT1遺伝子は コラーゲンの翻訳後修飾を行う酵素であるコラーゲンβ(1-O)ガラクトシルトランスフェラーゼ1(以下ColGalT1と略す)をコードします。この酵素は脳血管を形作っているIV型コラーゲンに対して強い酵素活性を持ち、細胞外に分泌される前段階のコラーゲン(プロコラーゲンペプチド)の翻訳後修飾として、ガラクトースをヒドロキシリジン残基に付加します。私たちは、本酵素の発現、もしくは活性が低下・喪失することにより、細胞内のIV型コラーゲンの産生、および細胞外分泌が減少し、COL4A1/COL4A2関連疾患と同様の病態を引き起こすことを明らかにしました。

図1
(図1)
COLGALT1遺伝子の常染色体劣性変異が見つかった2家系と同定された変異を示す。変異はCOLGALT1遺伝子がコードするColGalT1の機能上重要な部位に位置するアミノ酸を別のアミノ酸に置換したり、ColGalT1を異常に短縮させてしまうような変異であった。
図2
(図2)
患者1および同じ年齢のコントロール3名の白血球を用いてColGalT1の発現を調べると、患者1でColGalT1が見られなかった。(左上)HT1080細胞*3を用いてCOLGALT1遺伝子の発現を抑制させると、細胞内、および細胞外のCOL4A1の発現が有意に減少した。(右上下、左下)
図3
(図3)
HT1080細胞を用いたレスキュー実験*4。野生型のCOLGALT1遺伝子でレスキューされるCOL4A1たんぱく質の正常な産生が、患者1, 2でみられた3種類のミスセンス変異をもつCOLGALT1遺伝子ではレスキューされず、この変異が病原性を持つことが示唆された。

今後の展開

本研究によって、脳小血管病の早期診断に貢献できる可能性があります。またその病態解明が進めば、脳小血管病の新しい治療法の開発にも寄与することが期待されます。今後モデル動物を作成しさらなる病態解明と治療法の探索を行う予定です。

今後の展開

本研究によって、脳小血管病の早期診断に貢献できる可能性があります。またその病態解明が進めば、脳小血管病の新しい治療法の開発にも寄与することが期待されます。今後モデル動物を作成しさらなる病態解明と治療法の探索を行う予定です。

用語説明

*1 全エクソーム解析:
ゲノムのたんぱく質を決める部分(エクソン)のDNA配列を次世代シーケンサーを用いて網羅的に解析する方法。
*2 翻訳後修飾:
たんぱく質が、遺伝子の配列に従って合成されたあとに、種々の化学的修飾をうけること。
*3 HT1080細胞:
ヒトの線維肉腫から樹立された細胞株。
*4 レスキュー実験:
ターゲットの遺伝子の発現を何らかの方法によって消失もしくは低下させた個体もしくは細胞に現れた表現型が、野生型、もしくは変異体のターゲット遺伝子を外から導入することにより正常に復するか調べる実験。

掲載論文

※本研究は、『Annals of Neurology』に掲載されます。(日本時間11月10日午前0時付オンライン)

タイトル:
Biallelic COLGALT1 variants are associated with cerebral small vessel disease
著者名:
Satoko Miyatake, Sacha Schneeberger, Norihisa Koyama, Kenji Yokochi, Kayo Ohmura, Masaaki Shiina, Harushi Mori, Eriko Koshimizu, Eri Imagawa, Yuri Uchiyama, Satomi Mitsuhashi, Martin C Frith, Atsushi Fujita, Mai Satoh, Masataka Taguri, Yasuko Tomono, Keita Takahashi, Hiroshi Doi, Hideyuki Takeuchi, Mitsuko Nakashima, Takeshi Mizuguchi, Atsushi Takata Noriko Miyake, Hirotomo Saitsu, Fumiaki Tanaka, Kazuhiro Ogata, Thierry Hennet, and Naomichi Matsumoto,
雑誌名:
Annals of Neurology

お問い合わせ先

本資料の内容に関するお問い合わせ

公立大学法人横浜市立大学 附属病院 遺伝子診療科 講師 宮武 聡子
公立大学法人横浜市立大学 学術院 医学群 遺伝学 教授 松本 直通
TEL:045-787-2606 FAX:045-786-5219
E-mail:miyatake"AT"yokohama-cu.ac.jp(宮武)
naomat"AT"yokohama-cu.ac.jp(松本)

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最終更新日 平成30年11月10日